第五話 お城の図書室と食堂2

この世界の料理は不味いので、適当な理由をつけて自分で作ることにする。

料理長は厨房と食材を自由に使っていいと、快く了承してくれた。

メイファさんの説得のおかげとはいえ、信用のない私のわがままに快く答えてくれたのは素直にうれしい。




ん~ふふぅ~ん。


とりあえず。


なにがつくれる?なにがつくれる?ふふ~ん♪


料理はけっこう好き。

私は小学三年生の頃からずっと、休日は商店街の飲食店で手伝いをしてた。

そのお手伝いのおだちんの代わりに、教えてもらいながら賄い料理を作っていたからね。そして一緒に食べるから無料で食べられる。

いろんな飲食店を週替わりで通ってたのでレパートリーはバラバラだ。



さて、食材はトマトぽい野菜、ジャガイモぽい根野菜、玉ねぎっぽい匂いの果物など前の世界に似た食材を発見できた。うーん、ちょっとかじって確認したんだけど、こっちの料理を食べるなら、生で食べたほうがまだいい気がする。

バターや小麦粉、鶏卵や牛乳などほぼ同じ食材もあった。ただ肉類の元の姿は不明だ。何の肉かきいたら【ニッカトリス】の肉だって。なにそれ?モンスター的ななにか?ファンタジーの世界ぽいし。


そう、私が体験したファンタジー要素って、まだこのステータスだけ?

神様しごとして!がんばって!




そして私はミネスローネ風のスープと焼いたパン、ポテトサラダぽいやつなどを作ってみた。それから鶏肉ぽいニッカトリスの肉でソテー。

マヨネーズは無いからさすがに作った。ちゃんと調味料が全部あってよかったよ。コンソメは一から作るのとなると時間がたりない。だから調味料の組み合わせと、薬草のすりつぶした物、見習いの子が捨てようとしてた野菜の煮汁などで味を調整した。このコンソメもどきのベーススープは割と使えるね。


グツグツ……グツグツ……


……ずずっ。


「……うん……いい……ね」


味見したところ、結構いい出来になった。

あくまでそれっぽい味だけど、異世界の料理よりははるかにマシだね。

私は、自分の分を食べれる量とメイファさんの分をよそってきた。


「……いっ……しょ」


「えっと、私は給仕をしますので結構ですよ?」


「……いっしょ……に……」


ぐぐぐ……一緒に食べたいですって、緊張しすぎて出てこない。

私が悶絶してる様子を察して、周りをキョロキョロした後に対面の席についてくれた。


「はい。ではいただきますね。他の側仕えには内緒ですよ?」


一緒に食べてくれる人がいて、私はうれしかった。

しゃべらなくてもなんとなくコミュニケーションをとってる気分になるのでいっしょの食事は好きだ。

はっ、これはもう友達といっても過言ではないのでは!?ふひひひ。


んぐ……うん、おいしいね!


「んーっ!これはすごいですね!美味しいです!スープも味が濃くて美味しいし、お肉の外がパリパリ中はもっちりジューシー!ん~しあわせ~……はふぅ」


もっもっもっ……うんうん。いいねいいね。

満足してくれたのが何よりうれしかった。

いつもは大きく表情を崩さないメイファさんも……素敵な幸せ顔をしてらっしゃる。


もっもっもっ……もっもっもっ……


ん……はふぅ!


メイファさんはとろけ過ぎて、変な声出して悶えてる。大丈夫かな?

そんな私たちの様子を、料理長がじろじろ見ていた。


「……ひっっ!……なに?」


やばい、やばい……近いから!も、もれそうだから!


「あ~いやっ、お、脅かしてすまないっ!見たこともない飯で、あまりに良い匂いだったから……」

「……いり……ますか?」

「いいのかっ!?」

「厨房に……あるの……全部……いいですよ?」


どうせ私が食べきれるわけでもないし、もうお腹いっぱい。これ以上食べると、たぶんまた吐く。メイファさんも大食いってわけでもなさそうだ。


「おおっ!ありがてぇ!よそってくるぜっ!」


「……ふぅ……」


やっと離れてくれた。このままじゃ危なかったよ。

鍋の料理は、仲良くコック達何人かで分けて食べるようだ。


「うっまあああああああ!なんだこれっ!」

「おいしいっ!おいしいよぅ……。ぐず……。」

「はぁあああああん!料理でえくすたすぃ~~~~なんて!!!!」

「おおおおおおおー……絶品だっ!」


……大げさな。

でもあのものすごーく不味い料理をお城の料理として出ていたんだから、この反応は仕方ないのかも。


「お嬢ちゃんっ!これのレシピを教えてくれないかっ!」

「わ、私も!初めてお食事が楽しいと感じたのよ!しあわせ~っ!」

「……ひっ!……わ、私……話す……苦手……ふへへ」

「へ!?あ……ああぁ……そうか。じゃあ俺の弟子のリコ一人に教えてもらえないか?あんたと同じぐらいの歳の女の子だ。そうしたら俺らはリコに習うからさ」


う……一歩も引きそうにない雰囲気。

うーん、これって教えちゃっていいのかな?

まぁお金か何かと等価交換しようか。


「ほ、報酬……もらえ……る?」

「ああ!あんだけうめぇんだ!全財産払ったって良いぐらいさっ!」

「……ほど……ほどに」

「じゃあ料理長の俺は小金貨1枚こいつら3人で小金貨1枚で合わせて小金貨2枚でどうだ?」


そ、そういえばこの国のお金の価値をしらない……。

あとでまた図書室で調べよう。まぁ無料じゃなければいいかな?


「は……はい……ふひ……そ、それで」

「よーしじゃあ、リコ!これから一緒に習って作ってこい!ちゃんと記録しろよ?」

「はーいっ!親方~っ!」

「料理長とよべぃ!」

「いえっさー親方!」


ここでもテンション高い人がいた。苦手だけれど、ここはもう異世界。友達ほしいしリコちゃんに協力してもらおう。


「私、リコっていいます。ここの食堂料理番の見習いをしています!14歳ですっ!」

「……モ、……モコ」

「モコさんですねっ!よろしくお願いします」


リコちゃんのこぼれそうなほどの満面の笑み。かわいいなぁ。見習わないと。

私は軽く笑みを浮かべ会釈した。


「……モ、モコさん?」

「……おおおおお」

「……?」

「……い、いえ……じゃ、じゃあ厨房に行きましょう!」


うん?変だったかな?すっごいみんなに見られてた。

立場的な立ち振る舞いがおかしかったのかも。一応まだ来賓的な扱いっていってたかな?でもわかんないし普通に相手してほしい。じゃないと友達どころの話じゃない。




コック達はテーブルで談笑している。メイファさんも一緒に話してる。

「わたくしのモコ様は……で、とっても……ですよ!」

「ほぉおおおお」


わたくしのモコ様?なにやら誤解を受けそうな発言が聞こえた……。

気まずくなるのは嫌だから聞かなかったことにしよう……。

厨房には私とリコちゃんだけだ。


さっき作ったとおりミネストローネもどきを作る。前の世界の調理方法と全く違うようで、いろいろと驚かれたけど、私も驚いた。お城だけあって調味料や食材はふんだんに使えるのに有効利用されてなかった。図書室の本の料理分野には、味の深みとか、食文化に対して嗜好を凝らした歴史や文化の形跡がなかった。

たぶん料理人の地位が、かなり低い位置にあるんじゃないかと。平民だけだし。そういえば戦後の日本も料理人は地位が低かったって本で読んだ。


リコちゃんはここで毎日働いてるので、ものすごく手際が良かった。それに勉強熱心で、必死にメモを取ってる。

教えるのは苦手だけど、リコちゃんの熱心さに見習って丁寧に教えた。




リコちゃんが作ったのも失敗なく美味しくできた。

料理中の会話でスキルで【調理】というのがあることを教えてくれた。

このスキルを持ってると手際が良くなるという物。

でもいくら手際がよくても、作り方が悪いと不味くなるということみたい。



「ありがとうございました!さっそく今晩、騎士様方に作ってみますねっ!」

「嬢ちゃんありがとうなっ!俺たちもリコちゃんに習って作るよっ!」


「……ふひ……が、がん……ばって……じゃね」


あとは勝手にアレンジや応用して、他の料理の味も良くなっていくと思う。


ふぅ……いっぱいお話できて、結構私も楽しかったな。

疲れたけど、とても心地よい達成感ある疲れだった。

なんか感無量というか、胸に熱いものをジーンって感じた……。

ふひひ、異世界に来てよかった……かも。


やっぱりお城に出る前にちゃんとお友達になってって言おう。

それともやっぱり仕事的な付き合いかなぁ?

友達だったらいいな。




私は図書室へ行く前にちょっとお城をぶらぶらしてみた。メイファさんの案内で中庭や菜園も見せてくれた。結構新鮮なお野菜があるなとは思ってたけど、ここで取れるんだ。

ちらほらとクラスメイト数名に軽く絡まれたけど、いつものことだからそんなに気にならないね。話からすると、もう結構訓練が進んでいるようで、みんなは自在に魔術をつかえるようになっている。近接で戦う人ももう実践訓練しているからすごいらしい。まだ完全とは言えないから訓練所以外は使用禁止だっていって、自慢できないのを悔しがってた。


「モコ様?モコ様はいつもあのように迫害されているんですか?」

「……は、くがい……はおおげさ。……ふひひ……でも……ああいう……感じ」

「そ、そうですが……。失礼ですがモコ様の世界は平和と聞いていたんですが、とてもそうは思えなません……まるでこちらの放浪者の……はっ……も、もうしわけございません……」

「……だい……じょうぶ」


この世界の放浪者とは奴隷より下の身分だ。法律も何もなく、人間として扱われない。民間の施設すら利用できないんだって。

もしかしたら私はそれになるんじゃ?

ちょっと不安になってきた。なにか考えておかないと……。



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