第11話 聖女様とノープランデート①

「全く酷い誤解を受けた」

「それは私のセリフです!」


 結局、マスクもサングラスも帽子も全て取っ払ってから、俺と春宮は並んで歩き出した。

 

「結局デートたってどこに行くんだよ」

「……あ」


 あー、ノープランなんですか。

 

「ど、どうしましょう……」

「お前意外と計画立てずに勢いだけでガッいくタイプだろ」

「だ、だってデートなんて初めてで! どうしたらいいか……」


 おいデートって単語に照れて赤くなるなよ!

 俺だって恥ずかしいんだからな!


「……とりあえず、電車に乗ってから考えるか?」

「そうですね……ごめんなさい」

「何で謝るんだよ」

「だって……誘ったのは私なのに、何も考えてなくて……これじゃ秋嶋君の休日を邪魔しちゃっただけですよね……」


 そう言って、春宮は小さな体を更に小さくさせてしゅんっとなった。

 その姿は春宮の感情の豊かさと相まって、なんだかめちゃくちゃ小動物チックに見えて、庇護欲が湧いてきてしまう。


「……お前真面目すぎ。ノープランにはノープランなりの楽しみ方ってのがあるんだよ」

「楽しみ方……ですか?」


 まるで巣穴から顔を覗かせてこっちの様子を伺ってくるリスか何かみたいに、俺の顔を見上げてくる。

 こういうのもまた、聖女様が人気たる由縁なのかね。


「おう。まあ、見てな。行き当たりばったりってのも悪くないから」


 実際目的地を決めずにただ歩き回るのって結構楽しいんだぞ?

 

「分かりました。お任せしちゃっていいですか?」

「任された」


 時間を潰す感じで考えると映画館だな。とりあえず1時間は潰せるから。


「あ、ちょい待って。なんかLINEきた」


 あ? 冬真とひなたとの3人のグループ? あいつら旅行中だろ……。


〈どう? 春宮さんとのデート、楽しんでる?〉

〈何で知ってんだよ……今から電車に乗って出かけるところだ〉

〈あたしたちが結花に提案したのよ。偽とはいえ、デートもしないカップルなんていざって時ボロが出るからって。というか出かけるの遅くない?〉


 お前らの案かよ! 通りでノープランが過ぎると思ったんだよ!


〈不審者ファッション極めすぎて警察に呼び止められて1回着替える時間が必要になったからな〉

〈何やってんのよアンタは!?〉

〈流石陽だね。僕たちの予想を平気で越えてくる……〉


 あ、イケメンの絵になる苦笑いが浮かんだ。しかも黄色い声援付き。

 ……くっそムカつく。


〈で、今からどこに行く予定?〉

〈ひとまず映画にでも〉

〈うん。いいんじゃないかな〉

〈アンタ、まさか時間を潰すことを考えてるんじゃないでしょうね〉


 俺の幼馴染みがエスパー過ぎて怖い。


〈そんなわけないだろ?〉

〈そうよね。もしそうだったとしたら、アンタの部屋のエロ本をアンタの目の前で一冊ずつ火の中に放り込んでるところよ〉

〈悪魔かお前!?〉


 まとめてじゃなくて一冊ずつの辺りが、こいつの性格の悪さを引き立てている!

 念の為、お気に入りのやつは実家の方に避難させておこう。


〈デートなんてしたことないんだから何やっていいか分からないんだけど〉

〈そうね……まず服はちゃんと褒めること! 察するに、結花かなりオシャレしてるでしょ?〉


 オシャレ?

 ひなたの言葉に春宮を見ると、目が合った。

 

「あの……何か?」

「いや……」


 なるほどな。


〈全く分からん〉

〈このクソゴミ。何で生きてるのよ〉


 オシャレが分からなかっただけで酷い言われようだ。


〈しょうがないだろ! 春宮の私服なんて今回見るのが初めてなんだし! 普段どの程度オシャレしてんのか分からないんだからかなりなんて言われて分かるわけないだろ!〉

〈確かに陽の言うことも一理あるね。ひなた、クソゴミは言い過ぎだよ〉

〈そ、そうね……クソまでは言い過ぎたわね〉

〈ゴミも撤回しろよ〉


 まず女の子がクソだのゴミだの汚い言葉を使うんじゃありません。

 

〈ひとまず、服褒めればいいんだな? 春宮待たせたままだから、後でまた連絡する〉

〈最後に俺からアドバイス。映画館に行くんなら、陽の家から二駅先にある大型モールがオススメだよ。あそこなら大抵のものは揃ってるから〉

〈おう。サンキュ〉


 さて、服を褒める……か。

 でもなぁ……どうやって褒めたもんか……。


「あ、あー……春宮?」

「はい?」

「そ……その服、かっ、きゃわいいな」


 噛んだ。死にたい。

 というか何だよきゃわいいって! 俺はチャラ男か!?


「あ……その、ありがとうございます?」


 というかこれだと服だけ可愛くて本人が可愛くないみたいじゃねえか。

 ミスだミス! やっぱり慣れないことはするもんじゃない!


 あーやめだやめ! こんなの俺らしくない! そもそも、オシャレを褒めるったって、春宮は元々可愛いんだから何着たってあんまり代わり映えしないんだよ……何着ても似合うと思うし!」


「ふぇっ!? あ、秋嶋君!?」

「あ? どうした?」

「いえ……その……今、私のことを可愛いって……!」

「……もしかして、俺……声に出てた?」


 春宮は顔を真っ赤にして何度もこくこくと頷く。

 そうか……声に出てたか。


「おっ、ちょうどいいところにトラックが! ちょっと行ってくる!」


 目指せ異世界転生者! 来世はイケメンに産まれますように!


「どこへ行く気ですか!? 危ないですよ!」

「離してくれ! 俺のような軽すぎる口は封じてやらないといけないんだ!」

「大丈夫ですよ! ――それに可愛いって言われて嬉しくない女の子はいないですよ」

「うっ……そ、そうか……あ、あのさ……春宮……落ち着いたから離れてくれると……助かる」


 抱き着いてきながら、破壊力抜群の笑顔で上目遣いとかトラックに轢かれるまでもなく、俺の理性を殺すには十分すぎるから!


「あ……ご、ごめんなさい」

「い、いや……俺も取り乱して悪かったな」


 なんか調子狂うな……俺ってこんなに女子の扱い苦手だっけ?

 ひなたでもっと慣れてたと思うんだけどな……いや、あれは女子であって女子じゃない。

 少なくとも、人のエロ本を燃やすと脅してくるような奴は女子にカテゴライズしちゃいけない。


「そ……そろそろ行くか」

「そ……そうですね」


 こうして、不慣れな俺たちの行き当たりばったり、ノープランデートは幕を開けたのだった。

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