第二十三話 繰り上がったお別れ
そして次の日。
まだまだ私のテコ入れは続く。元がひどすぎたからね。
朝食が終わって午前中。
そう、次は義眼だって。義眼を魔石で作りピンポイントで認識阻害をさせて奴隷紋を隠すらしい。
というか、これだけ色々な事ができて、奴隷紋は治せないのか……。
そいえば図書室で奴隷に関する記述でみた。
奴隷紋の刻印はただの鉄印ではなくて、その紋自体に強力な魔術陣が込められている。
なのでそれを消すにはさらに上位の魔術でなければいけないらしいのだ。
でも上位の魔術自体がもう寂れていて文献が残っていないらしいので、実質消すのは不可能らしい。
うーん、望み薄いけどいつかどこかの図書室でこの情報も集めよう。貴族になるなら色々な図書室に行けるチャンスはあるよね?
義眼の制作には1週間ほどかかるそうなので、グラファード様が無理のないようにって言っておいた。
今日は義眼のサイズや挿入するときのスペース、現在の眼球の状態などを診察しに来た。
私は初めて見るおじいさん先生だけれど、私が死にかけたときに診てもらった先生が来ていた。
「こちらはバルトバイツ先生です。この城で医務を務めていらっしゃいます」
「お~元気になったようじゃな!それに綺麗になった」
「は、初め……まして、ベルトバイツ先生、ニ……アイリーンと……申します」
「ククク……バルトバイツじゃ。まぁよいじゃろ」
私は完璧に挨拶できたと思ったけど、ぷるぷる震える挨拶は名前を間違えて大失敗だった。
あと自分の名前も間違えそうになった。そして丁寧に先日のお礼をいった。
命を救ってくれた先生だもんね。それに……このおじいさん……もといバルトバイツ先生も近寄られても平気だった。
いや、たぶん死にかけてる間ずっと看病してもらったはずなので、身体が拒否反応をしなくなったということかも。
メイファさんの時もそういう感じで仲良くなったし。
あとこの見た目になったから、少し自信がついたのかなぁ?だといいな。
この見た目で漏らしたら最悪の絵面だと思うよ……。
それにしても、名前を間違えた私にも優しく対応してくれた。すごい人格者だ。
診察はお腹のあたりに手を当てて魔力で診ているようだ。診察もこっちの世界流なんだね。
手頬にあて、口を開けるように指示して中を診ているようだ。虫歯はないはず。
喉もいがいがしてないし、今の私はかなり調子がいいと思う。
次に目の診察だ。左目の視力や遠近感を確かめている。そしていよいよ右目。
いつもは閉じたままにしているんだけど、人にぐいって開けられるのは怖い。
ん……っ。
大丈夫……とくに痛くもない。
私の右目は何もない。眼球以外は機能しているので中が干からびてるってことはない。
湿っている状態なので、季節次第では消毒が欠かせない。今までは保健室でやってたけど、こっちに来てからは……。
結構たってるけど大丈夫かな……?
なにかピンセットのようなもので処理している。自分じゃみれないから怖い……。
消毒と出血部位の確認。義眼をいれる前措置など手際よくこなしていった。
「義眼が出来るまでは、毎日消毒しに来るからな」
「……はぃ。あ、ありがとうございます」
結構処置に時間がかかってたから、大変な状態だったんじゃないかな?
バルトバイツ先生は助手を連れて帰って行った。
その後、後ろに控えていたグラファード様が寄ってきた。
「おわったようだな。アイリーン」
「あ……ご、ごきげんよう。グラファード様」
「ふふ……その調子だ……それに……綺麗だ」
「ふひ?」
んー?髪のこと言ってるのかな?これはメイドの大勝利だね!
グラファード様も私の毛先を跪いて手に取っている。はーやっぱり美形は絵になるね。
メイドの二人も顔を赤くしてグラファード様を見ている。
すごい効果だ。
「義眼の大きさを決めるから少し時間をくれ」
「……はひ」
私はそのまま目を瞑って少し上を向いた。右頬に優しく手を触れて、私の瞼を持ち上げている。
バルトバイツ先生も丁寧にやってたとおもうけど、グラファード様はそれより優しく扱ってくれているようでうれしくなった。
頬に触れている手は少し熱を持ったように温かい。ただ触れているだけなのに気持ちいがいいね。
そのまま終わるまで私はその温かさを感じていた。
「ん……これくらいか。魔石も問題なさそうだな。早速制作に取り掛かろう」
手が離れていったので、私は目を開けた。すごく近くにいたことに今気が付いた。ちょっとびっくりしたけど、嫌じゃなかった。
それと手が離れていくのはちょっと寂しく感じた。
グラファード様は挨拶もさながら、すぐに去って行った。
そして今日は午後からまた講義をしてくれるので昼食後に呼び出された。
午前中は貴族令嬢としての知識、所作、嗜みとして踊りを教えてくれるって。
ちなみに楽器は無いらしく、音楽は教会の歌のみだって。教会関係者は必須らしい。
私はとりあえず何にも知識がないので、そこからだ。
貴族になると爵位をもらうらしい。身分的には……
大まかに公爵が一番偉くて、あとは伯爵になる。伯爵では細かく侯爵・子爵・男爵とあるが基本は伯爵という位置になるらしい。そして騎士は身分的には男爵より低い身分になるけれど、基本的に忠誠を誓う主にしか忠実な命令を聞かない。帝国ではまた違った位になるそうだ。
私は一応侯爵の令嬢ということになるそうだ。まぁどれでもいんだけど。
ただ身分差が重要だし挨拶や礼儀作法が変わるので注意が必要だそうだ。絶対間違えそう。
それから女性はお茶会に呼ばれるので、お茶会での挨拶や所作を覚える必要がある。それに基本的に公の場に出る場合の動きは必須だそうだ。簡単に説明されたけど、練習が必要だよね……。
例えば、お茶の飲み方。両手でカップを持ってはいけないとか。マリがお手本をみせて私が真似をしていく。
椅子の座り方、姿勢、ゆったりとした動き。確かに優雅だね。
私は何度も練習した所為で、お腹いっぱいになってしまった。
練習だから飲まなくてもいいのにちゃんと飲んでたから。
それから色々な貴族の集まりがあるので、社交の踊りを覚えないといけない。
これはネネが男性役をやってくれた。でもはっきり言って病み上がりだからあんまり動けない。
へっぴり腰のダンスは情けなくて泣きたくなった。
一通りやって、だいぶ疲労がたまったところで休憩しているとネルがやってきた。
「ニア……じゃなかったアイリーン様。失礼いたします」
「ごご、ごきげんよう。ネル様」
私は貴族風の挨拶をしてニコリと笑って見せた。
「アイリーン様アイリーン様、ネル様はこんどから目下になるので、ネル殿とお呼びするのが正しいのですよ」
とこっそり教えてくれた。え!?まちがえちゃった。
「うんうん。ちょっとぐらいいいよ!がんばってる証拠だし!それにニアに様で呼ばれるのって新鮮だよ」
「ま、まちがえ……ちゃった」
ああ恥ずかしい。でもネルだからよかったけど、王都で間違えたらすごい酷いことになりそう。早く覚えなきゃ。
それからネルと少し話をしたら、なんと今日出立らしい。
ええー?日数が合わない気がまだあと3日あるよね?とマリを見たけど、答えてくれない。
私は贈り物まだ用意していない……。午後からなのでまだちょっと時間があるそうだ。
私はマリとネネに事情を話して、急いで調理場を借りる手配をしてもらった。
料理人もお手伝いで手伝ってくれるそうだ。
「贈り物……用意……する!ネル……すこし……まって」
私は急いで調理場に移動した。今は厨房は昼食の準備中で忙しい。
一角だけ開いてたのでそこで調理させてもらう。さすがはお城の厨房。素材がいっぱいある。
えーと、傭兵団が15人とアイルス一家が3人だから18人分を作らないといけないね。
簡単なメニューと時間のかかるものとうまくバランスとって作らなきゃ間に合わない。
クリームシチュー、アムール魚のムニエル、ニッカトリスソテー、オルク肉のサイコロステーキ、腸詰ポトフ、トルティージャなど作れそうなのを、手伝ってもらいながらどんどん作っていった。ジャガイモもどきがたくさんあるから、結構いろんなものが作れるね。
味見して良ければ、すぐ量産して革袋に突っ込む。あと邪魔な私の私物は出しておいたから、今は料理しか入って無い。
リンゴもあるから見習いコックを呼んですり下ろさせた。蜜と合わせて大量のジュースとリンゴのデザートもいれておいた。もう限界まで動いたからギリギリだ。
私が賢明に作っていたら、コックの数名が台越しに後ろで凝視していた。
どうやらメモを取っていたようだ。別にレシピが流出してもご飯が美味しくなるならいいよね。
本当はもっと作りたかったけど、もう限界だ。革袋にはまだまだ余裕があるけど、私はもともと何にも物をもってないから、渡せるものなんてないよね……。
とりあえずやれることはやった。急いでネルに会いに行こう。
マリとネネが待機していてくれて、私は歩くのが遅いのでネネに抱えられた。
もう出立準備がおわって、門のところで待ってるらしい。
「ま……まって」
門のところではクラウス様とアイルス一家が話をしていた。他の面々はもう出る準備が終わって待機中だ。
ネネは猛スピードで近くまで走ってくれた。私はお姫様だっこされて来た。
「お……おまちに……な……ぜひぃ……ぜひぃ」
「ひぅ……お、おまたせ……しました」
私はネルの近くまで寄って、手を取る。私は走ったわけじゃないけど、息が結構あがっていた。
ネルは大丈夫だよと私の息が整うのを待ってくれた。
「ネル……今までありがとう……ずっと友達……ずっと……」
「うん!ずっと離れても友達だよ!必ず帰ってくるから!」
「まってる……ね……ぅ……ぐす」
私はネルに抱き着きお礼を伝えた。そして例の革袋を渡す。
いっぱい食べてね。そういって彼を見つめると……。
笑って別れるつもりで笑顔だった彼の顔から、大粒の涙がこぼれていた。
「アイリーン様……いや、ニア……反則だよぉ……ぐす……うわああああ」
「……ふひひ……みんな……仲良く……ね」
私はそういってネルの頭を撫でた。いつもして貰ってばっかりだからこうしてあげたかった。
だって一応私がお姉さんだもん。すこしはお姉さんらしいことをしたかったのだ。
ドーバンさん達にはこの姿を見せてなかったから、びっくりしているようだ。でもすぐに私だとわかってくれてうれしい。
さすがにドーバンさんは一番良くしてくれたから、挨拶しておこう。
「ドーバン……さん……ありがとう!……あたま……なでて……ほしい」
そういって私はドーバンさんに抱き着いた。旅の途中やお城でも怖いときはいっつも撫でて落ち着かせてくれていた。もうドーバンさんに頼れないから……。
最後にどうしても撫でてほしかったのだ。甘えられるお父さんなんて、今までいなかったから。
「かかっニアはこんなに綺麗になっても甘えん坊だなぁ!」
「ふぁ……」
「「ニアー!!!みんないつまでも友達だぞ!!!!」」
馬車で待機してた傭兵団のみんなも私との別れを惜しんでくれた。みんなの声がうれしくて、目の中に大きな海が出来た。
零さないように必死だった。私は笑ってお別れするって決めたんだから!
そして出発準備ができて、そのままお別れだとおもったら、何やら傭兵団が隊列を組んで並んだ。
中心にはアイルスさん一家だ。
ダンダンッ!ザッ!
全員が兵隊さんの隊列のポーズをっとって跪き、胸に拳を当てて……
「「我ら、常に戦友ニアと共にあり!!!」」
私は笑顔のまま、決壊した涙がボロボロと零れて落ちた。
私は友達がほしい症候群 ~クラス転移しちゃったから異世界で友達を作ります みくりや @hydrogenoxy
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