第15話

マヤは榛色の瞳を上げ、口を開いた。

「...私の情報が、必要ですか?

探求者シェルシエルレイナルド様。」

黒髪メイドの言葉に、レイナルドはミルを回す手を止め、賢者サージェを見やる。

賢者サージェテラは、コーヒーを一口飲んでからマヤに問う。

「あなたの異界の記憶に引っ掛かったの?」

「おそらく...「必要ないのよ、マヤ。」...」

口を開き、続けようとした黒髪メイドを遮り、クラリスが、のんびりと言う。

自らに集まった視線に、にっこりと笑顔で応える。

「言ったでしょう?

力はそれにふさわしい時に使うもの。

こんな些細な問題ことには必要ないのよ、マヤ。」

「ですが...ジャルダンでは、姫様に不当な言葉を投げつけられました。

あのような事が次の順番でも起きるのであれば...」

「...あれば?」

レイナルドが言葉を継ぐと...

「我慢できなくなるかもしれません!」

魔技タブレットを持っていない方の拳を握りしめ、黒髪メイドは言い放つ。

「あのジャルダンの元王子バカの無礼な言い様!

今、思い出しても腹が立ちますよ!

冷静にお役目を果たした自分を誉めてやりたい!」

「...それほどにか...」

いつものバリトンより一段低い声が答える。

「よし。

次の順番には、私が付こう。

大事なクラリスを貶めるなど、誰であろうと許せぬ。」

静かに怒りを滾らせるライオネル。

そんなライオネルの腕を軽く叩き、マヤに『ありがとう』と微笑みかけ、レイナルド、テラへと順に視線を送る。

「ねえ、マヤ。

私がベールで顔を隠して見せないのは、何のためだったかしら?


美醜がいけんで態度を変える者を選ばぬため。


言葉を多く与えないのは、何のためだったかしら?


情報ことばだけを信じ、精査することや真実を見極めようとする努力を放棄する者を選ばぬため。


王族の中から多くの伴侶候補が与えられるのは、何のためだったかしら?


権力ちからを自分のために振るう者を選ばぬため。


ね、サージェ先生?」

「その通りですわ、姫様。

竜皇女の伴侶、という立場に魅力を感じる者は多いでしょう。

ですが、本来竜紋は、娘を思う母の気遣い。

娘を愛し、娘が愛する伴侶に巡り会えるように、という竜女神様の願いが現れたものです。

コリエペタル五国の王族に多く現れるのは、今までの竜皇女の伴侶、つまり、竜皇女が愛した者に繋がる血筋のため。」

レイナルドが続きを引き受ける。

「コリエペタル五国の初代達はみな、竜女神の娘に全身全霊をかけて愛を捧げたらしいね。

時が流れ時代が移っても、その思いは彼らの末裔に引き継がれている。

だから、どんなに薄まっていても、資格のあるものには竜紋が現れる。


...でも、もしかすると、姫様の想いにふさわしい者ならば、血が無くとも竜紋は表れるのかもね。

たまたま、今までは初代からの血筋から伴侶が選ばれてきたけど。」

「もしかすると、そうかもしれませんわ。

どちらにしろ、伴侶を選ぶのは私。

そのために、ちょうどよく舞台を整えてくれる者があるのなら、使わない手はないわ。

あれくらいのこと、そんなに怒ることはないのよ、マヤ。」


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