第七話 お別れの準備

朝、私はとても気持ちよく目覚めた。

まだ夜が明けたばかりの時間だったけど、すごく幸せな気分だった。

きっと今日はがんばれそう!


まだメイファたちメイドさんが来る時間じゃないので、起きるわけにはいかない。

私が起きると仕事しなきゃいけないからだ。

今のうちにこのままベッドであの書物について調べておこう。


まず私は【アカシャ禁書3】を鑑定してみた。


【アカシャ禁書3】

初代シュバルツェルン国王の命によって禁断の書と認定された書物「第三巻 伝説」全六巻。シュバルツェルンブルグ王国建国時、賢者アカーシャから献本された魔術書。

書物を魔術で体内に取り込むことにより、禁書に記された叡智を得ることが出来る。

国家の礎結石に全ての書を捧げ、神器を得ることで正当な王位継承が成される。

アカシャ禁書を具現化し、本書カテゴリー内に該当する項目を念じれば、内容が提示される。


【アカシャ】って言葉は、私たちの世界でも一般的ではないけど本で読んだことがある。

ここでは人物を指しているけど、虚空とか空間を指す言葉じゃなかったっけ?

あらゆる事象などの記録がなされているとか、そういうものの名称だったはず。

この世界では人の名前から取られたんだね。むしろ狙って名乗ってたのかも。

偶然か必然か、今の私にはわからない。


このスキルは本を出すスキルみたいね。

具現化はどうやればいいんだろう?

なにか呪文みたいなのがあるのかな?

スキルの呪文は「ファイアボール」とか言わなきゃいけなかったはず。

それと同じかな?鑑定と同じで念じればなるのかな?



それから王位継承なんて不穏な言葉が書かれている……。

これはトラブルの元というか……。

一応隠されていたといっても、誰でもすぐ見つけることが出来そうな場所にあったんだけど……。

ヤクい……っていうことかなこれは。

そういう意味では呪われてる私は存在自体がヤクいから気にしない。



じゃあちょっと試しに使ってみよう。


「(【アカシャ禁書3】)」


ムワンッ!


と光に包まれ、腕からアラブ文字のようなミミズぽい文字が光って浮かび上がった。

きもちわるっ!


光が治まると、図書室でみた文庫本みたいのが自分の手の中にあった。


三巻は【伝説】に関する項目が記されてるってことだよね。知りたい事を念じれば表示されるのかな?


まずは……

【シュバルツェルンブルグ建国の伝説】

ー建国はラティーナ歴1071年。

ー建国以前はこの世界でエネルギー奪取を目的とした、世界大戦が頻発。

ー初代シュバルツェルンブルグ王の折衝により、外国勢力を抑制。

ー国際条約を締結したことで終結。

ーこれと同時に龍穴を管理する目的で建国。

ー初代シュバルツェルンブルグ王は全ての国が龍穴の恩恵・利益を享受できるよう折衝。

ー初代王は【シロウ・ヒジカタ】。

ー龍穴からのエネルギー資源は、主に魔力・魔石・魔術分野に活用・発展。

ー初代王は転生者であり、転生の秘術を禁忌の魔術に指定。ただし条件を満たせば可能。



【シュバルツェルンブルグ大戦】(ラティーナ歴970年~1071年)。

ーシュバルツェルンブルグ大平原で龍穴が発見されたことによる領地争奪戦が原因。

ー死傷者約320万~505万人。

ー【モント会議】で各国が条約締結したことで終戦宣言が行われた。


【英雄シロウ・ヒジカタ】(ラティーナ歴1073-1093)

ー初代シュバルツェルンブルグ国王。所属パーティー「蒼空の剣」5人で戦を鎮圧。

ー英雄の剣を持って天翔ける剣技と魔術を操る姿から【蒼天の英雄】と賞賛された。

ーラティーナ歴1072年【サクラコ・ヒメノ】と婚姻。第一子誕生。

ーラティーナ歴1093年 第三王子派の謀反により死亡。


【アカシャ禁書の伝説】

ー建国時にパーティー「蒼空の剣」在籍の賢者アカーシャが創造した魔術書。

ーシュバルツェルンブルグ王国建国時に献本。国家の登録が成された。

ー王位継承即位の儀の際、アカシャ禁書にその名を刻むことで継承が成就される。

ー禁書の加筆は国璽(こくじ)神器、禁書所有者の承認・魔力登録が必要。

ー禁書所有者が死亡した場合。死亡時より30年間使用不可。

ー禁書の譲渡はお互いの承諾と儀式で成される【譲渡の義】。

ーアカシャ禁書に関する義を執り行う場合、全ての禁書所有者の承諾・登録が必須。




初代王は召喚された人だったんだね。

完全に日本人名だし。

それと……。これの所有者って狙われそう……。

仕様上殺されないけど、誘拐や、薬使われて無理やり使用、なんてさせられそう。

ぜーったいに誰にもバレ無いようにしないと。


……んーっと背伸びをして、本を閉じたら勝手に消えた。

はーすごい仕掛け。まさにファンタジー。


そろそろ、メイファさんが起こしに来る時間かな?今日いっぱいで快適なお城暮らしもおしまいかぁ。明日の朝一番で認定審査があるから、今日一日は自由に使えるね。


「おはようございます。モコ様。お加減いかがですか?」

「お、おはよう……ござい……ます。……ふひひ……メ、メイファさん」

「……ふふふっ」


昨日は寝るまで一緒にいてくれてとっても嬉しかった。メイファさんも何か思うところがあって、とても晴れたような笑顔を見せてくれる。そんな些細な事に喜んでくれるメイファさんは可愛いと思う。

嫁に来てほしい。


笑いあって、今日の予定をメイファさんに告げると、快く了承してくれた。

今からまた食堂で朝食だ。3食の生活はまだ慣れないけど、食べれるときに食べておかないとね。






「おっはようございます!あれから色々考えたので今朝は期待してください!」


食堂に行くと、リコちゃんが元気よく挨拶してくれた。

昨日のレシピを発展させたものが並んでいたので、今朝はコックたちが作ったものを頂いた。

さすが料理人。貪欲なのはいいことだね。

味の感覚、調味料の使い方、基本をリコちゃんはしっかり学んでいたようだった。

完全に自分のものにしたようだ。


もっもっもっ……ごくん。


「……うん……おい……しい……ね」


「っ~~~~~~~~やっったーーー!ありがとうモコさんのおかげです!また今度レシピを教えてくださいねっ!」

「……」


うーん。明日以降はたぶんもう会えなくなるので、なんて答えたらいいかな?

お世話になったし、一応居なくなることだけは伝えておこうかな?


「……ごめ……んなさい。……明日……いなく……なる」

「えっ!どういうこと?」

「……たぶん……ふひひ……追放」


いつものように変な声でたので、追放が遊びみたいな軽さになってしまった。

深刻な雰囲気になるよりいいかな。

私じゃ説明下手なので、メイファさんが簡潔に説明してくれた。



……



「そ……そんな……」


それでもリコは泣きそうな顔をしている。


「……リコ……たの……しかった……あり……がと」

「っ……っ……っ……」


リコは堰を切ったように、ぼろぼろと泣き崩れてしまった。

付き合いは短いけど、ここまで泣いてくれるのはうれしいね。

ただその距離感を理解するのは私にとっては難しかった。

まだ昼食と夕食があるのだから、その時はちゃんとお礼をいって笑顔で別れよう。








ぜひ……ぜひ……はぁ


私たちは気持ちを切り替えて、調合室にやってきた。

結構遠かったな。歩き疲れたのでちょっと休憩してからやろう。


「モコ様、やり方はわかるんですか?」

「…………たぶん」


昨日図書室の本で読んだ知識を元に調合を始める……。


私を犯している毒については見当がついていた。

私は父親に慢性的に一部の思考を奪う薬を飲まされていた。

非合法な新薬らしく、私は常に身体に倦怠感を感じていた。

しゃべるのが苦手なのもきっと毒のせい。

ぜったいそうだったらそう。

父親は虐待を繰り返し、次第にエスカレートして支配欲に駆られて、ついにはそんな非合法な薬まで使われた。気持ち悪くてあまり思い出したくないけどね。




いくつか薬草を薬研(やげん)で磨り潰したものと、魔力水と中和剤をいれた鍋でかき混ぜた。混ぜながら、岩塩、香料、最後に魔力石を溶かしていく。


ぐるぐるぐる……でろん


でろでろに溶けて、カレー位の粘度のドロドロの紫の液体ができた。

これで完成かな?

ポーション瓶3本分できたから2本はストックして、一本は私が飲んだ。



……んぐっ!



「あっ!いきなり飲んではダメ!!!」

「……んぇ?」




ドクンッ!!!!!!!!!!




「ぁ?…………っ?……っ?……あぅ……っ」


ああ……身体が熱いっ!いきなり飲んだらなんか内側からほてってくる感覚と、頭がぽーっと溶けるような感覚に襲われた。


「ぁ……?ぁ……?……っんぅ!」

「モ、モコ様!?」

「……め……ふぁ……しゃ……ん」


これあれだ……ダメな奴だ。

昔、親にお酒を口の中に突っ込まれて無理やり飲まされたときのような感覚だ。

もう視界がぐるぐる回って辛いので、私はメイファさんに身を預けた。

視界がぼやけてきたけど、慌てているメイファさんまで頬を赤らめている。

いろいろなんで?って思ったけど考えるのも億劫になって、私はそのまま意識を手放した。私気絶しすぎじゃない?そろそろ自重しよう。


……


……


……

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