第16話

「あれくらいのこと、そんなに怒ることはないのよ、マヤ。」

「いいえ!

たとえ姫様ご自身がそう言われても!

私の大切な姫様に無いこと無いこと...

確かに、姫様はベッド大好きで次の予定のギリッギリまで寝てらしたり、隙を見つけては買い食いに走ったり、黙ってればいいのに余計なこと言ってせっかく私が最高に美しく仕上げても台無しにしたり...と、ホントによそのご令嬢を見習ってほしいと思うことも多いんですが、それでも私の大事な姫様です!そんな大事な姫様に向かってあんな風に言われると、流石の私も切れますよ!というか、切れてましたけど、そこを堪えて引導渡した私、偉い!」

一体いつ息継ぎをしているのか、わからない勢いで黒髪メイドが捲し立てると、クラリスが深緑の瞳を瞬いて呟いた。

「...マヤ......わたくし...

マヤの愛を重荷に思うべきなのか、私への認識に反論するべきなのか、悩むわ...」

「ふふっ。

姫様は愛されてるね。

じゃ、順番だと次は黄金色の草原の国ジルエットだけど、いつも通りに乗り込むかい?」

マヤの手から魔技タブレットをひょいと取り上げ、マヤの鼻息の荒さに笑みを溢すレイナルド。

魔技タブレットに指先を走らせ、目的の画像を見つけるとテーブルに置く。

そして再びミルを牽きはじめた。

「まだ、正式に発表されてない、というか認定されてないそうだけど、ジルエットに『聖女』が現れたそうだよ。」

魔技タブレットには、白い髪にマゼンダ色の瞳を持つ儚げな少女の画像が開かれていた。





私室に戻り湯を使ったクラリスは、黒髪メイドに白銀の髪を任せ、レイナルドが口にした言葉について考えていた。


『聖女』ですか...。

ジルエットに行ったら、多分会うんでしょうね。

面倒くさそうな予感しかしませんわ。

黄金色の草原の国と呼ばれるジルエットは、コリエペタル五国随一の農業大国。食文化の豊かな国ですわね。

美味しいものも多いので、割りと好きな国なのですが...

私の伴侶候補と『聖女』。

そこにも「真実の愛」が生まれてるとか?

プリエやビブリオのように流行ってるとしたら、私の伴侶候補がどんどん少なくなりますわね。

少なくなったら、楽になるかも、と思ってましたが、皆さんいなくなられたら、どうなるんでしょ。

レイナルドが言うように、血筋以外の方にも竜紋が現れるのかもしれません。

試してみたい気もしますね。



「...姫様?

なんだか、不穏なことをお考えじゃないですか?」

黒髪メイドが、鏡に映ったクラリスを見つめている。

「余計なことを考えると、姫様の視線が右上の方の向くんですよね~。

あ、あと、美味しい物のことを考えてると唇がとんがります。」

「...やっぱり、マヤの愛が重いわ...」





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