第21話
クラリスは、クララになった。
それは、始めに思っていたほど大変なことではなく、意外と心踊るものであった。
なんといっても、ベールを被らなくていいのである!
日常的に顔を見せてはならないクラリスは、ベールと扇で顔を隠しているのが通常である。
それがないというだけで、なんと快適なことか!
しかも、その状態で学生として学院に入り、同世代の若者と過ごす。
これは、楽しいに違いない!
『
「皆様、転入生をご紹介いたしますね。
中央の
穏やかな声で紹介するのは、担任の女教師である。
「クララ・グルナディエです。
よろしくお願いいたします。」
そう言って美しい淑女の礼を見せた佳人を目にしたクラスの面々は言葉を失った。
流れる銀糸の髪は一部結い上げられ、深い緑の瞳は湖のよう。スッと通った鼻筋にみずみずしい果実のような唇。
誰かが呟く。
「まるで...伝説の...大地に降り立った竜女神様みたい...」
その声を拾ったクラリス、いや、クララはふっと笑みをこぼす。
するとクラスは更に陶然とした雰囲気に飲みこまれた。
「ふふ。
ありがとうごさいます。
天空の
竜女神様にはとてもとても及びませんけれども、皆さま、仲良くしてくださいませ。」
クララは、そう言って指定された窓際の席に着いた。
クララが転入した、ジルエット王立セマンス学院の高等科5学年は、高等科の最終学年である。
卒業後は、文官武官に進む者、領地を治める者、研究開発のために特等科に進む者など、進路はそれぞれに別れる。また、女性は社交界デビューしてより良い結婚を目指す者もいる。
この学年には、ジルエットの双子の王族、第一王子ウィリアムと第一王女セリーヌがいる。もちろん、高等科の中心的な存在である。
クラスを見回しても、見知った王族の顔がなかったので、クララはちょっとほっとしていた。
情報によると、竜女神の娘を自称する聖女ネリアは2つ下の3学年に入ったそうだ。
配付された教科書を開きながら、クララ(クラリス)は思い返し始めた。
...セマンス学院に入ったのはいいけれど、サージェ先生、何にも教えてくれないから、何をしたらいいのか分からないのよね。
私が、この学院に入るだけでいい、ってマヤも言っていたけれど...どういうことかしら?
クララとして、楽しく学生生活をしてればいいなら、そんな嬉しいことはないのだけど...
あら?
この教科書、
ジルエットの高等科...この程度で大丈夫なのかしら?
教科書を見て、ほんのりやる気を削がれたクラリスは、教師の話を半分聞き流しながら、周りを観察しようと考えた。
と言ってもじろじろ見るわけでなく、視線を固定させることなく、あくまでもさりげなく。
これも、淑女教育の賜物...というより、マヤに気づかれずに街中の美味しいものを見付けるために身につけた技術である。
ただ、どちらかというと、注目されているのはクラリスなので、クラリスが観察されている。それに気づいてしまったクラリスは、諦めて窓の外を眺めることにした。
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