第13話  私の記憶(11歳から)

小学五年生になった頃。

父が、私の少し膨らんできた胸やお尻を触る。

女っぽくなってきたという。


ある日、父が、私のくちびるにキスをした。


それが、どういう事かは知っていた。


週刊マーガレットの大好きな漫画で、主人公が恋人とキスをして最終回となった。とてもドキドキすることだと知っていた。


だからこそ、あまりにもショックが大きかった。

キスは、とても神聖なものだから。

父親が何故、娘にこんな事をするのだろうか。




幾日か経ったある晩、私の傍に、私くらいの人が立っている。

恐怖で体が震えるが、動けない。やっと目だけが、時計の時刻を確認出来た。


その人は、スーッと私の足元に行き、足元から私の身体に入ってくる。


重なる。


ハッとして目が覚めた。夢かと思った。

頭を横にして時計を見た。同じ時刻だった。



翌朝。

家の階段の踊り場に大きな鏡がある。

鏡がある事は、認識していたが、私には、関係の無いものだった。


生まれて初めて、鏡を見た気がする。

小学五年生になるまで、毎日昇っていた階段の鏡に、「私」が映っているのを初めて認識した瞬間だ。

そこには、「人間」になっている「私」が映って居た。

とても、衝撃的だった。

あの衝撃は、忘れられない。

「私」は、「人間」だった。



しかも、すでに少し女性になりかけている女の子だった。



「私」は、180°変わった。


もうグズでも、不器用でもない。汚らしくもない。

運動も勉強も頑張った。



「私」は、強力な支配力を発揮していった。


誰にも負けない。


クラス委員長をし、児童会の役員をし、

特に家庭内では、弟子たちからも聡子お嬢さんと呼ばれるようになり、キツい口調で、思い通りにしようとしていった。

ずっと、リーダーであり続ける事に自分を見いだした。



もちろん、同級生からは、別人のように変わったと言われた。

前の聡子ちゃんの方が好きだとも言われた。


それでも、「私」は、私を守るために強くなるしかなかった。




そう、「私」は、ヨウコ。


聡子の意識はある。でも、手出しはさせない。身体の中で、声をあげることも出来ずに、オリの中から見物しているしかないでしょ。ね、聡子。

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