招かれざる訪問者

「あの……これから仕事なので……それでは、また……」とドロが帰り、「俺も昼寝してくる。またな〜」と夜多郎も帰った頃、テーブルの上の料理もすっかりなくなった。

 風魔は最後の一杯のお茶を飲んでから立ち上がった。


「そろそろ帰ろう。かわうそー、お勘定」

「オイラも、大満足! は〜、いっぱい食った〜」


 モジャラは風魔の後をチョコチョコと歩いてついていった。


「ハァーイ!」


元気な声がして、かわうそが店の奥から走り出てきた。


「今日も美味しかったよ」

「え、ほんと? ありがとぉ!」


「またね〜また来てね〜!」とのかわうその声に送られて、風魔たちはいつもの小屋に帰り着いた。


 風魔とモジャラはゴロリと破れ畳の上に寝転がった。


「ドロさんの恋をサポートする……。面白い。久しぶりに良い気晴らしができそうだ」


 モジャラが横をみると、風魔は天井を見つめニヤニヤ笑っていた。


「ど、どんなことをするつもりなんだ? 風魔………」

「そりゃあ、もう、いろんなことさ。もちろん、僕だけじゃなくてあやかし村の皆にも手伝ってもらうけどね」


 風魔は風の妖怪なので、普段から自由気ままで気まぐれで、ルールに縛られない&型にはまらない性格なのだが、今度の一件は完全に彼のスイッチを押してしまったらしい。

 まだ最近産まれたと言っても、もう三百年は一緒に暮らしているモジャラだから、風魔がこういう時どんなことを計画するか……についてはよく知っている。


 あやかし村の命運はここに定まった。

 今年の夏も、大大大大大大大騒ぎになることだろう。



「一寝入りしたら、まずは雪子のアイス屋に行って来る」

「お! アイス! オイラも行くよ!」

「別に“連れて行く”なんて言ってないけど」

「まあ、そう言わずに……」

「遊びに行くわけじゃないんだよ、モジャラ。僕は真剣なんだ」

「オイラも真剣にアイスを食うからぁぁ!」


 と、その時だった。

 小屋の扉が大きく開け放たれ、紫色のとんがり帽子をかぶった見事なブロンドの髪の少女が、元気に飛び込んで来た。


「ダーーーーーーリン!! 会いたかったーーーーーーっ!!」

「う、うわ、マシュラ……!」


 風魔は顔色を変えて立ち上がった。だが逃げる暇もなく、帽子と同じ紫色のマントやブーツがひらりと舞い、風魔の体に絡み付いた。


「風魔くん、久しぶりーー! 大好きよ!」


 少女はそう言って唇を近づけてくる。


「マシュラ! いきなりそういうことをするのはやめろって!」

 

 風魔は少女から逃れようと、必死で暴れた。

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