第二十話 令嬢の準備その1

今日からお城が私の住む場所になる。

私はずっと住むことになりそうだけど、ネルたちはその後は旅にでちゃうのかな?

あとでちゃんと確認しておこう。

私は貴族待遇になるそうで、部屋をもらえるそうだ。

それから準備が済んだら、夕食には私も参加予定。貴族になるから汚い衣装じゃだめだって着替えなきゃだめらしい。

今は準備中なので客室を与えられて、そこで貴族らしい衣装に着替えと採寸だそうだ。

これから着るのはアルティーヌのおさがりらしい。


ちなみにアルティーヌは9歳。ネルと同い年だ。でも私より少しだけ身長が高い……。

衣装もちょっとだけぶかぶかだ。

だから、私がお姉さんになるのだけれど、かなり不服というか怒り狂ってる様子だ。

いまも……


「だ~か~らぁ!あたくしはあんたを姉だなんて認めないわ!」

「…………だめ?」

「……う、そ、そそそそそ~んな顔したって駄目です!」

「……ごめ……んなさい」

「……っ!……ふんっ!今に見てらっしゃい!」


どかどかどかっと去っていく。

うん、友達どころか義姉妹になれたんだけど、仲はマイナスになっちゃった。



私はいまメイドのマリさんとネネさんに脱がされている最中だ。

といってもローブとワンピースに靴とパンツぐらいしか身に着けていないから、一瞬でむかれた。

旅してきたし、しょっちゅう漏らすからパンツが汚い……とおもう。恥ずかしいな。

でもメイドの二人は嫌な顔しないでいてくれる。


「…………服……きたなくて……ごめん……なさい」

「いえ……それ……より……うそ……これっ」

「えぇ……こんな……これは緊急治療が……え?」


私の身体のこと言ってるのかな?でもいつものことだからもうあんまり気にしてないんだけど。

よく見れば、きったない身体だ。痣と切り傷、それも皮膚がめくれ上がってケロイドみたいになるやつで後が残っちゃってる。

あとは左足のやけど痕?それに頭部と背中はまだ痛い。


「……ニア様」

同情したのか、優しく抱きしめてくれるけど、わ、私はそれダメ!


「……あ……だ……めっ!…………でちゃうっ」

ちょろろろろろろろ……


またやっちゃった。お風呂の近くだけど、漏らしたのは普通に絨毯だから大惨事だ。

私をお風呂に入れて、おしっこの処理もてきぱきとやってくれた。

ごめんなさい。


「ニア様……近寄られるの苦手なんですか?」

「……ふひ……私……しら……ない……人……だめ……ごめん……なさい」


かなり悪いことしてしまったし、私のためにいろいろやってくれてるのに知らない人扱いなんて失礼だよね……。

私はかなりしょんぼりしてしまった。だって身体が勝手に反応しちゃう。これはいい加減に治したいな。


「……っ!いいんです!ニア様が悪いことなんて一つもないんです!」

「そうですよ!むしろ私たちが早く認めてもらえるように頑張ります!!」


ああぁやさしいね。もうちょっと、せめておもらししない程度には早くならないと。

そう誓いながらお湯につかってると、思いっきりのぼせた。

もう朦朧としていたので、なすがままだ。

抱き上げられたり薬を塗ったくられたり拭いてもらったりと至れりつくせりなのに、しっかり膀胱は反応して漏らしてしまう。

……うぅ。二人ともあきれてないかな?


今日はもう身体動かないぐらい疲れた。出し尽くしたのか信用したのか、どっちかもうわからないけど、今日はもうおもらししないでいられた。

それに抱かれてテーブルまで座らせてくれて、お茶したり、ベッドに運んでもらったりしてもらったけど、大丈夫だったよ。

二人は本当にすごかった。私に信頼されようとしているのが、すごく伝わってきてうれしかった。

むしろこんなにしてもらって申し訳ないなって思う。


「夕食までまだ少しお時間がございますので、それまでお休みください」

「……あり……がと……ござい……ます」


私はベッドのなかでペコリと頭を下げた。と同時に力尽きて寝てしまった。

私が意識を失ったように寝た瞬間に、シュババっと二人のメイドは高速で慌てて動き出したのだった。







しばらくして夕食会の時間


「……ニア様?……え!?……え?死んでる……?ニア様!ニア様ぁ!」

「何を騒がしくして……え?……うそ……死んでる?おおおおおお医者様を早く!!」

「はい!!!!!」


ものすごい速さで駆け出すと、ものの20秒で、初老の男性を抱えてやってきた、マリ。

ぜはぜはっと激しく息を切らせている。


「……つ、つれてきました!先生っお願いします!!!」

「と、突然なんだね!君たちはっ!この子を診ればいいのかね」

「はいっ!はやく!!!!」

「うむ…………傷と痣がひどいのぅ……それに……この紋は」


医師は、ニアの頬の紋をさすってつぶやく。


「い、いいから!生きてるの!?死んでるの!?」

ネネは興奮のあまり、ぐいぐいと男性の胸倉をつかんで乱暴に揺さぶっている。

「ぐ、ぐるしいぃい。はなさんかいっ!!!」

「……も、もうしわけございません。先生ですが、ネネ同様わたくしも気が気では無いのです」

「いや、いきとるよ?ただのぉ、このままだとすぐ死ぬぞ?」

「いやーーーーーーーーーーーーいやいやいやいや!!!!」

「ど、どうすれば!?」

「うーむ。主に危険なのは血液不足と栄養不足じゃそれがなけりゃどうにもならん」

「なにか栄養のあるものを食べさせれば?」

「いや、もうそんなに受け付けない段階じゃろ。最近は食べていたように見受けられるが、飢餓が酷くて少しか食べられなかったはずじゃ」

「……そ、そんな」


先生も困り果ててしまっている。それにマリとネネの二人はニアのあまりの状態の悪さにボロボロと泣いてしまった。

なんでこんなになるまで……。手の打ちようがない段階で絶望にくれた3人にとある人物が訪ねてきた。


「なにか問題でもあったのか?」

「グラファード様!た、大変なのです」

「グラファード殿か……いやこの子を診たんじゃが……今夜越えられるか微妙なぐらい弱っとる。血液不足と栄養不足、外傷も多すぎる」

「なっ!?気になっていたが、そこまで瀕死だとは……」

「それにネネ、彼女は軽かったじゃろ?」

「は、はいぃ……9歳のアルティーヌ様よりはるかに軽かったですニア様は……13歳なのにですよ?」

「ふむ……おそらく今に始まった話じゃなくて、もっと小さい頃……5年位は栄養不足で成長阻害がかかってる状態だと思う」

「……うそ……こんな小さい子が5年もこんな状態?」

「いや、よく生きてたもんじゃて……しかし、これはもう助からない。いや……助けない方がいいと思うんじゃが?」


この時代の医者なら状態が悪すぎて、そう判断してしまうのは当然だ。

領一番の名医と言われている先生がそう判断したのだから、誰も疑わない。


「……いやっ!これからこの子は令嬢になるって!」

「……そうです!なんとしても!なんとしても助けて下さいまし!!!」

「先生、私がすこし手を施して生命を活性化するので、そのあと治療をお願いできませんか?」

「グラファード殿……そこまで」

……

……

……







あれ?ここどこだっけ?私はだれ?って手があったかい?

見渡すとベッドの横で寄りかかって寝ている人がいる。


ってえええええええ?

なななななんでグラファードさんが私の手を握ってねてるのぉおおお!


ももももも…………もれっ!?ない?


そいえばこの人は大丈夫っぽいんだった。本当に大丈夫だとは……

大人の男性だからか、手が振りほどけないし、重い……。


「…………ぁ……の」


……


「……お……おき……てぇ」


……


それにしても……この人はたぶん20歳ぐらい?なのに中世的で綺麗な顔をしている。

まるで物語の白馬王子のようだ。魔術師の黒っぽい衣装を着てるから王子ぽくはないか。

でも髪も金と茶色が混ざってる感じなのにすごく綺麗だ。

なんて、眺めているとトコトコと誰か近寄ってくる。


「ニア様!!!よかったっ!目を覚まされたんですね!!」

とマリさんが喜んで抱き着いてきた。もうマリさんとネネさんに抱き着かれても、漏らすほどは怖くない。

私はグラファードがなぜここにいるのかと、手を放してくれないので恥ずかしさをごまかすように聞いた。

マリさんの話によると、私は死ぬ寸前だったらしい。今思えば、ずーっと身体が動かないというか、首から下が意に反して無反応だったのを思い出した。

また周りに心配かけちゃった。


それから生死をさまよってるのか、ずっと死んでるように寝こけていたらしい。

私が寝ているときは本当に死んでるように見えるらしいね。

で医務の先生を呼んできたけど、夜を超えるほどは持たないって判断だったらしい。

そこにグラファードさんがきて、魔力を注ぎ続けたことで、絶望的な生命力を継ぎ足したらしい。

いまの私の成分の半分はグラファードさんでできてるんだって。

どういうこと?


でも、私のために魔力を限界までつかったんだよね……ありがとうございます。

私はいつもドーバンさんにやってもらうように、彼の頭を撫でた。

「……ふひひ」

「……ニ、ニア様?グラファード様……をお慕いしてるんですか?」

「……ふへ?……か、かん……しゃしてる……だけ」

「そ、そうですか……」


そんなこと言われると意識してしまうからやめてほしい。ボッチには難しすぎた。

ちょっとびっくりして、慌てて否定しておいた。


「ところでニア様……あれから3日経ってしまいましたので、筋肉が落ちてます。すこし動きましょうか!」

え?そんなに寝てたの……夕食会どころの話じゃなかったね。

とりあえずマリさんには逆らえないので、グラファードさんの手をマリさんにどけてもらって、ベッドから降りた。

私が下りたので、ベッドにグラファードさんを寝かしておくようにマリさんにお願いした。

ちょっと渋ったけど、何度かお願いしてやってもらった。


私は久々に立ったので、生まれたての小鹿状態だ。

立てるし歩けるけど、プルプルしててあぶなっかしい。

あまり力が入らずに、マリさんに手を引いてもらってる。


「……す、すぐあるけるようになりますよっ!じゃあ初日なので、これでお茶にしましょう?さっ!テーブルへどうぞ」

うんハーブティーが飲みたいな。あるかな?




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