第13話『あおさ海苔のお味噌汁』

「おはようさん」


「ふぁぁーっ。おはよークロ……って、朝早いわね」


「ふふんっ。俺は毎日5時起きだからなー」


「負けたわ。わたしは6時半起きよ」


「シズも十分早いほうだと思うぞ」


「それにしても昨日はなんか盛り上がって遅くまで話し込んじゃったわね」


「お、……おう。そうだな」



 昨晩の話し……。なんだか、むず痒くなることを言った気がする。

 同居生活をするうえで目を合わせなくなるのも困る。

 恥ずかしいのでできるだけ、思い出さないようにしよう、うん



「たいしたもんじゃないけど、朝メシ作ったから食っていけよ」


「いいの?」


「おう。毎日、朝メシは三人分作っているからいつもどおりだ」


「三人分?」


「ああ、親父の分とかーちゃんの分だな。親父は朝、死にかけてるし、かーちゃんは起きるの遅い。だから俺は三人分作るのが普段の日課なんだ」


「凄いわね。クロって、とっても親孝行なのね」


「そうか? 自分の朝メシを作るついでみたいなもんだしな」


「ふぅーん。さすが、……わたしの彼氏だわ。女子力高い」

 


 シズは親指を立てて、ウィンクをしている。

 やめろよ、朝からキュン死しちゃうじゃないか。



「そういうシズもさすが、俺の彼女だ。すっげーかわいい寝癖してるぞ」


「わぁーっ! ほんとだ、わたし猫毛だから絡まると大変なのよねぇ」


「ははっ。それだけ髪が長いと手入れも大変そうだな。あとで、蒸しタオル作ってやるからそれを使いな。そんじゃ、食いますかー」


「「いっただっきまーすっ!」」


「納豆、紅鮭、お味噌汁、いかにも和風な感じの朝食。おいしそうだわ!」


「俺んちは基本的に朝は和食、夜はガッツリ洋食派なんだ。時間に余裕がない時は食パンかじって出かける時もあるけどな」


「うちは朝昼晩と洋食なの。だからたまに和食が恋しくなっちゃうわ。それにしても、このお味噌汁おいしいっ!」


「だろ? あおさ海苔のりってのを、味噌汁の上に振りかけたからな。かーちゃんが、九州物産店で買ってきたのを使ってみたんだ」


「なんというか、ちょっとだけ海の香りがしていい感じだわ。それに味噌汁の味にほのかにぬめりが出ておいしいわね。クロは、このお味噌汁をどこで知ったの?」


「その味噌汁はぐら寿司というところで飲んだ味噌汁がうまかったからそれを真似したんだ。うまいだろ?」


「おいしい。それに、紅鮭もちょうどいい塩加減でごはんが進むわ。クロって、子供の頃から思っていたけど本当に器用よね~」


「褒めすぎだっ! 紅鮭は魚焼き器で焼くだけだし、味噌汁は沸騰した湯に味噌と市販の出汁を入れればできる。ごはんだって、炊飯ジャーでタイマーだぞ」


「なんというか、鮭も箸が通りやすいのに、皮がパリパリのいい火加減だし、味噌汁も青ネギがほどよい量が入っていたり、ひと手間加わっているから美味しいのよ」


「ふふん。それじゃぁ、シズには将来俺を養ってもらおうおかな」


「うん、いいわよ?」


「おいおい、冗談だ! そこはツッコんでくれよー。さすがにそりゃ男として格好悪いだろ」


「そうかしら? いまの世の中、男女平等でしょ。向き不向きがあるし、わたしはそれも一つの家族の形だと思うわ」


「シズがよくても俺は古い人間だから、気にするのっ! はい、この話はこれでおしまい!」


「そう? ふふっ、まあいいわ、今日は勘弁してあげる」


「むぅ……」


「そういえば、クロは家族とよくご飯を食べに行ったりするの?」


「いや、その言いにくいことなんだが、実はぐら寿司には一人で行っているんだ……」



 ぼっちの辛いところである。

 親父は休日出勤もザラだし忙しそうだしな。

 仲は良いほうだと思うが、家族の交流はあんまりない。



「そ、そうなのね……。まわる寿司って一人じゃ入れないイメージがあるけど、一人で入店しても問題ないの?」


「池袋のぐら寿司に限っては問題ない。個人席がたくさん有って、一人で食っても問題のないような親切設計になっているんだ」



 テーブルのイメージは博多ラーメン”一欄”の、

 パーティションに区切られた席に近い感じだ。



「そういや、シズの家は洋食派であんまり和食食べないんだよな?」


「そうなの。パパがママに気をつかって洋食を食べるようにしていたんだけど、そのうちにパパが洋風な物に被れちゃって……」


「はは。シズのパパは、なんというか西洋ファンタジーの貴族みたいな感じの服をきているからな」


「そこは、日本人なら大正時代の華族とか言って欲しいところだけど、さすがは異世界ファンタジー好きのクロならではの表現って気がするわね」


「そういうけど、シズも俺の貸したリセロとか、めっちゃはまってただろ?」


「ぐぬぬ……ひっ、否定できないわ。あの青髪の鬼の子かわいいから仕方ないのよ。それに、あの主人公もなんというかガッツがあってかわいいじゃない」


「だろ?」



 シズがやたら『言質とりました』的な言葉を言うのは、

 完全に俺の貸したBlu-ray BOXの影響だ。

 フッフッフッ……いい感じで俺色に染まっているな。

 次は安定の"転ズラ"あたりを貸してみよう。



「放課後またデートでも行くか?」


「いきたーい。それじゃ、さっき食べた青さのりの味噌汁を飲めるぐら寿司に連れて行ってよー」


「おう、そうするか。俺もひさびさに寿司食いたいと思っていたからな」

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