雪女に一目惚れ

「死神が恋だって?」

「よし、応援してやろうぜっ!」


 モジャラは口をポカンと開け、夜多郎は張り切りだした。


「ここまで聞かされて、何も力になってやらないっていうのは無いだろ??」

「あ、ありがとうございます……」


 ドロは顔を赤くしておずおずと頭を下げた。


「で、ドロさんが一目惚れしたのは、確かに雪女だったんだね?」

「はい、あの綺麗な銀色の髪は、確かに雪女さんならではのもの、です……」

「あやかし村で雪女って言ったらさあ……」

「わかってる。あの子だよね?」

「ああ、あの子しかいないよな」


 風魔と夜多郎とモジャラはうなづき合い、声を揃えて言った。


音ヶ原の雪子おとがはらのゆきこ


“音ヶ原の雪子”なるものは、あやかし村の外れにある“音ヶ原”という、いつもザワザワと茂みが音を立てている原っぱに住んでいる。


 かわうその料理店と同じように“あやかし本通り”にアイスクリーム屋を開いているので、仕事帰りに偶然ドロに出会い、声をかけたのだろうと思われた。

 

 彼女は、相当な美人なのにお高く止まったところがなく、誰にでも優しいのでかなり人気がある。ただし、ダジャレが……それも、とても冷たいダジャレが好きなのが玉にきず。彼女のダジャレを聞いた者は、文字通り凍りそうになる。


「相手が雪子ってことは、競争率が激しいだろうなあ」

「美人だからね~。彼女目当てにアイスを食べに行く輩も当然いるね」

「本人は気づいていないと思うけどね。天然だから」

「あの……私は、どうすれば……」


 風魔たちの言葉に、ドロはまた暗くなっていくようだった。


「まずは、雪子に、良い印象を持ってもらうことが大事かな?」

「そうだな。まずは挨拶からだな」

「ハキハキと」

「それから、そのボロ服を着るのはやめよう」

「せめて新しい布に取っ替えてこい」

「笑顔の練習もすること」

「ダジャレの練習もしたほうがいいな」

「出来るだけ寒そうなやつを」

「あ……あ、ちょっと待ってください……。今、書き留めますから……」


 ドロはどこからともなく小さな黒い手帳を出すと、猛烈な勢いでペンを動かし始めた。


「おや、ドロさん、その手帳は仕事に使うものじゃ……。人間の名前がいっぱい書いてあるけど、その上にメモしちゃって良いの?」

「はい……。仕事なんて、この際どうでも良いです……」


 地獄一体どんな教育をしているのだろうか。


 それからも風魔たちは「雪子の店の常連になれ」だの、「発声練習をして、良い声で『うまい、うまい』と彼女の手作りアイスを褒めてやれ」だの、細かなところまで余すところなくドロにアドバイスを与えた。


 風魔たちが喋り疲れて「ドロさん、まぁそんな感じだ……」と口を閉じると、それまで必死の形相でノートをとっていたドロはゴクリと唾を呑み込み「わ、わかりました……。お言葉通り、やって見たいと……思います……」と言って頭を下げた。

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