魔女のマシュラ!

 普段の風魔は、他の妖怪たちから見ると「強いし・怖いし・つかみどころがないし」の三拍子なのだが、どうもこの少女、見習い魔女のマシュラ・ヨルレアンに会うと調子が狂ってしまうらしい。


「ダメよ~! 一週間ぶりなんだからキスしたいの!」


 マシュラは基本的に、他人に優しく素直で楽天的な性格のかわいい子である。

 しかし、素直すぎて時々周りが見えなくなるようなのだ。


「やめろってば!」


 モジャラが一人シラけている中、風魔はマシュラのキスを数十発もくらった。それでマシュラも一応満足したらしく、風魔から離れた。

 風魔の顔と首筋は、今や真っ赤なキスマークだらけだ。


「マシュラ、女の子なんだからさ……。もうちょっとおしとやかになったらどうなんだい……」


 風魔はため息をつき、着物の袖でキスマークを拭き取ろうとした。

 ところが、消えない。しかも、マシュラの赤い口紅のあとだったのがどんどん茶色に変化して行く。


「ど、どうしたんだこれ……?」


 流石の風魔も狼狽した。


「うわっ、なんだかおかしな匂いがするぞ!!」

「風魔くん、それはおかしな匂いじゃないわよ!風魔くんに私以外の変な女が寄って来ないように、防虫効果のある香りの魔法をかけたの!」


 そう言ってマシュラはウィンクした。


「嘘だろ、この匂いが?!」


 風魔の顔はこわばっていた。


「違うだろう! 絶対!」

「え、だって私がかけたのは、ラベンダーの匂いの魔法よ……」

「どう考えても、この匂いは犬のフンだぞ?!」

「えーーーーー!! また間違えたーーーーーっ!!」


 マシュラは“ほとんど必ず”と言って良いほど魔法を失敗する。


「コインを消しゴムに変えろ」と言ったらパイナップルになるし、「魔法でジャガイモの皮を剥け」と言ったら、どこからともなく現れたピーラーが周りにいる者たちの皮を剥ぎ取ろうと追いかけて来たりする。爆発事故など日常茶飯事だ。


 そんな訳で、魔法学校の成績も後ろから数えた方が早い。……というか、ほぼビリである。


 つい一昨日も授業でひどい失敗をして、魔法学校の先生方に「一週間の外出禁止、問題集300問」の罰を言い渡されていたのだが……。


「もっと学校で魔法を勉強してから使ってくれよ!!」

「だって……。罰則ばかりで学校は退屈なんだもん……。風魔くんに会いたい気持ちが抑えられなくて、今日もみんなに内緒で抜け出して来ちゃった」

「罰則ばかりなのはマシュラが悪いっ!」


 ……先生方のスキをついて学校を抜け出して来たのだそうな。

 どこにそんなに惚れたのかは知らないが、風魔への愛のためなら、無駄にすごいスキルを発動するのがマシュラの特徴だ。


「なんでも良いから、早くこの匂いをどうにかしてくれ!」

「わ、わかったわ!!」


 マシュラはひどく慌てながら呪文を唱え始めた。


「あ、アブダカカカカ……!」


 風魔の体は緑色になり、小さくなった。

 ……かと思うと、そこには一匹のカエルが登場していた。


「ゲ……ゲコ!ゲコゲコ!」


 言葉はわからないが、怒っているということだけはわかる。


「あーん、もうどうしてなのぉ!?」


 マシュラは地団駄を踏んだ。

 モジャラは、マシュラの魔法の巻き添えになるのを恐れて外へ避難した。


「ピラリラッラ、アブカノカ!」


 二度目の呪文にカエルが消え、サイズも大きくなり風魔は一瞬元に戻ったかのように見えた。

 しかし、そこに現れたのは特大サイズの目覚まし時計。それがジリジリとけたたましく鳴っている。


「きゃあーーーっ! また間違えたぁーーー! 誰か助けてーーーっ!!」

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