第19話   海賊の作戦

カルロ・バルバリーゴ少佐がリボニアで締結した外交文書は、ナビリア方面軍とナビリア星域外局で検討された上で、人類統合連邦の条約としてして正式に承認された。


 内容には問題が無いとされたが、締結の経緯が問題とされた。


 控え目に言っても、ギャングの交渉のほうがマシな内容だった。


 まず、あろうことか気密空間で爆発物を爆破し、警告し退避の時間を与えたといえ一方的に船舶を雷撃し多くの被害を与えた。その後、動揺冷めやらぬリボニアの面々に要求を通した。


 軍は戦時協定の一環として特に問題にしなかったが、ナビリア星域外局はこのような状況下で締結した条約の実効性に疑問を持った。締結しても守られなくては意味がないと。


 その疑問に軍は。「破られてから、検討しよう」と、取り合わなかった。 




 ナビリア星域外局とは現地政府から選ばれた人類統合連邦中央委員会の出先機関で、星域内での小規模な条約は大半がここで審議され、その結果がそのまま連邦政府の決定として承認される。細々した条約は中央からの返事を待つ必要が無く素早い運営を可能としていた。




 「と、言うわけで。無事承認された。ご苦労」


 カルロはベッサリオン大佐のオフィスで、審議の顛末を聞かされた。


 「2週間ですか。想像より早い承認でしたね。内容を多少変更したので揉めるものと考えておりました」


 「多少ね」


 ベッサリオンはカルロの感想に眉を上げる。


 「今回は特別だ。外事3局の尻拭いだからな。いつまでもズルズルと議論している暇も無い」


 「外事3局はなんと」


 「特には何も。意見の言える立場ではないからな」


 「それはよかった」


 「状況は理解されている。輸送艦の供与については、泥棒に追い銭との意見もあったが、影響力の浸透という意味では良い案だ」


 ベッサリオンは卓上の煙草入れから紙巻タバコを取り出し火をつけた。


 「お前もやるか」


 カルロにも勧めた


 「それでは、お言葉に甘えて」


 受取ったタバコに火をつける。


 「おおっ。相変わらずいいタバコ吸ってますね。本物特有の不健康な感じがいい」


 二人は紫煙をくゆらせる。


 「なんだ。いまだに合成タバコか」


 「健康にはそちらがいいですからね」


 カルロの意見にベッサリオンは鼻で笑った。


 「あんなもの子供で吸える。飴玉のようなものだ」


 「肺癌まっしぐらですな」


 「これを止めたら癌になる前にストレスで死んでしまうわ。誰かがいつも、やらかしてくれるからな」


 ベッサリオンは笑った。


 「これは手厳しい」


 「そうだ。反省しろ。まぁ、今回のことで一息つけるだろう」


 「これで、うちも4隻態勢に戻れそうですよ」


 カルロも笑った。




 「バルバリーゴ少佐。お客様です」


 自分のオフィスに戻ると従兵が声を掛ける。


 「客。だれだ」


 「グロン・ボル様と名乗られております」


 「グロン・ボル。聞き覚えが無いな。何者だ」


 「リボニアからお越しとのことですが」


 「リボニア。判った」


 「応接室にお通しおります」


 「ご苦労。ああ、ナイジェル艦長少しいいか」


 たまたま見かけたナイジェル少佐を捕まえて同席させるこにした。ギャング相手に一人は不味い。


 応接室にはリボニアでの交渉の席にもいた車椅子の男が待っていた。


 「おや。貴方でしたか」


 男の対面に腰掛けた。


 「バルバリーゴ少佐。突然の訪問。お許し願いたい。リボニアで邦大人のビジネスパートナーを勤めております。グロン・ボルと申します」


 カルロはこの時はじめてグロン・ボルを真正面から見た。リボニアで会ったときは邦徳と同年代の初老ぐらいに感じていたが、カルロより僅かに上といったところか。伸びた前髪で表情が隠れている。


 「丁度いいところに。条約が連邦政府にも承認されましたよ。直に正式な文書で届くでしょう」


 「そうですか。ありがとう」


 条約が気にかかっていたのかと思ったが、反応が薄い。


 「実は、連邦軍にお願いが有るのです」


 グロン・ボルは用件を切り出した。




 「なるほど。おたくの船が他の武装集団に襲われていると」


 「左様。先日の攻撃で我々が弱体化したと見た連中が各地で嫌がらせを」


 「さすがアウトサイダー。世知辛いね」


 右手のソファーに腰掛けたナイジェルが茶化す。 


 「しかし。昨日今日で襲い掛かってくるものですかな」


 ムーアによる飽和雷撃から半月程度しか経っていない。噂が広まってから襲撃に移るにしても早すぎる感がある。


 「我々の商売は、相手の隙を窺うのが鉄則ですから」


 グロン。ボルが苦笑いをする。


 「今は被害が大きくないが、放って置くわけにもいかない」


 「そうでしょうな。で、我々に何を」


 「共同作戦をお願いしたい」


 「共同作戦」


 カルロはグロン・ボルの言葉を反芻するが、反応は軽い。先ほどの条約は相互不可侵的な内容で、防共同盟のような作戦は該当しない。勝手にやっていろ、というのが正直な感想だ。


 「なかなか、難しい案件ですな」


 暗に無理だと伝える。


 「これを」 


 データキューブを差し出す。


 「どこか、チャートルームをお貸しいただきたい」


 「チャートルーム。作戦室を民間人にお見せするわけには」


 「では、私はここで待っています。内容の検討をお願いしたい」


 グロン・ボルはそれっきり目を閉じた。


 カルロはデータキューブを掴んで考える。まぁ。見るぐらいなら良いか。


 「では、しばしお待ちを」


 「判りました」


 グロン・ボルが頭を下げると車椅子がきしんだ。




 カルロはナイジェルと共に作戦室でデータを展開した。


 ある宙域での作戦図のようだ。


 「何だこれは」


 「戦闘機動図のようだね・・・・・・・素人にしては中々良く出来ているのでは」


 「これが、リボニアの連中。ここが我々、連邦軍。そしてこれが敵勢力か」


 二人であれこれ検討する。


 「どう思う」


 「よく出来ている。よく出来すぎている」


 ナイジェルが何時に無く真剣な表情になる。


 「素人仕事とは思えん」


 「元軍人の手際じゃないかな、しかも将校クラスの」


 「あの男がか」


 「もしくは、その部下か仲間か」


 カルロは唸った。99%お断りする案件なのだろうが、残り1%が魅力的だった。


 「これが、失敗すると我々へのダメージは」


 「表向きは何も。恥ずかしい目に遭うのと、奴らとの関係が少し気まずくなるでしょうね」


 「成功したら」


 「我々が楽できますよ。奴らもね」


 「そう思うか」


 「そうとしか考えられませんな。元々我々が行なう業務に絡ませている所がポイント高いね。いゃ。頭のいい連中だ。今まで苦労したのはこれのせいですかね」


 ナイジェルが肩をすくめて見せた。


 データキューブの内容は、少なくとも門前払いできるレベルの話ではなかった。




 「面白いものを見せていただいた」


 応接室に戻ると、テーブルの上にキューブを置く。


 「そう言って頂ける確信がありましたよ」


 グロン・ボルは表情を少し動かした。


 「どなたが立案した作戦ですか」


 カルロは視線が強くなる。


 「リボニアには色々な人間がおります。皆で無い知恵を絞りました」


 「なるほど」


 「我々は先日の交渉で連邦軍の実力を見せ付けられました。そして、貴方の仰った将来的に連邦への加盟。魅力的な提案でした。そのための第一歩とお考えいただきたい」


 グロン・ボルは淡々と語る。


 「無法地帯と後ろ指刺されるグリッドが連邦に加盟するなんて、痛快なことですからね」


 カルロは内心頭を抱えた。完成度の高い作戦と、功名心を適度にくすぐってくる話術。こいつ、交渉のプロだ。連邦政府直属の調停官が相手すべき案件なのでは。


 だが、内容は完全に軍の権限の範疇。


 葛藤するカルロの前にカードが差し出される。


 「これは」


 「これだけのお願い事です。手ぶらというわけにもいきますまい。ご笑納ください」


 マネーカードだ。


 カルロは手に取ると、ナイジェルに渡す。


 ナイジェルはしばし眺めた後、個人端末を取り出しカードをスキャンする。


 下手な口笛が応接室に響く。


 ナイジェルの差し出す画面を覗いて額を確認した。


 「大層なお土産だ」


 「作戦終了時には、4倍の金額をご提示いたします」


 「4倍ですか。そいつは豪儀だ。作戦終了時?成功時ではなく?」


 「左様」


 意地でも取り込むつもりのようだ。


 「軍の施設で堂々と収賄とは」


 カルロは笑ってソファーの背もたれに身を預ける。


 「収賄ではありません。これは少佐が拿捕したタシケントの輸送船から押収した戦略物資の一部です」


 グロン・ボルの言葉にナイジェルは笑い出した。


 「我が軍の内規についても良くご存知のようですね」


 妙な逃げ道まで用意している。


 「よくあることです」


 明らかに手馴れた様子。連邦軍の闇が垣間見える。


 「結構。もうしばらくお待ちください」


 データキューブとマネーカードを手に立ち上がる。


 「判りました」


 カルロは話に乗ってやることにした。




 ベッサリオンのオフィスに向かう前にグロン・ボルの作戦図をロンバッハとアルトリアに短い説明と共に送り、評価を依頼した。


 「貴様の入れ知恵か」


 カルロの説明を聞いたベッサリオンの第一声だった。


 「とんでもない。全て先方の主導です」


 第一戦略室のチャートに先ほどの作戦図が展開している。


 「よく出来た作戦案だ。貴様の入れ知恵でないなら海賊共が自力でこれを。信じられんな」


 「大佐の目で見てもそうですか」


 「部隊運用に手馴れた印象だ。スケジュールにも余裕がある。軍大学でも合格点が出せる内容だ」


 想像以上に評価が高い。


 「戦術システムで実効性を解析しろ。最優先だ」


 部下に指示を出すベッサリオンにマネーカードを出す。


 「なんだ」


 「小官が拿捕したタシケントの輸送船から押収した戦略物資の代金だそうです」


 「至れり尽くせりだな」


 「相当本気ですね」


 「いいだろう。リボニアの作戦に乗ってやろう。それはどうする気だ」


 「それも聞きたいのですが」


 「そうだな。後腐れないように、戦傷戦没者保障基金にでも寄付しろ。それなら後から脅される心配も無いだろう。私も証言してやる」


 「アイサー」


 少し惜しい、いや大分惜しいが、気分よく仕事をするほうが優先だ。何よりバレタラ怖い。


 ナビリア方面軍はリボニアの海賊集団と共同作戦を行なうこととなった。




 作戦は当然と言うかカルロが率いる第54突撃戦隊が受け持つこととなる。


 「これが、作戦の概要だが質問あるか」


 ブリーフィングルームで配下の3人に尋ねる。


 「我々だけで行なうのですか」


 アルトリアが手を上げた。


 「そうなる。まだ頭数が揃えられない。後詰にイルドアを配備する案もあるが指揮命令系統がややこしくなるから断るつもりだ」


 「口出ししないのなら、いてもらっても構いませんが」


 ロンバッハが意見する。


 「リボニアの連中ごと吹飛ばしかねんがな」


 「あなたは、戦艦乗りに偏見があるだけでしょう」


 「主砲の一斉射以外に取り得があるか」


 「彼らも雷撃馬鹿にだけは言われたくないでしょ」


 下らない言い合いが始まる。


 「我々がへましない限り何も言わないだろね。彼らも噛んでもらったほうがいいと思うな」


 ナイジェルがロンバッハに同調した。


 「判った。後詰をイルドアにお願いしよう」


 形勢不利と見てカルロは自案を引っ込めた。




 作戦の第一段階としてリボニアとの条約に基づき、輸送船の供与が始まった。


 軍の輸送船といっても特別なことは何も無い、せいぜい色が軍艦色なぐらいか。その軍艦色も引き渡す前に塗り直された。


 後はリボニアの連中が好きに塗りなおすだろう。


 クースの司令部まで訪れたリボニア勢に引き渡された。協定が破綻したり、違法な商取引に使用したりすると没収されるが、これからこの10隻の船はリボニアが自由に使える。整備の行き届いた船は何よりの報酬だろう。


 連邦はこの10隻を足がかりとしてリボニアに影響力を与えたい。両者の思惑は今のところ合致している。


 カルロたち第54戦隊は連邦の勢力圏まで護衛し、境界線で転進していく。


 後は5隻のリボニアの船と10隻の供与された船で進むこととなった。




 「どの辺りで食らいついてきますかね」


 ドルフィン大尉がカルロにコーヒーを手渡した。


 「奴さんたちの作戦が正しければ、明日、明後日ぐらいかな。連邦の勢力圏からも離れるし」


 コンコルディアが率いる第54戦隊は転進したと見せかけ、リボニアの船団を追い越し想定戦域に侵入しつつあった。近すぎると察知されるし、遠すぎるとイレギュラーに対応できない。戦隊を二つに分ける誘惑に駆られたが、作戦案通りにまずは動く。


 「たいしたものですね。自分たちを囮にして敵背後を我々に叩かせるなんて。勇敢な作戦です」


 グロン・ボルの提示した作戦は以下の通りだ。


 まず。リボニアが連邦より新型の輸送船10隻を貰い受けると情報を流し敵対勢力をおびき寄せる。10隻の新型船欲しさに集まってくるであろう、有象無象を離れて進撃している連邦軍が纏めて撃滅。ナビリアの治安を安定させる。リボニアは安全に船が受領でき、連邦は引渡しの片手間に、普段少数でゲリラ戦を仕掛けて、手間を掛けさせてくれる海賊連中を一網打尽にするチャンスだ。予想が外れて、敵が現れなかったとしても大して痛手にならない美味しい作戦といえる。カルロ。いや連邦軍はこの誘惑に勝てなかった。


 リボニアのアピールは成功したといえる。


 「D3衛星が船舶を探知。一隻です」


 オペレーターから報告が上がる。


 「おやおや。こんな何も無い宙域に独行船。お客様かな」


 カルロはコーヒーをすすった。


 「予想針路を解析。チャートに出せ」


 ドルフィン大尉の指示がチャートに映し出された。


 「どうでしょうか」


 「今のところ何ともいえない。変わり者の独行船の可能性もある」


 「そうですね」


 「各艦に情報伝達」


 「アイサー」


 カルロは周辺の情報収集に力を入れた。ここまで来て出し抜かれたくない。




 「多い。多いよ」


 あれから24時間。来るわ来るわで計23隻の所属不明船を探知した。


 この所属不明船は互いに距離を開けつつ広く薄く、リボニア船団に向かって進んでいく。カルロ達はそれを後方からゆっくりと追尾していた。


 今、後ろから強襲すれば瞬く間に半数を食えるのだが、悲しいかな最初の一発は奴らに撃たせるまで手が出せない。明確な敵対行為が無い限りただの怪しい船舶だ。


 ここで問題が一つ。


 カルロ達、第54戦隊はリボニア船団と直接通信が出来ない。軍の通信回線や暗号まで教えるわけにはいかないからだ。判るのは供与した輸送船から発信される現在位置の情報だけ。攻撃開始のタイミングが取りにくかった。


 「一つの意思で統一されてないようですね。各船が勝手に襲い掛かるのでしょうか」


 「同士討ちでも始めそうだな。まぁ奴らはお互いが敵みたいなものか。連携は無いだろう」


 これを油断というのは酷であろか。ただ事実としてそうなった。


 所属不明船たちはリボニア船団に近づくとあろうことか、そのまますれ違ってしまった。


 てっきり正面からぶつかり合うと思い込んでいた連邦軍を尻目に不明船たちはリボニア船団の後ろを取り攻撃を始めた。


 これは後になってわかったことだが、リボニアの船団は供与された輸送船を先頭に進んでいたため、これに被弾することを嫌がった海賊たちは、予定を変更して背後に回りこんだのだ。


 使い慣れていない船だからなのか、リボニア船団の動きは緩慢で、まんまとしてやられた。




 「くそ。予定変更だ。ムーアとイントルーダは右翼から本艦とラケッチは左翼から全艦最大戦速」


 カルロはリボニアの船団の両サイドを進み射線を確保しようとした。


 敵に撃たせるまで待たなければならないため、一手遅れた。海賊達がリボニアの船団に襲い掛かる。どちらも火力は大したことが無いが、数が違う。時間が掛かれば無用な損害が出てしまう。


 だが、カルロが真に恐れるのはそこではない。


 「前方より高エネルギー反応」


 「やっぱり、こうなったよ。だから嫌だったんだ」


 オペレーターの報告に床を蹴る。


 「全艦。当たるなよ。味方の弾でやられるなんて、馬鹿馬鹿しい」


 それは戦艦イルドアからの一斉射撃だった。


 リボニア船団の後ろを進んでいたイルドアの前に、船団を突破した海賊船が現れたのだ。


 向うから、銃口に飛び込む七面鳥。何を躊躇うことがあろうか。


 「全砲門。一斉射。全力射撃を行なう。リボニアの連中に当てるなよ」


 イルドアのベック艦長は千載一遇のチャンスにほくそ笑んだ。


 後は無慈悲な超長距離射撃。探知外から一方的に撃ちまくられる哀れな海賊船。直撃を食らえば文字通り船体が半分になる。


 最初の5分で二隻が沈んだ。


 海賊船はリボニアに構っている暇を無く散り散りになって離脱を図る。そこに二手に分かれて突っ込んでくる突撃艦が四隻。


 「いいか。機関部を狙え。全砲門一斉射。てっ」


 コンコルディアは主砲を発射した。


 高価な魚雷など使うまでも無いとばかりに、すれ違いざまに砲撃を叩き込んでいく。イルドアからの砲撃に恐慌状態の海賊船に反撃する気力などあろうはずも無い。面白いように火を噴いていった。


 リボニアの船団がもたもたと回頭している間に勝敗は決した。


 所属不明の海賊船は自ら十字砲火の真ん中に飛び込んでしまったのだ。結果として23隻中。撃沈5隻。大破4隻。中破7隻。投降4隻。逃走できたのはたったの3隻のみという。連邦軍の大戦果で終結した。


 カルロ達第54戦隊は幸いイルドアからの砲撃に晒されることなく終えることが出来たが、戦艦の主砲が火を噴く中の突撃は肝が冷えた。


 「だぁ。作戦通りにいかないな」


 「どうしてこうなったのでしょか」


 ドルフィン大尉が首を傾げる。


 「こちらの想定より、敵がお馬鹿さんだっただけだ。後。作戦はいいが錬度が伴っていないな。リボニアの連中は。イレギュラーに弱すぎる」


 「彼らも軍人ではありませんから」


 「そうだな」


 恐らくグロン・ボルの考案したであろう作戦に対応できたのは連邦軍だけだった。


 「リボニアの連中も我々との錬度の差が身に沁みただろうよ。大人しくしてくれれば大勝利だ」




 「連邦軍の奴ら。容赦がねぇな。一歩間違えたら俺たちも消し炭だぞ」


 リボニア船団の一隻でグロン・ボルは仲間の話に耳を傾けていた。


 「生きた心地がしない。あれが戦艦の主砲かよ。どこから撃ってるのかすら判らねぇ」


 「あんな砲撃の中、突っ込んでくる突撃艦もどうかしている。ムーアってのだけが化け物かと思っていたが、あいつら全員、頭おかしいんじゃねぇか。死にに行くようなもんだぞ」


 皆。連邦のやり口に恐怖心を覚えたようだ。


 「さぁ。みんな。態勢を立て直してくれ。リボニアまでは連邦軍がエスコートしてくれる。心配は要らない。我々は彼らの味方だよ」


 グロン・ボルは車椅子を進めて指示を出した。


 「判りました。おい。ぼやぼやするな。船団を立て直すぞ」


 船長の一言でクルー達は動き出した。


 「連邦には頑張ってもらわないと、我々も困る」


 グロン・ボルは呟いた。


 船団は無事。リボニアに到着し。連邦との条約も確かなものとなった。


 リボニアを立ち去る前に、そっとカルロの袖の下に差し入れられたカードがどうなったかは誰も知らない。




                           続く           


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