第十九話 隠し事
枷はすぐに外してくれた。魔術登録がロックになってたみたいで領主権限があればすぐできるみたい。
で話を聞くと領主は長女の命を人質に取られていたようだ。
目的は私の拘束と奪取だそうだ。
なんで?私奴隷()で放浪者なのに。
……って思ったけれど、やっぱりこれか……【アカシャ禁書】。
黙ってたけど、もうネルたちにちゃんと話そう……。もうこれ以上、隠し通したくないし。
友達だしね!
「……ネル……あとで……ふひ……お話」
「うん……わかった。みんなで聞く?それとも僕だけ?」
「みんなで……大丈夫」
「うん。わかった!……心配しないでニア……大丈夫だから」
そういってネルは私の手を握ってくれた。
ああ……それだけで安心できる。
「いや……これから話す内容は、ニア殿も関係するのだ……人払いするから、一緒に話をしてくれまいか」
「……ロード・カルーゼルいや、【クラウス】さん。わかりました」
「では、全員、下がってくれ。ここに残るのは私たち領主一族、補佐のグラファード、アイラ護衛騎士、アイエル家の方々、ドーバン殿、そしてニア殿だ」
「……そ、それでは守りが手薄に……!」
「早くするんだ!」
すこし強い口調で人払いをしてくれた。メイドはお茶だけ出したらそそくさと去って行った。
私の席もちゃんと用意してくれたけど、身体が動かなくて座ってもデロンと落ちてしまうので、ドーバンさんにだっこしてもらってる。
もうなんだかすっかり親子のようだ。
「改めて、すまなかった。今はロードではなくただのクラウスとして話してくれて構わない」
「わかりました。クラウスさん。それで……ニアが狙われるのは?」
ネルとクラウスさんがちょっと緊迫しながら、話しているのを私はただ見ているだけだったが、ふと視線がきになってその先を見ると、グラファードという魔術師らしき貴族の補佐官がこちらを見ていた。
『私はグラファード。宮廷魔術師だ。今は時間がないので手短に』
んっ・・・。
・・・え?頭の中に直接話してくる。急に低い男性の声で囁かれて私はゾクッとしてしまった。
これって魔法?すごくこそばゆいのでやめてほしい。
『アカシャ禁書の所有が話の核心だ。本名や出身は隠しなさい』
つまりアカシャ禁書を持ってるってことはみんなに言っていいけど、モコってことと転移してきたことは内緒にしろってことかな?
うん・・・そうだね。聞きたい事がアカシャ禁書の所有者であるってことで狙われたことだろうから、それで十分。
それ以上はいらない情報だし、出しすぎると悪いことが起きるってことかな?
あの人を信用できるかと言われれば初対面だからわからないけど、私に不利なことを言ってるわけじゃないし。
それに頭の中で囁かれても、そんなに嫌じゃなかったからおもらしもしなかった。
あのメイファさんでも初対面はもらしちゃったのに、この人はなんでか平気だ・・・不思議。
でもグラファードさんはなんで禁書所有していることを知ってるんだろ?
ネルとクラウスさんの言い争いがまだ終わって無かった。
「……ネル?」
「……あ、ごめんニア。ちょっと興奮してしまった。クラウスさんの話はいまいち要領を得ないから……」
「あ、いや、だから私も詳しくは知らないのだが、ニア殿は何か特殊な能力があって、それを追っている様子だったんだ」
「あの暗殺者が?」
「……そうだ」
「……ニア。なにか思い当たる事はないかな?」
「そうだ、おれたちゃ【友達】だろ?お前がどんなでも、変わらねぇから聞かせてくれ」
うーん。いいのか迷ったけど、これ言わないといけないやつだよね。
グラファードさんに念のため視線を移すと、優しそうにそして真剣な目で頷いた。
えーい!なせばなる!
「……ネル……みんな……私……【アカシャ禁書3】……持ってる」
「はぁん?あかしゃ……なんだって?」
「あたしも聞いたことがないよ」
あれ……ドーバンさんやミネルアさんは知らないらしい。
他の人はどうかな?
「え……あれを持ってるの?ニア?」
「ま、まさか……それが本当なら、狙われるのは当たり前だ……」
「うむ……わたしもそこまで知らなかったが……」
「ちょ!……納得がいかないわ!こんなあたくしより小さい平民のがき……モゴモゴモゴ!」
「アルティーヌ?後にしなさい?」
禁書自体の存在は知ってるけど、私が所持者だっていうのは知らなかったみたいね。
領主の奥さんと娘さんはほっとこう……。人質になってた長女は【アルティーヌ】ちゃんていうんだ。
友達には・・・なってくれないかな?
私はドーバンさんに降ろしてもらい、自分で立って言おうとしたが立てなくて、よろけた。
仕方ないので、ドーバンさんの腰に手をつかませてもらって、みんなと向き合う。
「……ご、ごめん……なさい。……いわ……なくて……それに、襲われた……の私の……せい」
私はみんなの顔を見るのがつらくなって俯いた。だって私の所為で夕方に60人の敵に襲われたり、執事に攫われそうになって迷惑かけちゃったし。
私が隊商についてきたせいで、みんなを危険に晒しちゃった。
申し訳なくて、深々と頭を下げて謝った。
「謝る必要なんてねぇ!俺ら傭兵団はどんな立場でもニアの味方だぜ!」
「もちろん僕もだよニア!」
「あたしたち夫婦もだ」
「そうそう、一緒にメシを食ったらもう一蓮托生ってやつだ!」
「……ふひ……うれ……し……い……ぐす……あり……がと」
立っていられなくなり、すぐにまたドーバンさんにだっこされる。
それを見ているネルがちょっと不機嫌だ。
ネルもだっこしたいの?でも身長がそんなに変わらないから、私の後頭部を見ることになってお茶が飲めなくなるよ。
などと下らないことを考えてるうちにも話は進んでいく。
「それとそのアカシャ禁書ってのはなんだ?詳しく教えてくれ」
「私もそれは確認しておきたい。相手の思惑を知っておくと護衛しやすい」
「それはわたくしが話しましょう。申し遅れました私はロード・カルーゼルの補佐をしておりますグラファードと申します」
「ああ彼は信用できる。子供の頃からのつき合いだからな」
「ああ、グラファードなら俺も知り合いだから平気だ」
なんと、ドーバンさんとこの高級そうな魔術師がお知り合いなんてミスマッチもいいとこ・・・あ失礼だった。
でも美女と野獣ならぬ、美形と野獣だ。アンバランスさが酷い。
「さて、アカシャ禁書についてですが、簡単に言えば王位継承の際に使用される誓約書のようなものです。6冊で一つの誓約書が生成され、それに現王と次代の王が誓約することで継承が行われる」
「つまり?ニアが王位継承争いに絡む大きな権限を持っているということか?……こういっちゃなんだが……ニアはまだ子供だ。大いに利用される可能性が高いぞ?」
「ああ……我々、彼女を守る立場からすれば一番そこがネックになる」
すみません。すごい足手まとい感が……。
やっぱり自分でもうちょっとなんとかできる術が欲しい……。
私が気まずそうにしていると、ドーバンさんは頭を撫でてくれた。
ネルも手を握ってくれる。
「さらにそれを狙っている勢力が複数存在するってことだ」
「ああ夕方の奴らも2勢力いたな」
「どんな風体だったかわかるか?」
「えーと私が確認したのは、黒ずくめの暗殺者集団?それと聖騎士のような風体の集団だ」
「ふむ……その敵性勢力の目的はニア殿の【暗殺】か【奪取】のどちらかに限られる。勢力によって方針が違うが、王位継承を先送りしたい勢力と、王位継承に貢献して権力を得たい勢力の2つが主だと思う。暗殺された場合。アカシャ禁書の性質上30年使用不可になる。これを狙ってるのが第五王子派になる。第一王子から第三王子派は奪取を目的としている。幸い第四皇子は虚け物として継承する気がないので、派閥が形成されていない」
「じゃあ命を最優先するなら、第五王子派を気を付けろってことか?」
「いや、それだけじゃなくて帝国が絡んでる可能性が浮上している。奴らはこのシュバルツェルンブルグ王国のエネルギー元である龍脈を狙っている。王族衰退時に実権を握ろうとしてアカシャ禁書所有者を暗殺しようとしている」
「思った以上に大物が釣れてるね」
「さらに――」
「おいおいまだあるのか?」
「ああ……奪取しても本人が使用を拒否すれば同じことだから、おそらく薬品か奴隷化される可能性が高い」
……怖い。あまりの大きな話になってきて……すごく怖い。
「なんで普通の平民のニアが?ただでさえ苦労してるのに、こんな王国の重責まで背負わせるなんておかしい!」
やば、もしかして王都の城の図書室から取ってきて返し方がわからなかった、なんて言えない。
だって私の身体の中に消えちゃうんだもんしょうがないでしょ。
私が怖くなって震える度にドーバンさんが頭を撫でてくれるものだから、反応がグラファードさんに筒抜けなんですけど……。
「それにしても、そんな王国に重要な物をもつ奴が6人もでるわけだろ?争奪戦で内紛が起きてもおかしくねぇぞ?」
「それも本来であれば対処されているはずだった」
「どういうこった?」
「召喚勇者って、みなさんは知っているだろうか?」
「あぁ、そらなぁ。ここじゃない異世界ってとこから召喚術で呼び寄せると、つぇえやつが来るって奴だろ?」
「普通にパレードやってるじゃないか。ただ魔王って恐ろしい魔物が50年周期で沸くから退治するために呼ぶって聞いたよ」
勇者召喚についてはみんな知っていることだったみたい。
有名な話だったんだね。
「その認識は一般的に公表されているもので間違いない。毎回やるかは知らないが、時の王によっては大々的に宣伝するらしいな」
「ああ、先日もパレードやってたはずだぜ」
そうなんだ。じゃあもうみんな有名人なんだね。私はただの浮浪者の背景だからすごい格差だ。
「で何が言いたいんだ?」
「――実は魔王なんて居ない。出現したことは歴史上ないのだ」
「はぁ?」
え?どういこと、って何となくそれは察しがついてた。だって城の図書室に魔王に関する資料が一切なかったもん。
お城の人がみんな嘘ついてるんだなって認識だった。
「じゃあなんで勇者なんて呼んだんだい?」
「理由の一つにアカシャ禁書を入手させるためだ」
「おいおい・・・すげぇきな臭くなってきたな……」
「王国の城の中は様々な領の権力が入り乱れている。それぞれの領がお抱えの勇者を招致しその勇者に禁書を入手させれば、さらに王国内での勢力が強くなる」
「勇者自体が転移時の副作用で強くなるから、他国勢力を封じることもできるし、勇者という名だけで抑止力にもなる」
「つまり……一般の平民であるニアが持ってると……下っ端でも奪えるんじゃねぇ?ってみんなが思い始める」
「権力欲しさに争奪戦が始まってるってわけか……」
「おいおい……こりゃますますほっとけねぇな。はっはhっは」
「ドーバン!笑いごとじゃない!ニアが大変なんだぞ!」
「なぁに。何があっても俺らがついてるからな!もうなんか娘みたいで可愛くてしかたねぇんだ。必ず守り切ってやる!」
「む、娘ぇ?そういえば、ドーバンは娘がいたな。子煩悩め」
「なんとでも言え!ニア安心しとけよ!」
ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でる。ふふふ・・・あきらかに前の世界よりお父さんらしいお父さんが出来た気分だ。
「……ふひ……うん」
「襲ってくる連中の裏には必ず貴族の誰かが関わっている。先手を打つならそっちをたたくべきだな」
「なるほど、そいつぁロードとアイルスの旦那の仕事だな」
「ああ、わかってるさ!俺たちもニアを守って見せる。な?クラウス」
「任せなさい。うちの騎士もニア殿が気に入ったようでな。裏切ったらもう護ってくれなさそうだったよ、ははは」
この領主はなんとも頼りないね。
護衛の騎士よりなんか肩身が狭そう。
「それから……」
「まだあるのか?」
「気がついてるかもしれないけど、禁書は譲渡が可能だ」
「あん?じゃあ誰かにくれちまったほうが、ニアは安全じゃねぇか」
「安全ではない。譲渡は両者の同意が必要であることと、譲渡した元の人間は死ぬ」
「はっ!くそだな。じゃあニアが同意しなければいいことだ」
「もし薬品が使われたら?」
「はっ!……食事にも気をつけろってことだな?」
「そういうことだ」
「いよいよもって、護衛しがいがあるじゃねぇか!だが……護衛資金はどうするんだ?人間を動かすんだ。資金は必要だ」
「それは、もしニア殿が認めていただけるなら、カルーゼル領で用意しよう。その立場を悪用しないと誓う」
「なるほどな。ロードカルーゼルも他の貴族と何ら変わりはねぇ。信用たるものが必要だな」
「時にニア殿?いまのお立場は冒険者となっていますね?」
「……はぃ」
「もし、もしよければ、家族、娘になってはくれないだろうか?」
え?えええ?もしかして貴族になれってこと?むむむむむむむむむ~りむりむり!
私、日本でも貧乏で底辺民だったのに、こっちで上流階級になったら使用人に土下座とかしちゃう貴族になっちゃうよ?
「……え?……えっと……どしたら」
「すごいじゃないかニア!僕はその案に賛成だな」
「……ネル」
「あぁ……こいつの娘になるのは癪だが、ある程度信用できる貴族の庇護下に入るのはありだな。こいつより権力がないやつには牽制になる。」
「私も賛成だ。ニアはおそらく旅をしてたら不健康で傷も多いし、体力もなくて弱い、というより平民以下だ。何もしなくても、死ぬ」
「……ぅ」
酷い言われようだけど、正しすぎて何にも言いかえせない。
私は反応に困って、グラファードさんの様子を確認してみたら頷いた。
『私は領側の人間だ。私に強制させる権限も意見を言う立場でもない。キミの意思を尊重する』
んっ……。
ちょっとこれはやめてほしい。すごいくすぐったい!あとで文句言おう!そうしよう!
それにしても貴族だと色々政治っぽいことしなきゃいけないんだよね?よけいに権力闘争に巻き込まれるような。
でも何もできない平民じゃんなくて奴隷()で権力闘争に巻き込まれるよりは、先手を打てる立場のほうがまだマシってことかな。
うん。いつまでも怖がってたらダメだ。私は自分のことは少しでも自分で守れるようにならないとみんなに迷惑ばかりかけちゃってる。
それにもし何かあったら、ネルやみんなを守りたい…………その力が今切実に欲しい……
「……お、おねがい……します。……しっかり……勉強……ふひ……貴族のこと……します」
私は緊張して訳の分からないことを口走ったきがするけど、丁寧にお辞儀をした。
そんな必死な私に、周囲は穏やかな微笑みと――
パチパチパチパチパチパチ
なぜかみんな拍手してくれた。おめでとう!って言ってくれた。
貴族になれたこと?それとも養女になったこと?
でも味方が増えたことが今はとても心強い。
「ところで……ニア、いくつだっけ?」
「13歳……ふひひ」
『ええええええええええええぇ!』
今日一番の大きい声が鳴り響いた。
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