第二十一話 令嬢の準備その2

まだグラファードさんは私の寝ていたベッドで寝ているようだ。

よほど私の為に魔力を使ってくれたんだね。

私はハーブティーを飲みながら何となくベッドのほうを見た。ハーブティーはメイファさんが淹れたほどではなかったけど、3日間飲まず食わずで意識を失ってた私にはとても美味しく感じる。


「ニア様……一つお伺いしたいことがあります」

「……ふひ」

「……ニア様、隠しておいでだったので誰にも言ってませんが、その……奴隷でしたの?」

「っ!」

ばれた!?と思ったけど、どうやら味方になってくれるそうだ。

隠すなら隠し通してくれる。そうだよね。ローブがなければすぐばれちゃう。

私はマリさんには転移者のことは隠したまま、奴隷になった経緯を話した。

この話はマリさんとネネさんで共有して、二人だけで対処してくれるって。

それからこれからはローブを着るわけにはいかないから、対策が必要とのこと。

それについては、グラファードさんに相談するそうだ。

マリさんは一通りの仕事を終えて、戻って行った。これからもうちょっとで朝食らしい。




あれ?ベッドにグラファードさんを置きっぱなしだけど?

ちょっと~?


トントン……


「ニア?具合はどう?」


あ……ネルだ。わーい。

「……どう……ぞ?……ネル」

「ニア!もう大丈夫?心配したよ!!」

私はまだあんまり動けないからテーブルで座ったままだったけど、ネルは心配して駆け寄ってきた。私を心配しすぎたのか、抱き着いて私の回復を喜んでくれている。


「……ふひひ、だいじょうぶ」

「そうかっ!良かった……ほんとうによかったよ!」

「ニアが寝てるとき――


とその時。


「う……ん……こ、ここは?」


のそのそとグラファードが起きてきた。と同時にネルの時間が停止している。


……?

「……おは……よ……ございます」

「あぁ……すまぬ。魔力が減りすぎて寝てしまっていた。それに……っ!これは君のベッドじゃないか?なんで私が寝てるんだ?」

「…………つか……れてる……みたい……休息……必要」

「そうではなくっ!」

「ニア!そんなことしちゃだめだよ!」

「……?」

「なんで、何言ってるのって顔してるのぉ!?」

「もうよい。私は自室に戻る。ニアには淑女たる教育が必要なようだ」


なぜかグラファードさんは不機嫌な様子で去って行った。うーんおせっかいで怒らせちゃったかな?あとで謝ろう。


「あ、あぁそうしてくれると助かるよ……」

「ふひひ……なんか……ごめん……なさい?」


「そういうとこだよぉぉおお!」


朝食まで、ネルと少し会話した。

久しぶりに私の元気な顔がみれてうれしかったみたい。

まだプルプルいってちゃんと歩けないから本調子ではないけどね。

結局、予定通りあと4日でアイエルさんの隊商は移動してしまうので、ネルとはそこでお別れらしい。

うぅ……はやすぎる。わたしは何で意識不明だったんだ!って3日前の私に怒りたい。

ドーバンさん達も皆行っちゃうみたいだねぇ……さみしくなるなぁ。でも友達だからね!すぐ会えるきっと。


そうだ。何か贈り物をしよう…何がいいかな?

うーん。旅するんだから…実用品がいいよね。そういえばマジックボックスって貴重なんだっけ?

隊商では持ってなかったはずだから、これに料理を詰めてあげるなんてどう?

結構入るはずだから、隊商のみんなの分も多少はいるはず。あとはどこで料理するか……お城の厨房に後でいってみよう。


朝食はお城で出されているものが出てきたけど、うん味がしない。

パンはぼそぼそ。

スープはお湯

チキンはぱっさぱさで野菜はくたくた。


うんテコ入れがひつようだ!

とりあえず二口ずついれてもうお腹いっぱいだ。


「お腹……いっぱいです。ごめんなさい」

「……謝らなくていいんですのよ」


私は謝るが、それより悲しそうな目で見られるばっかりで、はっきり言って嫌になってる。私そんな可哀そうな子じゃないと思うよ?異世界来たら割とツイてるし。

友達もできたもんね!


さて、朝食が終わったら……このお城図書室あるかな?暇なら行きたいな。なんて考えてネネさんに聞いた。結構大きい図書室があるらしい。ただこの後はお着換えして、グラファードさんの部屋に行ってお話をするように言われている。

昼食はまだ私が貴族らしい所作ができないので、不参加だそうだ。私に貴族ができるのか不安になってきた。


とりあえず養女として領地に知らしめないといけないので、お披露目会が開かれるそうだ。領の中の貴族がほとんど集まるらしい。

だからそこで下手なことをすると、要らぬいざこざが起きるらしい。大丈夫かな?私。一か月後にあるからそれまでに所作を覚えないと。



それから私は予定通りグラファードさんの部屋に来た。

メイドのネネさんと一緒だ。ノックしようとしたら止められた。メイドがするから私はしちゃいけないらしい。めんどくさ……。

入室許可がでて、中に案内される。

わぁ……難しい本や研究してたであろう模型や論文がたくさんある。

まるで研究室みたいでカッコいい。

私はめちゃくちゃキョロキョロしてた。挨拶も忘れて……。

「ニア……挨拶ぐらいなさい」

「……ひっ!すす……すみません。こん……にちは?」

「はぁ……まだ誰にも習ってないのか?」


あぁ……呆れられた。なんか本当に残念なものを見る目だ。ぐぞぅくやしい。この人は私をわざとイライラさせようとしてるんじゃなかろうか?

そしたらネネさんがお手本を見せてくれるそうだ。


こっこっこっ


ネネさんは何歩か前にでると、少し膝をおって、スカートの裾を両手とも摘まむ。そしてにっこり微笑んだ。あぁ可愛いね。カーテシーという挨拶らしい。


「ごきげんよう。グラファード様」

「ああ。よく来たね。ネネ」


ふぁぁ……なにこれ?バラがまいそうな映画のようなワンシーン。すごいカッコいいし綺麗だ!私は賞賛して感心していると、やってみなさいと言われる。そだよね。私のために実演したんだから。あと名前は様呼びが基本らしい。

ただ私はいま片足あげたら倒れるたぶん。

カーテシーの真似事をしてみる。

ぐぐぐ……。

「ごき……ごき……

すごいぷるぷるいってるぅ……

……げん……あっ」


どたっ!……ぐて。


「あっニア様!」

「まぁ練習なさい……いまはもうよいのでそこに座らせて」

「かしこまりました」


ネネが優しく抱きかかけて椅子に座らせてくれる。椅子堅いな。

お茶を出されて葉っぱの名前はわからないのでお任せした。そして落ち着いたところで本題だ。他の人は人払いされた。


まず貴族の令嬢になるにあたって、いろいろ偽装しなくてはならないらしい。

それはそうだ。奴隷()じゃね。鑑定もってる人いるよ絶対。

偽装はグラファード様のもつ特殊なスキルで行うそうなので、詳細以上のスキルを持ってないと見破れないらしい。

そして詳細の上位に心眼というスキルもあるって。私もいつか取れるらしい。そしてグラファードさんは心眼を持っているが、それはとても稀らしい。

詳細も領に一人いるかどうか、心眼は国に二人だけらしい。とてもレアスキルなんだね。それから普通の鑑定は領に10人ぐらいはいるんだって。よく私の名前バレなかったな。


ギルドカードは偽造なので調べればすぐばれるから破棄。だから新たに登録カードをつくる。あの王都の城で使われていた水晶が一個人の部屋にあるなんてすごいね。


まずは名前……名前はニアじゃダメらしい。長い名前ほど高貴な名前という文化があって、令嬢は大体4~5文字の名前らしい。2文字だと平民の子になるのが通例。じゃあモコでもだめってことか。

そうなるとだんだん自分から離れていってるようでなんでもよくなってくる。

「グラ……ファードさん。かんが……えて?」

「グラファード様。考えて下さらない?です。」

「グラファード様。ふひ……あ……かか考えて下さらない?です」

「ですはいりません」

「……クックハハアッ!」

「笑い事じゃありません!」

「ははっ久々に笑ったよ……じゃあ私も考えよう……」


うん……このひとはいつも難しい顔をしているけど、笑った方がいいね。

ふひひ……けっこうかっこいい。

そんなことを考えていたら、いつの間にか名前が『アイリーン』になっていた。可愛いけど私らしいかな?でもこれになちゃったからにはちゃんと答えられないと。


「アイリーン様?」

「アイリーン聞いているのか?」

「ふぇ……誰?あっ……私だ」


二人してこめかみをつかんで残念がってる。ごめんね。もういっぱいいっぱいなんだ。とりあえず名前と職業と称号を偽装してもらった。

あとは怪我はポーションで治るけど、そのほかは治せない。発育障害は栄養不足から来ているから、これから毎日お薬らしい。

渡された薬はグラファード様が調合したものらしい。


ごく…………まっず!


これは飲みたくない!けど飲まないと食事が少ししか食べられないからいつまでたっても治らない。それどころか徐々に死に近づいているらしい。

ちゃんと飲もう……。


いろいろ施してもらった正式なステータスがこちら

「……【ステータス】」

===========

名前 : アイリーン

レベル : 28

クラス : 人間

年齢 : 13

性別 : 女

状態 : 【呪い】【発育障害】【隻眼】【栄養失調】【衰弱】

職業 : 貴族

称号:令嬢

HP : 2 / 30

SP : 18 / 18

力 : 1

体力 : 1

器用 : 1

速さ : 1

知性 : 1

運 : -323754

スキル : 【鑑定】(【呪】【禁忌】【詳細】【アカシャ禁書3】 )hidden

【調合】【調理】【生活魔術】

===========


レベルがいつの間にか上がっているね。そしてラックが下がるという。いつもと同じ兆候。あれ呪いと禁忌って、自分で使えないし、調べられなかったけど、グラファード様ならわかるかな?











◇◇◇◇◇◇

読んでいただきまして有難うございます!

ご意見ご感想、それから★の評価もいただけるとモチベーションにつながります!

ぜひよろしくお願いします。


モコの人生がやっと好転してきましたね。


グラファード様と距離が近づくとともにネルも競争心を燃やします。


ではまた次回です。

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