第六話 メイファの決心


……


……


……


私は完全に意識を本に落としていた。

午後の残りの時間はずっと図書室で過ごしていた。


気が付けば目の前の机に読み終えた本が大量に積みあがっていた。

午前中と合わせて50冊以上は読んだかな?こっちの本は羊皮紙でできてるから、ページ数も多くない。読みにくいけど、そんなに時間はかからないね。


とはいえ、2日で全ての本に目を通せるわけない。私は直観に従って、気になったタイトルの本だけを選んで読んでいた。そして選んだ分はあらかた読んじゃった。もうちょっと、あと一週間ぐらいは堪能したかったな。


気になっていたお金の価値についてだけれど、金が基準になってるのは同じみたい。ただ金自体は固定相場なので、それぞれの価値とお金の関係が変わることはないみたい。10枚で単位通貨コインが変わっていく。

元の世界の価値と照らし合わせていくと……

1円が小銅貨1枚

10円が中銅貨1枚

100円が大銅貨1枚

1000円が小銀貨1枚

1万円が中銀貨1枚

10万円が大銀貨1枚

100万円が小金貨1枚

1000万円が中金貨1枚

1億円が大金貨1枚

という感じになるみたい。大金貨とか使わないでしょ絶対。

あとこの世界にも暗号という概念があった。これはスパイ物などでよくあるアレかとおもったけど、そこまで複雑なものじゃなかった。

私は結構興味をそそられたので、仕組みを理解できるまで勉強してみた。

いいねいいね。面白い!



さて、だいぶ時間が経っていたので、そろそろ今日は終わりにしよう。



……んむぅ?



手元の本を本棚に戻そうとおもったら、元々本があって隠れていた本棚の裏板がおかしい。

それを違和感を感じて、押したり取れないか試した。

横にずらしたらあっさりとずれた。

片開きのドアかと思ったら、引き戸でしたみたいな。

そして開いたところは薄い空間があって、誰かが隠してたであろう本が目に入った。



この異世界では珍しい文庫本ぐらいの大きさだ。

この世界の本は全部大きくて重くて分厚い。そして表紙が重厚な革で出来ている。

でもこの本は、本当にパルプから作られた紙ような感じだし表紙も厚紙で製本してある。

これは私たちの世界の本では?

それから、その本からは何かただならぬ気配をその本に感じた。

私はおそるおそるその本を手に取って、開いてみると……




シュファーーーーーーッ!




と強い光に視界が覆われた。まぶしっ!

転移してきた時と似たような光だった。

でもその時よりは短くすぐに引けた。

びっくりしてちょっとぼーっと惚けてしまっていた。




「……様っ!……モコ様!!!!」


「……っ!……ぁ……メ……ファ……さん」


はっとするとまたメイファさんに肩をつかまれ揺さぶられていた。

あまりに目が死んでいたようで、本当に死んでしまったのかと思ったらしい。

いつもクールなメイファさんが号泣していたのはちょっと面白かった。


またしても漏らすことになるかと思ったけど、今回は大丈夫だった。

メイファさんはお城側の人間なので気持ちでは警戒している。

そう思いっていたけれど、私はいつの間にかメイファさんを信頼していた。


「し、心配致しました。本当に死んでしまったかのような目でした……。」


「……ごめん……なさい」

いつも死んで腐った魚の目をしているから平常運転じゃ?

とは言えない雰囲気……。


「いいんですよ。……モコ様はもっと甘えるべきです」


「…………おかぁ……さん?」


「誰がおかんじゃ!……おっと……ん”ん”。失礼いたしました」


「……ふふっ」


「…………っ!」


あれ、なんかすごいものを見たような衝撃を受けてる。

私はキョロキョロしてみるけど、何も見つけることが出来なかった。

メイファさんはなぜか、頬を赤らめて目を潤ませてる。キラキラしていて、真・美少女って感じ。ブサイクな自分との差を見せつけられたようで、ため息がでる。


図書室は私が大量に無造作に本を出してしまったので、片付けるのに手間取ってしまった。

側仕えの方とメイド数名を呼び寄せて、みんなで片付けをした。



私は夕食を取りに食堂に来たが、随分と遅くなってしまったようで、もう食堂には誰もいない。夕食の時間はとっくに過ぎていたようだ。

静まり返ってるけど、厨房には入れるので夕食は作ろうと思う。

片付けのお礼として、ご飯抜きになってしまったメイファさんや他のメイド、側仕えの人にもご馳走することにした。


うーん何が作れるかなぁ?みんなお腹すいてるからすぐできる物がいいよね。


ハーブオイルを見つけたので、それとベーコンとにんにくはほぼ同じ物だったので、それとジャガイモもどきでジャーマンポテトのような何かを作ってみた。

それからキノコの種類がたくさんあったので、鶏肉とキノコでクリーム煮も出来た。

うんうん。味も上々でしょう。


「おもらししてごめんなさい」という謝罪とお世話への感謝の気持ちを込めて作った。

私ももうお腹ペコペコで、くぅ~って鳴ってる気がする。

今ならいっぱいたべられそう。

【栄養失調】【飢餓】を早く解消したいしまだ身体は細いし背も小さい。

いっぱい食べないと【成長阻害】もなかなか消えてくれないね。


親しい関係でもないけど、大人数で食べるのは初めてなので楽しい。

みんな昼間のコックたちと同じようにビックリしていたが、喜んでもらえてうれしかった。


私は一人前をよそったのに、結局1/4でノックダウン。

もう動けない。……んぐぅ。

前の世界じゃ一日一食だったもんね。胃が一食モードから三食モードへ変わるまではこんなものかな。




部屋に戻ってメイファさんにハーブティー淹れてもらう。

私は今日頑張った。

頑張りすぎて疲れた。

ぐてーとしてハーブティーを楽しんでる。はー、こんな至福が訪れるなんて。


さて今日も寝る前にステータスチェックだけはしておこう。

残り僅か、明日一日の行動は無駄にできないしね!


「【ステ……タス】」


===========

名前 : 花咲 藻子

レベル : 1

クラス : 人間

年齢 : 13

性別 : 女

状態 : 【呪い】【毒】【発育障害】【栄養失調】【隻眼】【打撲】

職業 : 無し

称号:無し

HP : 5 / 10

SP : 3 / 3

力 : 1

体力 : 1

器用 : 1

速さ : 1

知性 : 1

運 : -65535

スキル : 【鑑定】(【呪】【禁忌】【アカシャ禁書3】<new! )hidden

===========


まだまだ瀕死というか、毒を早く何とかしないと。

そういえば【飢餓】が消えてる。

ここでちゃんと自分で料理して食べたからかな。

でもまだ栄養失調からは抜けてない。

明日も自分で作って、しっかり栄養を取ろう。


それから【毒】については原因はわかってる。

図書室で得た知識があれば薬を調合出来そう。

明日は調合室と材料を用意してくれるか聞いてみよう。

せめて毒を治してから城を出たい。


私は着々と城をでる準備を進めているけど、準備すればするほど、気持ちが沈んでいくのが分かった……。


今日はもう疲れたからメイファさんも休むように言って、下がってもらった。

私は寝る準備をして、ベッドに寝ころんだ。

寝ころんで、手にひらをぼーっと掲げてみる。


うん、異世界にきてから絶好調といっていい程、うまくいっている気がする。

だってメイファさんが優しくしてくれるし、リコちゃんやコックの人たちともちゃんとお話しできた。すごく楽しかった!

明後日の朝からは、またぼっち生活だけど……きっと……うまくやれるはず。


……


……


……


……


……


……


……ぐす……

離れたくないよ……仲良くなった厨房の人たち、リコちゃんそれに……


……めいふぁさん


……


……


……?


……なにか暖かくていい匂いが近くにある。


……


……


……頭をなでてくれているようで、とても落ち着く。


……


……


……


……ふぁ……しあわせ


……


……


……


……んぅ?……んんっ……ぅんん


……


……


……


 虚ろな意識のなか、私はとても幸せな夢を見ていた。

なにか唇にあたり、そこから幸せが広がるのだ。甘くてふわふわな少し酸味も感じるようなほろ苦さもある。

優しく包まれるような、それでいて胸の奥がちりちりとちょっと痛むような不安もある。


世界は真っ白だった。ずっと包まれていたい。もうつらいのは嫌。

でも異世界に来てからは、うれしいことが増えた。

きっとこれからもっといいことがあるかもしれない。

私の心はいま希望に満ち溢れていると思う。


と次の瞬間それらを飲み込まんとばかりに、ぽっかりと黒いブラックホールのようなものが表れた。


嫌……せっかくうれしくて、楽しいことが出来たのに!


離れたくない!なくしたくない!


全力で叫ぶけれど、無情にも白くて幸せな世界はどんどん吸い込まれていく


ぎゅるるるる~と渦を巻いて飲み込まれていく、私を含めて。


……いや


……いや


……やめて


…………


…………


「……様?……大丈夫ですか?」


……


「めいふぁ……さん?……っ……っ」


目の前で私の頭をなでているメイファさんがいた。

私はそれがうれしくて、この幸せがなくなるって悲しみが強くなって、ぼろぼろと涙をこぼしていた。


「めい……ふぁ……さん……私……離れ……たくない……離……れ……たく……ないよぉっ!」

「……モコ様」


その日は私が寝付くまで、メイファさんはずっと頭をなでていてくれた。

まだ出会って1日程度の付き合いなのに、私は信頼し、安心しきっている。

たぶん私が気を失っていた時もずっとお世話してくれていたから、メイファさんはもうちょっと愛着があるのかもしれない。

たとえこの後裏切られても、メイファさんならいいななんて思えてしまう。私は完全に絆されてしまったようだ。本当はこの後あの書物を調べようと思ってたけど、あまりに幸せで、そのまま意識をてばなした。


…………モコの姿を愛でるように見つめて、彼女が寝たことを確かめると、メイファは何か決心したように、拳を握りしめていた。はじめは事務的に仕事をこなしていた彼女もまた……。







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