見極めたいな……と思いまして

「さて、何処に行こうかな」

「海の見える街とかも素敵だと思いますよ!」

「海かあ……ちょっと遠そうだよな。この辺りだと魚も川魚か塩漬けの魚だし」

「うーん、遠いんですか」

「ああ。少なくとも3日や4日で辿り着くような場所じゃないな」


 街門を出て歩き始めたヴォードとレイアだったが、実のところ……明確な目的地があるわけではなかった。

 スダードの街以外の何処か。そんなぼんやりとした目標しか持ってはおらず、残ったカードもそれほどに余裕があるわけではない。


・【白カード】ファイアボルト×3、ヒール×2、ぷちラッキー、野営セット、アイスボルト×2、誰でもカリスマン、サンダーボルト×4、ロックシュート、木人召喚×3、そこそこ美味しいお肉、阻む暴風×2、厳選フルーツセット、念話、見えざる拳、天の落とし物、パワースラッシュ、トレジャーハンマー

・【銀カード】えっちなアメイヴァもどき、グレートヒール

・【金カード】浄化聖域


 数だけは多いが、ちょっと激しい戦闘があれば使い切ってしまいかねない。

 一応ミスリルの剣は使っても残るがヴォードは剣術の心得などないし、あまり高そうな武器をぶら下げていては逆に盗賊に襲われるかもしれない。

 出来る限り貧乏に見せかけるのが、盗賊に襲われる確率を減らす知恵でもあった。

 ……といっても、ヴォードの持っていた剣はすでにスクラップの為、もう使うしかないわけだが……そのミスリルの剣はレイアが持っている。悲しい事に、能力的にレイアが振った方が強かったのだ。


「まあ、目的地なんかないんだ。ゆっくり旅をしよう」

「……ですね!」


 目的があるような急ぐ旅ではなく、それ故に高い金を出して馬車に乗る必要もない。

 だからこそ、ヴォード達はのんびりと歩いて……後ろから可愛らしい動きで、しかし結構な速さで近づいてくる女に気付く。


「ん? あれは……」

「見ちゃダメです!」

「うおっ!?」


 レイアに素早く目を塞がれ、ヴォードは思わず声をあげてしまう。一体何故。そう思うのも当然の突然さであったが、レイアにしてみれば必然であった。


「そこのちょっと大きめだからって調子に乗ってそうな人! 止まりなさい!」

「は? 私ですか?」

「って、速っ!? どんな速さですか!」


 まだ声をかけた時には遠かったのに、すぐに目と鼻の先まで近づいてきた女に、レイアはヴォードを背後に隠すように……ちっとも隠れてはいないが、とにかくそんな心意気で前に立ち、女に正面から向かい合う。


「確かに私は女にしては身長高めとは言われますが……」

「そこじゃないんですよ!」

「はあ。それでは?」

 本気で分からない、といったような表情を浮かべる女に、レイアは「こんにゃろう……」と小さく呟く。

 それを何処と言うのは、レイアのプライドがひどく傷つく。レイアだって人並みにはある。というかレイアを神が手ずから創造した以上、レイアの容姿やスタイルは神の認めし黄金比率なはずである。少なくともレイアはそう思っている。

 しかし目の前にぶら下げられたモノを見ていると、心穏やかではいられないのだ。

 全力でそれを往復ビンタしてやりたくなるが、そうなれば負けを宣言したようなものである。


「……ヴォード様は惑わされませんよね!?」

「いや、何の話なんだ……」

「私がヴォード様にとって一番可愛いって話ですよ!」

「あー、なるほど」


 言われてヴォードも目の前の女を見てみるが、なるほど美しいと言い切れる外見だった。

 長く伸ばされた金の髪は美しく、同系色の目は切れ長で涼やかな印象を与えている。

 全体的に理知的な印象を持つ女の身体は赤を基調とした印象的な神官服に包まれており、火神を信仰する神官であろうと想像できる。

 しかし……一番印象的なのは、その大きめの胸だろうとヴォードは思う。

 恐らく一般的男であれば誰もが目が向くであろうし、事実レイアが何かに危機感を覚えるとすればそこであろうとも思う。


「大丈夫だレイア」

「……何がですか」

「俺は君以外の女性に好かれると思う程自惚れてない」

「その自己評価は私にとって都合いいですけど……」


 何とも複雑な表情をしているレイアをそのままに、ヴォードは女へと視線を向ける。

 ニコニコと優しげに笑う女からは、ヴォードに対する悪感情の類は感じられない。

 普段からそういった視線や感情に晒されていたから、ヴォードはコレに関してはかなり鋭敏だった。だからこそ、ひとまず何かしらのネガティブな用件ではないだろう……と、ひとまず判断する。


「えーっと……もし俺の自惚れでなければ、俺達を追ってきたように思えるんだが。これは間違ってるか?」

「いーえ、間違ってませんよぅ。私は確かに貴方達を追ってきましたから」

「そうか……ならたぶん知ってると思うんだが、俺はヴォード。ただのヴォードだ」

「そして私はレイアです。まず断言しておきますと、ヴォード様は私のですからね!」

「これはこれは、ご丁寧に。では私もご挨拶を」


 威嚇するレイアをスルーすると、女は神官服の胸元に五指を揃えた右手を置き、一礼する。


「私は火神に仕える神官戦士、ニルファと申します」

「……火神に仕える神官の正式な礼ですね。畏まった場で使うやつです」


 こっそりと囁いてくれるレイアに頷きながら、ヴォードはニルファに「こちらこそ、ご丁寧に感謝する」と返す。


「それで……俺に何の用なんだ?」

「そうですねえ。簡単に言いますと、貴方という人物を見極めたいな……と思いまして」

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