第22話

窓の外を眺めていると、小走りに動く小柄な人影に気付いた。白い髪に短いスカート。

(あら、あれは...たしか、聖女ネリア?)

授業を聞いてる風を装って、さりげなくクララクラリスが観察を始めると...

正門に魔動馬車が留まり、そこから数人の男子生徒と一人の女子生徒が降りてきた。

(ジルエットの双子王族ね。周りは側近かしら。同じクラスじゃなくて安心してたけど、単に遅れてただけで、実はこのクラスなのかしら...後から、教室にやって来たりして。

...えっ?!)

クララクラリスが見ていると、白髪の人影が王族を取り囲む集団に走り寄り、隙間を縫って、後ろから王女セリーヌにぶつかっていった。



「きゃぁっ!」

いきなりの衝撃にセリーヌは、隣にいた兄ウィリアムの方によろめき、もちろんウィリアムは妹を支えた。

セリーヌが後ろを振り向くと、怯えた表情の白髪の少女がいた。

「あっ...王女さまっ。

も...申し訳ありません...。お許しくださいっ。」

(聖女ネリア?

なぜ彼女がわたくしにぶつかってきたのかしら...?)

セリーヌは、ウィリアムの腕に支えられながらのんびりと考えていた。彼女は素早く考えて、素早く言葉にするのが少し苦手なのだ。

「あの...?」

声をかけようとすると...

「申し訳ありませんっ!

お怒りはもっともです。私が悪いのです!

私がドジだからっ...」

大声で涙を流さんばかりに叫ぶネリアに、少しずつ周りからの注目が集まってきた。

「ヒース、彼女を医務室へ。」

尚も言い募ろうとしていたネリアを制して、ウィリアムが声をかけた。

「はい、殿下。」

ヒースは、ネリアに口を開く隙を与えず、サラリとエスコートをしてその場から遠ざけた。

「...お兄様?」

「...かかわり合いたくはないのだが...

何か、いい手はないものか...」

ため息をひとつつきながら、呟くウィリアム。それを聞いて、セリーヌは考え始めた。

ウィリアムはセリーヌをエスコートしながら正門から玄関へ。そして、教室に向かって歩いていった。その間、セリーヌは静かに考え続けていた。

教室の前まできた時、足を止めたセリーヌは、ニッコリ笑って口を開いた。

「お兄様。

お兄様は、恋をすればよろしいのですわ。」

「は?

セリーヌ、何を...」

彼女ネリアは、わたくしを悪役令嬢に仕立てて、お兄様との幸せな結末ハッピーエンドを演じようとしているのですわ。

ですから、お兄様は、それにのって彼女に恋をするか、彼女以外の方に恋をして彼女の思惑を潰すか、どちらかに決めればよろしいのですわ。」

ウィリアムは知っていた。双子の妹であるセリーヌは、考えるのは素早くないが、考えて考えて口に出した言葉には、ある種の力が宿っていることを。

だから、そんなバカな、とは思いつつも否定する言葉を口に出来なかった。

しかし...

「...セリーヌ、どちらもかなり難しそうだよ?」

そう言いながら、教室の扉を開いた瞬間に恋に落ちるとは、思いもよらなかったのである。


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