第12話『大切な想い出』

「ちょっと真面目な話になるが、シズは高校卒業したあとの進路は決めてるか?」


「そうね。とりあえず、大学には進学しようと思っているわ」


「そっかぁ。まぁ、そうだよなぁ……はぁ……」


「クロ、どうしたの?」


「俺、シズと同じ大学に入るの無理だからさ、シズの通う大学の用務員にでもなろうかなって。まぁ、都合よく大学にそんな仕事があるのかは分からないけどさ」


「大丈夫。わたしが入れる程度の大学、クロなら絶対に入れるわ」


「なにを根拠に? シズも俺の成績表は見ているだろ」


「えぇ、もちろん。でも、クロは、本当はわたしより器用だし、頭が良いはずよ」


「そりゃ、過大評価だ。俺は間違いなく劣等生だ。しかも最底辺の」


「あら、でも何だかんだでクロはいまわたしと同じ進学校に通っているじゃない? それだけでも本当はかなり凄いことなのよ?」


「そりゃ、まぁ……シズと一緒に居られるよう、すっげー勉強したから」


「それだけじゃないわ。小学生の頃はわたし何の科目でも、ぜんぜんクロに勝てなかった。なんでも器用に、涼しそうにこなすクロがいつも羨ましいと思っていたわ」


「そんなの、……ガキのころの話じゃんか」


「でもね、だからかしら。わたしね、クロに負けないように一生懸命頑張ったの。苦手だった運動や、数学も一生懸命頑張った」


「いつも、一生懸命だったな」


「クロみたいに成りたかったから。せめて、努力することだけではクロにも負けたくないと思ったから」


「そうだな。シズはいつだって、がんばり屋さんだからな」


「ううん、そんなことない。わたしが頑張れたのは、クロのおかげ」


「俺は、ただ隣に居ただけだ。何もしていない」


「いつも一緒にいてくれるだけで、嬉しかったの。……ほら、覚えてる?」


「覚えてるって、いったい何をだ?」


「わたしが小学校に通っていたころって、わたしの金髪と緑色の目をネタにしょっちゅうからかわれたり、イジメられそうになったりしたじゃない」


「そんなことも、……あったな。ガキってのは、結構残酷だからな。自分たちと見た目や考え方がちょっと違うってだけで、排除しようとする」


 いまは学園一の美少女、学園のアイドルと言われている、

 五条院 静歌、彼女も小学生のころは外見が違うというだけで、

 イジメの対象にされていたのだ。


 女子からは嫉妬、男子からは気を引くためのちょっかい、

 理由はさまざまだがシズが苦労をしていたのは事実だ。


「わたしが、からかわれている時、クロはその相手に怒ってくれたし、イジメられそうになったときは、そのリーダーの男子生徒や取り巻きたちから守ってくれた」


「……っんなことも、あったっけなぁ」


「苦しい時、困った時は、いつだってクロが助けにきてくれた。上級生の男子相手に囲まれたときも、……ロリコン教師に襲われそうになった時も」


「あの時、か……」


「怖かった……本当に、恐ろしかった。いまでも男の人が怖いと感じるくらいに。だから、クロが身をていして助けてくれた時は、本当に嬉しかった」


「怒りのあまりにクビの骨をへし折ってしまって、小学生にして殺人犯になるんじゃと思ったが、まぁ……人殺しにならなくて済んだのはラッキーだった」


 そのロリコン教師は頸椎損傷による後遺症で、

 手足がまともに動かせなくなったらしいが、自業自得だ。


「あの後、教師の余罪が次々と明るみになって、被害者の親たちが集団で訴えたことで、終身刑になったのよね。クロはわたしだけではなく、多くの人を救ったのよ」


「……ストレートに褒められると、照れる。けど、ありがとう」


「クロはわたしが本当に困ったときにいつだって助けにきててくれる、ヒーロー。クロはわたしの王子さま。ふふっ、さすがに褒めすぎちゃったかしら?」


「むぅ……、シズ。明日、顔を合わせた時に恥ずかしくなるようなことを言うな。それにな、俺は王子様ってガラじゃないだろ」


「じゃあ、騎士様ナイトかしら?」


「まっ、そっちの方が近いだろうな。なにせ、実際に五条院家のをお守りするナイトだからな」


「確かに、わたしもちょっと恥ずかしいわ……でも、こういう時じゃないと言う機会ないじゃない」


「……そう、かもな」


「わたしとクロとは、長いあいだ一緒の時間を過ごしてきたのに、わたしは恥ずかしくてクロに感謝の言葉も想いも伝えることができなかった」


「それは、俺だって、同じだ。分かるよ。恥ずかしいし、変なこと言って関係がこじれるのは怖いし、この関係が変わってしまうのが怖かった」


「……うん」


「俺にとってシズは高嶺の花、俺とは違う世界のお嬢様、いつか俺のもとから離れていく、諦めなければいけない存在。そう思って、だから……ああ、駄目だっ! ああ、そうだよ、認めるよ。卑屈になってた、ぶっちゃけビビってたんだよ」


「ふふ……正直で、よろしい。嬉しいわ、わたしたち、同じだったのね」


「ずっと一緒に居たのにな」


「えぇ。不思議ね」


「言葉に出して、言わなきゃわからないことも、あるもんなんだな」


「そうね。これからは、出来る限りお互いの気持は話すようにしましょ」


「そうだな、俺たち、恋人同士……だからな?」


「そうね」


 恋人同士か。何をすればよいのだろうか?

 焦らず、一歩一歩一緒に探していこうか。


「ふわぁ……。今日は、よく話したわね。明日もあるし、そろそろ寝ましょうか? そのまえに、クロにはこの前のわたしのお返しをしてもらおうかしら?」


「おっ、おう。わかった」


 俺はベッドの上のシズのオデコに顔を近づける。


「ふふっ、やだ。鼻息がくすぐったい」


「我慢しろ」


 俺はオデコに唇をつけるが前髪に阻まれる。


「がんばれ、クロ」


 俺はシズの絹のような柔らかい前髪をかき分け、

 オデコに優しく、キスをする。


「はい、よくできました。おやすみなさい、クロ」


「おやすみ、シズ」

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