第3話これはデートという名のフラグ折り

「はぁー!まじ最高。」

片手で漫画を読みながらコーラを飲むと

疲れた体にシュワシュワとした

炭酸が染み渡る。

「まさしくこのために生きてるってかんじだよなぁ。」

「おぬしは一回死んでおるがの。」

「…うっせぇ!てか勝手に人の

漫画読むなよ!」

にわかには信じがたい話だが

今俺の部屋で寝そべりながら

少年漫画を読んでいるコイツは

見た目こそ完全に幼女だが一応神様らしいがコイツは神様とは名ばかりで

ただのお荷物だがな。

「しかしおぬし明日はデートというやつ

なのに早く寝なくてよいのかの?」

そしてコイツはすぐに俺の地雷を踏む。

しかも無意識で。

「…せっかく忘れていたのに

嫌なこと思い出させんなよ。」



ことは数日前に遡る。

あっ鈴木さん!という呼び声に後ろを振り返ると小走りでこちらに向かってくる楠木の姿が見えた。

こんなささいなことでさえ頬が緩むのだがら男というものは本当に単純である。

「おーなんか用か?」

「実は遊園地のチケットがたまたま

四枚あるんだけど…

よければ主人さんを誘って皆で行きませんか?」

あ、やっぱそういう展開ですよね。

ハイハイ。わかってましたよ。

しっかし、面倒だな。とりあえず適当に

理由つけて断るか。

「主人は忙しいんじゃないか?

ほら、休日だしさ。なんか予定があるかも

知れないぞ?」

「そうですよね。でも私あんまり友達いなくて。こんなこと鈴木さんにしか頼めないですしダメですか…?」

そうして上目遣いでぎゅっと手を握られた俺

完全敗北。

気がつけば、なんとかして頼んでみるよ!

なんて調子のいいことを言っていた。



「へぇー遊園地か。いいな面白そうだ。」

主人にこのことを話すと

意外にも好感触なようでほっと胸を撫で下ろす。

…となるとやっぱりあいつが黙っているわけ

ないよな。

「コウが行くなら私も行く。」

ま、やっぱりそうなるよな。

しかし主人は真野を気にすることもなくお前も来るよな?と俺に話をふった。

「え?あぁ。まぁ。」

「ふーん。来るんだ。楽しみー。」

一切感情のこもっていない声でそう言うと

いつものようにじろりと俺のことを睨んだ。

おい、仮にでもこれは俺が貰ったものだぞ?

それに遊園地なんて恋愛フラグだらけだし。

フラグは折っておくにこしたことはないのだ。

すると突然忍者のように現れたかと思うと

主人からすっとチケットを奪い取り

ひらひらとさせているコミュ力高男こと

橋本はなにやら楽しそうに

へぇー!遊園地か。デートっぽくて

いいじゃん!とまた話がややこしくなりそうなことを言い始めた。

そして案の定、主人は

ん?これってデートなのか?と

首をかしげ、真野は顔を赤くして

ちっ違うから!と必死に否定し

取り残された俺ははぁとため息をついた。

そうして俺は(地獄の)デートとやらに

出かけることになったのだ。


「あーーーまじ最悪すぎる。」

「?。なぜじゃ。デートというものは

楽しいものではないのかの?」

「まぁ本来はな。というかデートじゃねえ。これはデートという名のフラグ折りだ。」

最早説明するのも悲しいが

女子二人の矢印は主人に向いており

俺は完全に蚊帳の外。

フラグ折りでなければ絶対に参加しない

最悪のシチュエーションであり

もし仮にこれがゲームだとしたら

ライターが首になるレベルの話である。

「んーそれは大変そうじゃな。

しかしこの漫画とやらはかなり面白いもの

じゃな!他にはないのか?!」

神様、もはや他人事である。

まぁはじめから期待すらして

いなかったけど。

しかしこの神様構ってやらないと

なかなかに面倒くさいので

じゃあこれでも読んどけよ。と適当に

数冊の漫画を手渡すと

おー!といいながら再び静かに

漫画を読み出した。

(コイツぐらい皆単純だったら楽なんだけどな)


そうして当日。

俺が遊園地の前につくと

まるでモデルのようなすらりとした女子が

腕組みをして腕時計をちらちらと見ていた。パーカー、短パンにキャップと意外にもラフでスポーティーな格好なのだが

なにせスタイルと顔がいいためものすごく

目立っている。

正直あまりのオーラに話しかけるのも躊躇わていたがアイツは俺に気づくとこちらへ

向かって歩いてくるとまるで値踏みでもするかのように全身を見回した後ふっと

鼻で笑った。

「ふぅん。やっぱ来たんだ。

てか私服ダサすぎ。

同類だと思われたくないから

私の半径3メートル以内に

近づかないでくれる?」

おそらくこいつがメインヒロインなのだが

性格が悪すぎてもはや悪役である。

おい、こんなクソゲーのライターだれだよ。

こんな性格の悪いヒロインのゲームなんて需要0だぞ。

しかし、主人がくると人が変わったように

優しい口調になるのだがらなんというか女は怖い。

「おー遅くなって悪いな。」

「ううん。私たちも今来たとこ!

ほら、ちょっとはコウを見習えば?」

確かに主人は背も高いし、ポロシャツにチノパンというシンプルだが清潔感のある格好で

Tシャツにジーパンそしてチビの俺と

比べるとまるで大人と子供のようだ。

…確かに悔しいが反論できない。

「ごめんね。遅くなって。」

楠木は所謂森ガールのようなロングスカートにブラウスというイメージ通りの格好をしていた。

「?どうかした。」

「いや、なんかその服楠木って感じで

いいな。」

「そう?ありがとう。じゃあいこっか

主人くん。」

楠木、俺を華麗にスルー。

やはりくそゲーである。

そうしてキャッキャと楽しそうな主人と

女子二人を眺めつつ俺は一人で虚しく歩いた。

その後ジェットコースターやコーヒーカップ

バイキングなど定番の乗り物に次々と

乗った後、楠木は異様なテンションで

次はあれ行かない?とお化け屋敷を

指差した。

「おっお化け屋敷か。面白そうだな!」

「お化け屋敷…ね。」

「ん?もしかして恐いのか?」

「そっそんなわけないでしょ。」

虚勢を張っているが真野の足は

完全にすくんでいて表情はかなり暗い。

(怖いなら怖いって言えばいいのにな。)

お化け屋敷の中はかなり冷房が強く

効いており少し肌寒いくらいだった。

「さすがに寒いな。」

「ううっ…」

「へー良くできてんな。」

「はい。そうなんです!ここのお化け屋敷はクオリティーが高いことで有名で…」

「おー!それは楽しみだな。」

「はい!この先にもっとすごい仕掛けがあって」

顔が青ざめている真野とは対照的に

主人と楠木はなにやらやけに興奮していた。

そうして気がつけば俺と真野は完全に

二人を見失ってしまった。

「おーい。主人、楠木ー?」

「待っ待って!!!頼むから置いていかないでよ!」

「半径3メートル以内に近づくなって

いったのはお前だけと?」

「そっそうだけどいっ今だけは許すから!

キャー!!!!!」

「おい。これただの紙だぞ。」

普段あんなに強気なのに今にも泣き出しそうな顔を浮かべ必死にすがり付いてくるところを見ると正直かわいいなと思えてしまう

俺がいた。

「ちょっ…ちょっと今変なとこ触ったでしょ!この変態!どスケベ!」

「んなことするか!」

(前言撤回。やはり全く可愛くない。)


そして最後にむかったのは恋愛イベントとしては鉄板でありそして最大のフラグである観覧車だった。

「観覧車か。そういえば昔妹と乗ったっけなぁ。」

「へー主人って妹いたんだな。」

「あっあの。よければ私主人さんと

二人で乗りたいなぁなんて。」

楠木、大人しそうな顔して意外と大胆で

ある。

やはり女は怖い。

「は?なに言ってんの。コウはアタシと二人で乗るから。」

女子二人は主人の腕にギュッと絡み付き

睨みあっている。

俺はなぜ今この場にいるのだろう。

いや、ダメだ。ダメだ。

俺にはフラグ折りという重大な任務が

残っている。

ここで挫けたらなにもかも終わりだ。

よし。ここは悲しいが俺と主人が

二人で観覧車に乗ることにしよう。

「いや、俺がコイツと乗るからお前らは…」

とそう言いかけた時だった。

「いや、一番ありえないから。」

「男性同士でですか?ふふっ。

面白いですけど…ねぇ?」

さっきまで睨みあっていた女子二人の視線が

一気に俺の方へ向く。

痛い。痛すぎる。

そうしてんーと悩んでいた主人がなにか

いいことでも思い付いたかのようにポンッと

手をうった。

「よし!グッパで決めるか!」

「「「え?」」」


観覧車車内。

本来ならカップルや家族同士で楽しい空中散歩を送るはずの場所なのだが…

「はぁ。何が悲しくてアンタと二人で観覧車なんか乗らないといけないのよ。」

「仕方ないだろ。悪かったな俺で。」

見るからにイライラしながら

膝立ちになりじっと後ろの観覧車を

睨み付けている。

しかしそんな真野の視線も虚しく

次第に二人の姿は見えなくなるとほんと

最悪。と呟き座席に座り窓の外を眺めている。

もうすぐ頂上に到着いたします。という

アナウンスが流れ俺も窓の外を眺めたが

夕日の眩しさに顔を思わず顔をしかめた。

「ほんと不細工。」

「はぁ?お前な…」

咄嗟に反論しようとしたが夕日に照らされた

真野の顔はまるで彫刻のように整っていて

この世のものではないかと思うくらい

美しかった。

「お前ほんと顔だけはいいよな。」

嫌みで言ったその言葉に真野は珍しく

…そうね。と一言呟くと俺の顔を見た。

「私こう見えても昔は太ってて

苛められてたのよ。そしたらコウが

どんな見た目でもお前はお前らしくいれば

いい。って言ってくれたの。

でもほんと私って馬鹿よね。

そのたった一言でダイエットして必死に

勉強してコウと同じ学校に合格したんだから。」

「意外と健気なんだな。」

「は?喧嘩売ってんの?」

「いや、ほめてんだけど。」

「…ま、アンタって外見はアレだけど中身は

悪くないわね。」

「おい、それって褒めてるのか?」

「さぁね。」

真野が面白そうにニヤリと笑ったのと同時に

まもなく地上に到着いたします。という

アナウンスが流れ長かった空中散歩は

終了した。

「あー楽しかったな。」

「はい。楽しかったです。」

「一体なんの話してたんだ?」

「何ってマリーアントワネットのギロ…」

「いや、待てそれ以上何も言うな。」

話したがる楠木と主人を必死に制止つつ

俺たちは遊園地の出口へとむかった。



「じゃあ今日はありがとうございました。」

「おー。またなー。」

楠木と別れた後俺と主人そして真野は

三人で駅へと向かっていた。

「楽しかったな。」

「ま、悪くなかったかも。」

相変わらずな真野の態度に俺はしかたねぇな

と肩をすくめふいに立ち止まった。

「?おい鈴木どうしたんだ?」

「悪い。俺母親に頼まれてたことあったからちょっと行ってくるわ。じゃまたな。」

去り際にちらりと真野に目配せをおくると

アイツはすぐにふんっと視線をそらした。

ほんっと可愛げのねぇやつ。


(おぬしもお人好しじゃのう。)

「ん?何のことだ?」

(まぁおぬしのそういうところ嫌いじゃないがな。)

「…うるせぇよ。」

(はー今日の夕飯はなんじゃろなぁ。)

「今日はカレーって言ってたぞ。」

(なぬ!?カレーとな!それは楽しみじゃ)

神様とそんな他愛もない話をしながら

ゆっくりとうちへ帰った。

なんだかんだモブとしての生活も

悪くないかもな。

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来世では異世界最強の勇者でハーレム生活と信じていたのになぜかギャルゲー的モブキャラになっていた話 石田夏目 @beerbeer

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