第18話

私の名前はマヤ。

姓はありません。

このシエル見届人ガルディアンとなった時に消えました。

天空のシエルの至宝たる、竜皇女クラリス様の唯一の専属メイドを承っております。

私の姫様はそれはそれは美しい方です。

波打つ銀糸は月の光を集めたように輝き、深い湖のごとき深緑の瞳は銀色のまつげに縁取られ、白皙のかんばせにうっすら桜色の頬。

口許には常に笑みを湛え、瞳には楽しげな光りがきらめき、その生き生きとした表情がより姫様を美しく見せています。

しかし、竜皇女の婚約者候補、コリエペタル五国の王族で姫様のベールの下を目にした者はおりません。

なぜなら、あくまで婚約者候補、伴侶候補であり、姫様の隣に立つ資格を有していないからです。

まぁ、一目でも見たら、姫様のこと以外、考えられなくなると思いますが...私のように...!

姫様はベールで顔を隠したまま、ご自分の伴侶を選ばなくてはならないそうです。

それは、姫様ご自身が口にされたように、外見の美しさに左右されぬ眼を持つ方を見極めるため、だそうです。

それはわかります。...わかりますけれども!

コリエペタル五国を、順番に訪問する姫様に付き従っておりますと、

「ベールで隠すほど見せれぬ容貌なのだろう」とか、

「顔の傷を隠してらしい」とか、

「◯◯王子も、顔も見られぬ婚約者をもってお気の毒...」とかいう声が聞こえてきます。

姫様の真の美しさ(もちろん、外見も中身もですとも!)も知らず、勝手なことを言う外野どもにも、それを見抜けぬ間抜けな王族こんやくしゃこうほどもにも、腹が立って腹が立って!

このやり場のない怒りをどこにもぶつけようがなく...

ついつい、姫様の美しさを引き立てる飾り物を買いすぎてしまったり、勢いに任せて姫様のドレスを魔改造仕立て直したり、あらゆるシチュエーションを想定妄想して姫様の衣装をコーディネートしたりしてしまいます。

そんなことをしているうちに、袋ウサギの容量が足りなくなり、今では国別に五匹の袋ウサギ、その他、特別な状況に対応出来るよう準備した袋ウサギ十匹を使役しております。

おそらく、今後も増えていくことと思います。

とりあえず、次のプリエに備えて装備衣装を強化しておきましょうか。

そうこうしていると、部屋の魔技通話インターホンが鳴りました。

三役様からの呼び出しでした。

このまま姫様の目覚めを待ちたかったのですが、仕方ありません。

不本意ですが、姫様の目覚めを知らせてくれるよう、三つ眼ペンギンを召喚し、向かうことにいたします。





その頃、天空のシエルにおける三役『賢者サージェ』『探求者シェルシエル』『騎士シュヴァリエ』は、紅の賢者サージェの執務室で怒りに震えていた。

「......レイナルド。

もう一度言ってくれるかしら?

あり得ない言葉が聞こえた気がしたんだけど...?」

探求者シェルシエルレイナルドは、珍しくイライラした様子で、髪をかきあげた。

ライオネルは、精悍な顔を不快そうに歪めている。

「僕だって、こんな言葉、口にしたくもないんだよ!

こんなことを平気で言ってくる奴らの気が知れない!

ジルエットの『聖女』が竜女神様の『娘』だなんて!」

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