第23話

ウィリアムは、幻を見ているのかと思った。

窓からの光に反射してきらめく銀糸の髪に、深い湖を思わせる大きな瞳。完璧な造形の鼻と艶めく唇。

見たこともない美しい令嬢が窓際の席にいた。

彼女から目が離せないでいるうちに、どうやらセリーヌによって席に座らされたようだ。

気付いたら自分の席で授業を受けていた。


彼女の名前を知らない...彼女の声を聞いたことがない...彼女のことを何一つ知らない自分がもどかしくて、でも、動き出すこともできず、ウィリアムはひたすら見つめ続けた。

双子の兄が恋に落ちた瞬間を目撃したセリーヌは、実現してしまった自分の言葉に、すこしばかり動揺していた。

(恋をすればいいと、お兄様に告げたばかりに...でも、なぜかしら。

先ほどまでは、お兄様が恋をすることでこの状況がかわると感じていたのだけれど...すこし不安になってきましたわ。

あの方、どなたなのかしら?)

セリーヌは、兄を視界にいれつつ、窓際の令嬢の様子を観察していた。

(見たことない方ね。

一度見たら忘れられない容貌ですもの。

でも...どこかしら見覚えのある気もするわ。なぜかしら...お会いしたことは無いと思うのだけど。)

窓際の令嬢は、それほど熱心に授業を聞いているようではなかった。

おそらく、もう身に付けている内容なのだろう。

(うちの国ジルエットの方ではないのは確かだわ。

いくらわたくしでも、自分の国の同年代の令嬢なら、知らないはずはありませんもの。

他国からの留学生でしょうね。

どちらかしら。)

セリーヌは、常のごとくじっくりと考えていた。

受け答えがゆっくりなため、凡庸に受け止められがちなセリーヌだが、10歳の頃から特等科にも籍を持っている。ただ、王室の継承権争いを起こさぬため、公表されていない。

(そうね。

お兄様がこのご様子だし、授業が終わったらお近づきにならなくてはね。

どなたかにご紹介いただけるかしら...

皆様、そう思ってみえるみたいだけれど。

そうだわ。

授業に遅れたお詫びをしつつ、先生にご紹介いただきましょう。)

そんなことを考えながら、授業を受けていると、いつの間にか時間が過ぎていた。

気づくと、授業を終えた担任の女教師は教室を後にしていた。そして、件の窓際の令嬢の周りには人の壁ができてしまっていた。

(あら、こまったわ...)

兄はどうしているか、と隣に視線を向けると、相変わらず銀髪の佳人をぼーっと見つめている。

(このまま席にいるわけにもいきませんわね...)

すると、妹王女と同じように、主の様子を観察していた側近が素早く動いた。

ヒースは、自らの婚約者であるキャサリンを見つけると、王女の前に誘った。








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