第17話

翌日クラリスは、おねだりしていた水玉カエル便デートに...

行けなかった。


なぜなら、黒髪メイドの愛の重さに眠れなくなった...訳ではなく、単に寝過ごしたのだ。

いつもなら、容赦なく起こすマヤも、ジャルダンから百合カラス、羽イルカ、彗星カジキと、1日でけっこうな旅をしたクラリスを思いやり、起こさずに休ませた。

ジャルダンから、中央のシエルまで、一般人が旅しようと思うと一週間は掛かる。かける費用で多少は短くなるものの、1日で移動できるのは竜皇女であるクラリスぐらいのものである。



クラリスが朝寝を存分に楽しんでいる頃、マヤは、袋ウサギの中身を点検整理していた。

お役立ち召喚獣の袋ウサギは、お腹の袋が収納として活用できる。

性質も穏やかで、魔技マギを使える者ならば、大抵召喚することができる。

魔技マギとは、心力しんりょくを使うための技術である。



始まりの竜女神が眠る前。今では伝説となっている時代には、『魔法』『奇跡』と呼ばれる不思議な力を行使できる者達がいた。

その力を持つものが特別な存在として君臨したこともあれば、皆と違うと迫害された時代もあった。

しかし、知恵を積み重ね、歴史を築いていく中で、様々な形で研究が進められ、『特別な力』がどうやって発現するのかが次第に解明されたてきたのだ。

それが『心力しんりょく』と『魔技マギ』である。

知性あるもの誰しもがもっている心。その心の強さこそが『心力しんりょく』。その力を技として発現するための技能・技術が『魔技マギ』である。

心の強さという曖昧なものが、研究を困難にしてきたが、技能・技術である『魔技マギ』を学び、身に付けることで、程度の差こそあれ、多くの人が、その昔『魔法』と思われていた力を使うことが出来るようになった。

更に、『魔技マギ』を容易く使えるように『魔具』も開発されている。その最先端の研究がされているのも、このシエルである。レイナルドの使っていた魔技タブレットは、その中でも最高水準の技術が結集されている。ジャルダンの宰相が、最新の魔具として使っていたのは下位互換である魔技ボードである。

心力しんりょく』をもち、『魔技マギ』を学び、『魔具』を活用することで、天空のシエルを中心とした花びらの国コリエペタル五国では、王族、貴族といった特権階級や、富裕層だけでなく、多くの民が豊かで文化的な生活を送ることが出来ている。

もちろん、竜女神の眠る中央のシエルと竜女神を崇拝する花びらの国コリエペタル五国に、永く平和な時代が続いているお陰でもある。



さて、竜皇女のたった一人の専任メイドであるマヤが、そこそこの『心力しんりょく』でそれなりの『魔技マギ』しか持たないはずはなく、天空のシエルでも指折りの実力を誇る。

そんなマヤは、クラリスのために用途に応じて袋ウサギを召喚つかい分けている。

クラリスが月毎に訪れているコリエペタル五国は、それぞれ文化や風習、流行が異なっているため、ドレスや飾り物、化粧品や靴、移動のための輿等をそれぞれの国別の袋ウサギに入れている。

もちろん、常に主人クラリスを美しく仕上げるため、訪問から自国に戻ったときには、その中身を点検整理し、更新することも怠らない。

真にメイドの鏡だと言える。

主人クラリスへの愛は重いが...

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