第10話  フラッシュバックが止まりません!

ドクターOが開発した治療方法はじっくりと時間をかけるため、時間外診療?診療規定外?のため保険適用外になるとのことらしい。

と言っても、法外な金額を要求されたりはしない。

改めて予約が必要とのことではあるが、試しにちょっとだけ、やってみましょうと言うことになった。

ただし、今日お試しをする事で、記憶の蓋が開いた状態のままになってしまうが、それでも大丈夫であればとの話。


私的には、その事よりも、統合されたら、今の人格は、私たちは、いったいどうなってしまうのかが、怖くて、怖くて仕方なかった。




ドクターOは、力が入っていないのか、入っているのか、、ゆるいフットワークで、

「では、始めますねー。」

と言う。


焦った私は、

「先生、私、統合されるのが、とても怖いんですが!」


ドクターOは、

「大丈夫ですよー。良くはなっても、悪くはならないですから。」


………。


EMDRという、医師の指を患者が眼球で左右に追いかけていくことで、潜在意識下に入りやすくするもので、トラウマ解消の治療に用いる手法らしい。

それを更に、潜在意識下に入り易くする方法をドクターOは開発して、施術を行うようだ。

これは、USPT(解離性同一性障害や内在性解離のオリジナル療法)という。

私は、本を読んでいる限りでは、催眠術?かと思っていた。

でも、違うらしい。いや、違わないか?催眠術にかかった経験がないから、どんなものか分からないので、内心の焦りは禁じ得ない。




目を閉じて、呼吸を整え、リラックスした状態にする。


ドクターOが、トントン、トントンと身体の一部をタッピングしてくる。


(詳しく説明することで、特許?みたいなものに引っ掛かったら申し訳ないので、あえて、身体の一部と記します。

お許しください。)


ドクターOが、

「辛い記憶を持っている聡子ちゃん、聡子ちゃん、出てきてください。」


私は、えっ?

何処から、小さな私が出てくるの?と内心焦る。

「よくわからないです。」

と、話すと、ドクターOは、


「大人の聡子さんは、リラックスしていてください。

聡子ちゃん、聡子ちゃん。出てきてください。

何歳の聡子ちゃんかなー?」


私は、仕方なくじっと目を閉じている。

すると、閉じた目の前に、ぼんやりと"3"の数字が見える。

思わず、

「3」

と、呟く。


内心焦る。3歳か?

何があった?

私が覚えている記憶は、2歳の時だと思っていたが、3歳の時だったのか?


ドクターOが、

「3歳の聡子ちゃん、何があったのかな?教えてくれるかな?」


完全に私は、3歳の聡子ちゃん扱いだ。


それでも、ぼーっとした意識の中で、私自身が、2歳の時だと思っていた記憶が、現れてきた。

それをそのまま、ドクターOに伝える。

「夜中に、お父さんが、お母さんを殺そうとしています。ネクタイで、お母さんの首を絞めている。

お母さんは、私に逃げるように言った。

私は、寝室を出て、大声で泣く事で、助けを求めています。」


ドクターOは、私の肩を叩きながら、統合を促すように、

「大変に辛い思いをしたね。でもね。もうそれは、過去の話なんだよ。

いままでありがとうね。聡子ちゃん、その記憶だけはそのままで、辛い思いは忘れて、今の大人の聡子さんの中に入ってひとつになってくれるかな?そして、中から、聡子さんを支えてくれるかな?」


私は、えっ?

のっけから、基本人格の統合ですか?


最初は、解離した人格を全部融合して、最後に、基本人格と統合されると書いてあった。本の中の話と違うくない?


それでも、じっと目を閉じていた。


閉じた目の中に、小さな子供の姿が、ぼんやり見える。でも、逃げまわっているように感じる。

「逃げまわっています。」


ドクターOは、

「何か引っ掛かっているのかな。まあ、いいでしょう。」


「はい。目を開けてください。

と、こんな感じで、治療をしていきます。

ただ、聡子さんが、信頼してくれないと治療がなかなか進まないですね。」


私は、

「はあ。」


不信感がバレてる?なんなんだ?

私は、どうしたらいいか、わからないぞと、内心、もやもやした気持ちになる。

(ドクターO、ごめんなさい)


次回の予約を入れて、帰路に着く。


帰りの電車に乗った頃から、私の頭が想像していなかった状況になる。最悪状態だ!


ドクターOが、先ほど、お試しの治療の前に言っていた…記憶の蓋が開いたままになる、と。


記憶の蓋どころではない!

地獄の蓋でも開いたのかと思うほど、フラッシュバックの嵐がやってきたのである。


ランダムに、過去の辛かった記憶、悔しかった記憶、悲しかった記憶が、映像と共に、その場面に私を放り込む。

これには、参った。

普通に生活が送れない。



次の診察日まで、驚きの日々が始まった。

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