第11話『ピロートーク』

 電灯を消してお互い布団の中に潜り込む。

 シズはいつも俺が寝ているベッド。


 そして、おれは親父の布団を持ってきて、

 シズのベッドの隣に布団を敷き、横になっている。


「クロってエゲツない筋肉をしているわね。パジャマだとよく分かるわ」


「だろ? これが夏場でも学ラン着続けている理由だ。ドン引きされるからな」


 実際は護衛用に学ランの下に無数の暗器を忍ばせるためだが、

 そのことまでは話さなくても良いだろう。


 暗器の中には非殺傷のモノだけではなく、

 いざという時のための殺傷用のモノも含まれる。


「一年中学ラン着ていてしんどくないの?」


「まぁ、暑いけど慣れれば大丈夫。サラリーマンの営業のおっさんとか、真夏の炎天下の中ジャケットを羽織っている人も居る。それと比べればマシだ」


「確かに見かけるわね。額に汗かきながら、重そうな鞄を持って歩いている営業さん。クロみたいに体を鍛えていないのによく耐えられるわよね」


「そう、だなぁ……」


「そういえば、クロって将来なにか成りたいものとかあるの? お父さんと同じように、営業のお仕事とか、かしら?」


「うーん。ぶっちゃけいまのところ、何になりたいとかはないかな」


「安心した。わたしも同じよ。将来のことなんて、想像つかないわよね」


「いまのご時世、俺みたいな奴は仕事に就けたらとりあえずそれでいっかなって、気がしないでもない。ちょっと夢のない話ではあるけどさっ」


「働ける場所があるだけマシってコメント、ネットでよく見るわ。厳しいご時世ね」


「そうだな。あんまり贅沢を言うつもりはないけどさ、できれば親父が勤めてるようなブラック企業はごめんこうむりたいな」


「クロのお父さんでも、髪が抜けるくらいですものねぇ……」


「できれば、給料が少なくても家族との時間が持てるような仕事に就きたいもんだ。まっ、このご時世では、それすらも贅沢な願いなのかもだけどなー」


「あらっ、クロは将来的には……家族を持つ予定が、あるのかしら?」


「むぅ。俺の妄想の中での話だ。頭の中くらいは自由にさせてくれー!」


「………わたしなら、なってあげても良いわよ?」


「んっ、何に?」


「そのっ、……クロの家族に」


「何を言っているんだ、俺とシズはもう家族みたいなもんだろ。ははっ……」


 シズが言おうとしてくれている事は分かっているし、光栄だ。

 俺にシズを幸せにしてあげられるだけの確信があれば、

 こんな形ではぐらかしなんかはしないのだが。


「家族じゃないわよっ!……クロ、酷い。わたしたちの関係、忘れたの? ぐすっ」


「ごめん、シズ。……そうだよな、おれたち、恋人同士だったな……」


「ぐすっ……許してあげないんだからぁ……っ!」


「そりゃ……分かっているだろ?……、すっ、好、好きだよ、好きですよっ! だけどさっ、俺にはまだシズを幸せにできるだけの自信も能力もない。だから、もうちょい待ってくれ! 俺、シズに見合う男になれるよう、がんばるからさっ!」


「ふっふっふっ。はぁい、言質いただきましたーっ!」


「ぐぬぬ……シズめぇ……」


「そうそう、さっきの話だけど、最近は籍を入れたり、式を挙げたりせずに一緒に暮らす人も増えてるそうよ。だから、クロもそんなに気負わなくていいのよ?」


「事実婚、だったっけ? お互い籍を入れずに、結婚式もせず、二人の子を一緒に育てる。いまは若い人の8割が、そうなっているとかネットで見たな」


「みたいね。わたしは、良い傾向なんじゃないかとおもっているわ」


「へぇ。子供の頃はお結婚式をしてお嫁さんになりたいとか言ってたのにな」


「ばかっ、……誰でもいいからお嫁さんになりたいって言ってたんじゃないわ」


「そうだったっけ? ほら、よく一緒に結婚式ごっことかしたじゃん」


「……クロだったからよ! クロの……その、……になりたかったのっ!」


(ちくしょうっ! 俺の幼馴染、かわいすぎかっ?!)


「…………シズはさっ、」


「なにかしらっ?」


「……いや、やっぱ、なんでもない」


「なぁーにぃーよぉー。気になるじゃない。最後まで言いなさいよぉっ!」


「結婚とか、興味あるのか?」


「そうね、わたしも女の子ですもの憧れはするわ。でも、好きな人と一緒に暮らせるのであれば、式も、籍も、必要ないわ」


「それは、シズのお父さん、お母さん、それに親族が許さないだろ? シズは五条院家のお嬢様だ。俺みたいな一般人のようにはいかないんじゃないか」


「パパもママも、ましてや親族なんて関係ない。一度きりの人生ですもの」


「そうか。やっぱり、シズは格好いいよ」



 俺は親指を立てながら、

 片目でウィンクを送るのだった。

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