第19話

黄金色の草原の国ジルエット。

中央のシエルから溢れでて、水を湛えるルスルス湖。ジルエットのほとんどは平坦な土地のため、昔、湖畔は広大な湿原地帯であった。

しかし、魔具の開発により、湖岸に水路が整備され、広大な湿原が豊かな穀倉地帯に変化した。

それにより、ジルエットでは、様々な農作物が収穫されるようになり、また、品種改良の研究も発展してきた。

黄金色の草原の国ジルエットは、農作物や植物の研究が盛んにされ、豊かな食文化をもつ国となった。

ジルエットでは、自らの領地を豊かに育て、恵みを味わい、民を飢えさせないことが領主の務めとされた。自らの領地を愛し、領民と共に額に汗して土に触れる、そんな領主の姿があちこちで見られたジルエットだった。

しかし、豊かになったからこそ、土を知らない世代が生まれた。都会的な遊びや華やかな社交、きらびやかな装いにこそが上流階級の生き方、とばかりに生産することなく消費を主とする若い世代がジルエットを動かし始めたのである。

そんな、土を知らない世代を親として、自らの口にするものがどのようにして作られているか、考えたこともない、という若者が生まれていた。

彼らが集い、学ぶのは、ジルエット国立セマンス学院。12歳までの中等科、17歳までの高等科、専門教育や専門研究を主とする特等科からなる、ジルエットの誇る最高学府である。ただし、ここ数年は学びを求めるものより、社交を求めて通う者が多くなっている。


特に今年は、貴族の令嬢令息、富裕層の子女達が競うようにして、学院に集っている。

なぜなら、双子の王族、第一王子ウィリアム、第一王女セリーヌが高等科に在学するだけでなく、竜女神の娘、聖女ネリアが入学すると発表されたからである。





「ええと?

サージェ先生?...今。...

私に、ジルエット国立セマンス学院へ行け、と言われました?」

鋭い目力で美しさに凄みが増した紅の美女はにっこり笑って、力強く頷いた。

「ですが...本来、ジャルダンの次はプリエですわよね?その次にシェーヌ、それからジルエットですわ。

順番は...守られるものでしたわね?厳格に...?」

クラリスは、味方を求めて視線を彷徨わせながら言葉を継いだ。

「姫様。

諦めて?

順番よりも優先すべき問題が出てきちゃったんだよ。」

眉を下げ、申し訳なさそうな表情を作っているレイナルド。何も言わず、むっつりと目を閉じている憮然としたライオネル。

なぜだか、榛色の瞳をギラギラと輝かせ、黒髪が逆立ちそうな怒りを抱いているマヤ。

「...姫様は、悪性のお風邪を召して、プリエと、そしてシェーヌにはお出でになれません。しばらくは絶対安静の面会謝絶です。」

何も悪いことをしていないはずなのに、黒髪メイドの声に身をすくませるクラリス。

「ジルエット国立セマンス学院に入学されるのは、天空のシエル『賢者』《サージェ》縁の娘、辺境伯爵家令嬢クララ様です。

銀糸の髪、深い湖のような深緑の瞳の美しいお嬢様です。」

黒髪メイドの言葉に首を傾げる。

「...?

それって...私かしら?

竜皇女クラリスではなく、伯爵令嬢クララとして、セマンス学院に行くということ?」

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