第11話 新学期はラブコメの始まり

 あれから半年が経ち、ゆめは無事に霧野丘高校に合格し、俺たちは二年生になった。

 

「これからはくーくん先輩になりますね!」

 

「悪いけど、学校では空牙先輩で頼む」

 

「えー、どうしよっかなぁ」

 

「じゃあ、俺もゆめちゃんじゃなくて泣き虫ゆめちゃんって呼ぶよ?」


俺は冗談っぽく言ったのだが、ゆめはちょっと怒っていた。

 

「それはやだ!」

 

「じゃあ、決まりだね」

 

「ちぇー、仕方ないですね!」

 

「二人ともごめーん。数学の教科書がどっかいってた~」

 

「おはよう、心」

 

「空牙くんおはよう」

 

「はいそこぉ、いちゃちゃしない!はやく高校行くよ!」

 

「「はーい」」

 

 ゆめは初めての学校だからちょっと興奮しているのか、リーダーみたいに仕切り出した。それより聞いて欲しいことがある。死にかけたことはあるか?答えは勿論『NO』だ。俺は、ゆめに勉強教えて欲しいとの事で、休日は朝から晩まで、平日も週に三回は呼び出された。そのおかげで、偏差値もだいぶ上がり合格できたのだが、俺は大好きな小説を読めないストレスで死にそうだった。

 

「あのね!私、夢ができたの!ゆめだけに。なんちゃって」

 

 こういう時が一番困る。どんなリアクションを取ればいいんだ。笑うのか?でもこんなに面白くない冗談で笑う人なんていない。

 

「あはははは。ゆめめっちゃ面白い。それとどんな夢なの?」

 

 前言撤回。すぐ真横にいました。そんなことより、ゆめの夢は俺も気になっている。ゆめの事だから大したことではないと思うのだが。

 

「私、小説家になりたい!」

 

「「えぇぇぇぇぇええ!」」

 

「えへへー」

 

 えへへー。じゃないわ。ゆめが小説を書いているところなんて見た事はないし、ましてや読んでいるところさえ見た事はない。どういう風の吹き回しなんだ。

 

「なんで、小説家になろうと……?」

 

「最近さ、恋愛系の小説を読んでるんだけど凄く感動するし面白いの。私もこんなの書きたいなって」

 

 恋愛小説か。俺もよく小説は読んでいるのだが、特にラブコメが大好きだ。どうせならラブコメを書いてもらいたい。

 

「そうなんだ。いいと思うぞ?」

 

「本当?お姉ちゃんはどう思う?」

 

「いいと思うけど、とりあえず書いてもらわなくちゃわかんないかなー」

 

「そうだよね……二人とも部活入ってる?」

 

「入ってないよ」

 

「現役の帰宅部レギュラーだよ。俺は一年の時からサボったことなんて一度もないしな。多分、キャプテン候補かな」

 

 どうだと言わんばかりに堂々と自慢げに行ったのだが、二人とも全く反応してくれなかった。ちょっと待て。あの心が笑っていないってことは、これはゆめの冗談より面白くないってことなのか。

 

「良かったー。二人とも入ってなくて」

 

「……いや、入ってる」

 

「あー、ごめんね。面白い面白い」

 

 ゆめに気を使われてしまった。面白くないとばかにしていた人に同情された上に謝られる。こんな惨めなことがあってたまるか。

 

「そんなことより、私たちが部活入ってなかったらどうなるの?」


そ、そんなことだと。心よ、トドメを指すのはやめてくれないか。

 

「あぁ、新しい部活作るのに部員が三人必要なんだよねー。それで、私たちで恋愛部作ろうかなって」

 

「「恋愛部!?」」

 

 ゆめは鼻を鳴らしながら得意気にしていた。いや、名前のセンス無さすぎでしょ。

 

「……どうかな?」

 

 俺たちの反応が思った通りのものじゃなかったのか少し不安げに聞いてくる。

 

「んー、いいんじゃない?」

 

 名前のことについ言ってたが、正直なところどうでもいい。人は外見より内面が大事だとよく言うだろ?それと同じだ。

 

「じゃあ、放課後パソコン室に集合ね。私部活の許可取ってくるからー」

 

 ゆめはそう言って職員室へ走っていった。

 

「もうそろそろ授業始まるし、俺たちもいくか」

 

「そうだね」

 

 ちょっと放課後が楽しみという気持ちを胸にしまってだるい授業を受ける。

 

 

 *

 

 

 俺はチャイムの音と共に目覚めた。やっと終わった。毎回思うんだけど七時間授業はやばいって。せめて六時間授業にて欲しい。そんなことを考えていたら、右の方から人影が近づいてきた。先生かもしれないので、寝た振りを続ける。

 

「空牙くん起きてるー?」

 

 なんだ心か。七限目寝てるのばれてて怒られるのかと思った。このまま寝た振りを続けたらどうなるんだろ。おはようの目覚めのキスとかしてくれたりして。さぁ、遠慮せずキスするんだ。

 

「んー、よく寝てるなぁ。ふふふ、で刺してみよっと」

 

「おー、よく寝たー。めっちゃいい目覚めしたー。よし、部活行くか」

 

 全然予想してたのと違うじゃん。てか、コンパスはやばいでしょ。危うく大きな穴が空くところだった。

 

「おはよう。なんか、汗すごいよ?」

 

 お前がコンパスで刺すとか言うからだろ。まぁ、寝た振りをした俺が悪いのだが。

 

「なんでだろうな……」

 

「ふふふ」

 

 いや、怖すぎでしょ。私全部知ってるよみたいな顔で笑うのやめて。

 

「お二人さん遅いですぅ!」

 

「ごめんごめん」

 

「空牙くんが寝てたから、起こしてた」

 

「そうですか。それより、この部活の部長は私こと朝比奈ゆめになりました。そして、副部長は朝比奈心さんと若松空牙さんななりました!」

 

 当然そうなるでしょ。だって三人しかいないんだから。

 

「……あれ、嬉しくないんですか?」

 

 ゆめはしゅんとしていた。これは喜ばないと後味が悪くなるやつだ。

 

「うわー、嬉しい!」

 

「やったよ空牙くん!私たち副部長だよ!」


「「いぇーい」」


俺たちはハイタッチを交わして喜んだ。

 

「ふふふ、それなら良かったです」

 

 あまりにもわざとらしい演技だったが、ゆめなので誤魔化せた。

 

「じゃあ、私は小説書くので二人は待っててくださーい」

 

「「りょーかい」」

 

「よし、出来たぁ!」

 

 ゆめは二時間くらいで書き終えた。短編ならまずまずのスピードだ。どれどれ中身は――酷いすぎる。これは小説だと言っていいのか。しかも登場人物の名前が空牙と心だし。そこはいいとしても、あまりにもセンスがない。

 

「いや出会って始めての言葉が『私、空牙くんのソーセージが食べたい!』はダメだろ。ただの頭おかしい人じゃないか」

 

「だってぇ、顔や性格よりそっちの方が好きって設定だもん」

 

「そんなくそ設定変えちまえ」

 

 顔や性格よりソーセージに惚れたってどんなラブコメだよ。てか、ラブ要素が全くない。

 

「あのー、私からも一ついいかな。『あー、無性に貝類が食べたくなってきた』『私のだったら無料だよ』って会話あまりにも不自然すぎるでしょ!しかも、そこから初体験とか最悪でしょ。これは酷すぎるよ!」

 

「えぇー、二人とも酷いなぁ。私にとっては最高傑作なんだけどなぁ」

 

「「最高傑作!?」」

 

 俺は頭が痛くなった。こんな小説が最高傑作だと……どっからどう見ても駄作だろ。いや、駄作以下だな。

 

「そこまで言うなら私に教えてよ」

 

「教える?」

 

「私に小説の書き方教えてよ!」

 

「できる範囲でなら。ちなみに、ゆめが読んだ小説ってなんて名前なんだ?」

 

「『下ネタが好きな女の子は好きですか』って名前だよー」

 

「おぉ!それラブコメじゃん」

 

?」

 

「そう!恋愛だけじゃなくて、笑える要素があるのがラブコメだよ」

 

 あー、なるほど。前に言っていた『面白かった』は笑えるところがあって面白かったってことか。


「詳しいんだね」


「結構読んでるからね」

 

「よし。私、絶対に最高のラブコメ書いてみせる!」

 

「頑張れ!俺もできる限り協力するからな」

 

「ちょっとー、私も忘れないでよー?」

 

「お姉ちゃんラブコメとか読むの?」

 

「……今日から読む」

 

「いや、全然頼りになんないじゃん」

 

「うるさーい!」

 

 耳を塞いで叫んでいる心を見て、俺とゆめは笑った。

 

「とりあえず新人賞目指して頑張るか」

 

「そうだね。一発で賞とってやるんだから」

 

 これが俺たちの初めての部活動だった。思っていたより楽しかった。皆で一丸となって一つのものを目指す。なかなか悪くないものだ。それより、ゆめの書くラブコメがどこまで面白くなるのかがすごく楽しみだ。俺も気合いを入れないといけないな。そう思いながら、俺はベットに横になりながら近くの小説を手に取った。

 

 

 

 

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