第14話『無天!ぐら寿司①』

 今日は特になにごともなく終わった。

 親父にLIMEで五条院家のシズの両親の様子を確認した。

 特に不審なかげはないとのことだった。


 少なくとも登下校、そして池袋の街を歩いている中で、

 不穏な気配を感じることはなかった。



「へぇー。ここが噂のぐら寿司ねぇ。随分と広いわね」


「池袋サンシャイン通りのぐら寿司は特別広いので有名なんだ」


「随分と外国のお客さんが多いわね。お店の3分の1くらいが、外国からきた観光客のようだけど、チェーン店にこれだけ集まるのは珍しいわね」


「実は池袋の無天ぐら寿司は、外国人が行きたい日本のレストラン1位になっているほどの人気の店なんだ」


「面白いわね。どうしてかしら?」


「たぶん寿司だけじゃなく、いろんな日本料理が食べられるからじゃないか?」



 授業中にスマホで調べていた情報だ。

 デートの前にはこうやって調べると良いと、

 どこかで読んだ気がするのだ。

 幼馴染の間とはいえ、恋人同士でもあるからな。



「ぐら寿司は、寿司以外にラーメンとかも旨いんだ。良い感じの魚粉を使っているせいか、専門店のラーメン屋と同じくらいうまいんだぜ」


「専門店なみにおいしいの? さすがに大袈裟じゃない」


「そう思うだろ? 一度騙されたと思って試してみなよ」


「寿司屋でラーメンを食べるというのも少し不思議だけど、クロがそこまで言うんだったら頼んでみようかしら? ところでどうやって注文するの?」


「このいま動画が流れているディスプレイがタッチパネルになっているんだ。そこで、注文したネタを選ぶと席まで流れてくるんだ」


「へぇー。なんだか面白そうだわね」


「だろ? それじゃ、俺は水を取ってくる。熱いラーメンを食べる時に、冷たい水があったほうがいいからな。その間に、シズは適当に注文を頼んでいてくれ」


「分かったわ。それじゃ、クロの分とあわせて2皿ずつ頼んでおくわね」


「うむ。それじゃ、シズ任せたぞ」


「はい、まかされました」



 気のせいかもしれないけど、

 ぐら寿司は水道水もうまい気がするんだよな。

 根拠はないし、きっと俺の気のせいなのだが。



「水持ってきたぞ。ラーメンにお茶だとちょっとシンドいからな」


「ありがとう。クロは、紳士ね」


「どういいたしまして。ところで、なに注文したんだ?」


「ふっふっふっ……それは、皿が来てからのお楽しみよ」


「そう言われると余計気になるじゃないか」


「デートですし、普通じゃつまらないでしょ? 変わりダネを注文したわ」


「おお……って、炙りチーズ豚カルビ? ほんとうに変わりダネだな」


「どうかしら?」


「いや、すげーうまいわ。なんというか、豚カルビの脂とチーズのごってりがまじりあって、ギットリしていてうまい。ザ・ジャンクって感じの味だ」


「クロ、……その表現ぜんぜん美味しそうじゃないわよ」


「まあ、とにかく食べてみろよ。口ではうまく説明できないがうまいぞ?」


「分かったわ……、って……凄いおいしーじゃない! 濃厚なクリーミーチーズに、カルビの脂身、ちょっとクドくなりそうなのに、酢飯のおかげであっさりするわ」


「それな、もう一貫は粗挽きわさびを使って食べてみてよ。きっとあうぜ」


「なるほど。このワサビをネタの上に乗せるのね。……うん、チーズの乗ったカルビの上にワサビ。これもさっぱりしてあうわね!」


「そうなんだよ。ここは、なんでも旨いんだ……おっ次はなんだ。黄色くてゴツゴツしたものが来たな」


「ふっふっふ。きっと、揚げ物が好きなクロが好きなものよ」


「おお、これは……まさか……」


「そう、とうもろこしのかき揚げよ」


「醤油をつけずに、皿に乗っているのをそのまま食べちゃってもいいのかね?」


「わたしはそのまま食べてみるわ。……なにこれ、とうもろこしの優しい甘さが口のなかに広がって、サクサクで、アツアツで……うん、おいしいっ!」


「マジかぁ? そこまで言うなら、俺は醤油をかけてみようか。うん、想像と違って焼きトウモロコシ的な感じの味にならなかったが、とにかくうまいっ!」


「最初はちょっとドッキリのつもりだったのだけど、どれも美味しいわね」


「そうだな。ぐら寿司にはよく来ていたが小遣いを無駄にするのが怖くって、あんまり冒険したネタを頼んでなかった。こういう変わりダネも楽しいわ」


「デートですもんね。クロが喜んでくれて良かったわ」



 ぐら寿司はうまいとは思ってはいたが、

 お金持ちのご令嬢のシズが、

 うまいというのだから相当レベルが高いのだろう。

 ふふふ……俺の舌は正しかったようだ。



「おー。ついに待望のラーメンがきたぞ」


「ラーメンは一つだけしか頼んでないのよ。クロが食べてよ」


「いいって、遠慮すんなよ。俺は、シズがうまそうに食っているのを見ているのが楽しいんだし。その、シズが食べている姿が、かわいいなって」


「もー。そんなこと言われたら食べづらいじゃないっ! 嬉しいけど……」


(うまそうに食べてるなぁ……。実際、うまいもんな)


「クロも、食べて。おいしいわよ」


(かっ、間接キス。なんだろ、めっちゃ良いじゃん。ここは、あえて自分の箸を取りださずに、シズの箸を使って食べた方が良いんだよな?)


「うん。やっぱりうまい。魚介系のラーメンとしては、俺のなかではトップレベルに君臨するうまさだ」


「本当においしいわね!」


「だな。これでシズが頼んだのは全部か?」


「うん。全部出揃っちゃった」


「それじゃー。次は俺のチョイスで注文しようと思うけどいいか?」


「もちろんよ」


「確かにシズの変わりダネの寿司も凄くうまかったが、俺は王道で行くぞ。楽しみにしているが良い」


「ぐら寿司上級者のクロのチョイス期待しているわよっ!」

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