第12話 ソーニャ、大助とすれ違う

 休日の朝おきると、夢精していた。

 トランクスの中がドロっとしている。

(ふむ)

 ベッドから起き上がり、タンスをあけた。昨夜は暑くて汗をかいてしまったので、ついでにシャツも替えることにする。

 全裸になった時——

 とつぜんドアが開き、ソーニャが顔を出した。

「大助、朝ご飯デスよー……って、きゃああ!?」

 ソーニャが慌てて、回れ右する。

 僕は素早く服を着て、廊下へ出た。ソーニャがモジモジして、

「ご、ごめんなサイ。ノックもせずに」

「気にするな」

 ソーニャが、ほんのり頬を染めて、

「チラッと見えた大助の肉体……ダビデ像のようでシタ」

(あの、細マッチョの?)

 最近鍛えてるし、そう言われると嬉しいな。 

「まるでダビデ像のような、おち●ちんでシタ」

「包茎じゃねえか」

 まあそうなんだけど。

「あと……全身の筋肉も、ダビデ像みたいでした。キャッ、恥ずかシイ!」

「恥ずかしがる所がおかしい」

 でも、好きな子から筋肉ほめられて嬉しいな……包茎はいずれ、バイトで金ためて手術しよう。

 ダイニングへ行き、二人で朝食をとる。

 メニューは全粒粉ぜんりゅうふんのパン、貝が入ったミネストローネ、ナッツやオリーブオイルを使ったサラダ。最近ソーニャは、こういう地中海風のメニューを用意することが多い。とても美味しい。

 食後、ソーニャは皿を洗い始めた。

 僕はコーヒーを飲みながら、今日のプランを考える。

 言うまでもないが、射精についてだ。

(僕は今——ソーニャに『一日二回』に射精管理されている)

 だがそのうち一回を、すでに夢精で使ってしまった。 

 ソーニャによる射精管理は自己申告制。いくらでも嘘はつけるが……

(それは、できない)

 好きな子に、嘘はつきたくない。

(今日はあと一回。貴重な射精だ——使いどころを、慎重に選ばないとな)

「ラララ、ララララ〜〜♪」

 ソーニャがテーブルを拭き始めた。

 布巾を持つ手を動かすたび、大きな胸が揺れる。僕は射精した。

(何故!?)

 まさかのノータッチ射精。

 いくらソーニャが魅力的だからって、こんな簡単に射精するだろうか? 少しおかしい。

「大助? どうかしまシタか?」

 ソーニャが心配そうに見つめてくる。たわんだシャツの襟元えりもとから、豊かな胸元がのぞいている。

 このままでは間違いなく、三度目の射精をする。射精管理に反してしまう……!

「へ、部屋に戻るよ」

 逃げるように自室へ行き、鍵をかけて閉じこもる。

 それから。

 三十分おきくらいに、ソーニャが凌辱対策の特訓の誘いにきた。僕はドア越しに話を聞く。


「柔軟体操するから、背中を押してくれまセンか? 肉便器になったら、無理な体位をとらされる事もあるノデ、身体を柔らかくしておきたいんデス」

  

「全身にザーメンぶっかけられる時に備え、複数の水鉄砲で疑似ザーメンをかけて欲しいデス」


 前者はソーニャの身体に触るし、後者はビジュアル的にヤバイ。

 ともに射精する可能性が高いので「ごめん」と断らざるをえなかった。

「わかりまシタ……」

 ソーニャの悲しげな声で、胸が痛かった。

 


(大助……)

 大助の部屋から離れ、とぼとぼと台所へ向かいマス。

 なぜか彼に避けられていマス。

(嫌われるようなコト、したでショウか……)

 不安で胸が張り裂けそうデス。

 日課の凌辱対策にも身が入りまセン。疑似ザーメンを作っても、いつもより少し薄くなってしまいまシタ。

(ちゃんと訓練しなきゃ、いけナイのに)

 立ちつくしていると——

 突然二人の女性が、廊下から顔を出しました。

 琴葉と、剣道部の剣崎刀子さんデス。

 琴葉は大助と家族同然の付き合いなので、チャイムも押さずに入ってくるのデス。

「やっほー、ソーニャ。遊びにきたよー」「お邪魔するぞ」

 私は笑顔を作り、二人を迎えまシタ。

 琴葉が眉をひそめて、

「……ソーニャ、どこか調子悪い?」

「いえ、そんなコトは」

「嘘だよ。疑似ザーメンがいつもより雑だもの」

 どんな見分け方? と剣崎さんが突っ込みました。

(琴葉にはかないまセンね)

 私は二人に、大助が部屋から出てこない事、凌辱対策にも協力してくれない事を説明しまシタ。剣崎さんは『水鉄砲で、全身に疑似ザーメンをかける……!?』と目を丸くしていまシタ。私のストイックさに驚いたのでショウ。

 琴葉は腕組みして、しばらく考えたあと、

「もしかしてソーニャ——大助君を射精管理してる?」

「え!? ハ、ハイ。一日二回に」

 驚いて、琴葉に質問を返しマス。

「何故わかったのデス?」

「昔……私が大助君を、一日三回に射精管理してた時もね。同じように余所余所よそよそしくされた事があったの」

 琴葉は、懐かしむように目を閉じ、

「大助君が、中学一年生の頃——」

 一緒に登校した日、何故か大助が、全く目を合わせてくれなかったらしい。

 琴葉が理由を尋ねると、こう言ったという。


「僕きのう、約束を破って四回射精してしまったんだ」「好きなだけ、僕をぶってくれ」

 

 私は勢い込んで、琴葉に尋ねマス。

「で、どうしたんデスか」

「好きなだけぶったけど」

「ぶったんかい!」

 剣崎さんが叫びまシタ。

 琴葉は続けマス。

「大助君に馬乗りになって、ぶちながら思ったの。『この子は、なんて正直なんだろう』って」

「大助……」

 いくらでも嘘はつけたのに、誤魔化さなかったのだ。

「やはり彼は、素敵デス」

「素敵か……? あとなんで馬乗り……?」

 剣崎さんが死んだ目でつぶやきマス。はて、レイプ目コンタクトを貸した覚えはないのデスが。

「で、琴葉。その話と今日の大助が、どう繋がるのデスか?」

「多分——大助君は今日、すでに二回射精してるんだよ」

「ええっ」

 まだ午前中なのに!

「大助君は三回目の射精をし、ソーニャとの約束を破りたくない。だから部屋にこもって、ムラムラしないようにしてるんじゃないかな」

「あぁ……!」

 大助の誠実さが、心を打ちマス。好きになった私の目に、狂いはなかった。

 剣崎さんがレイプ目のままで、 

「私は一体、何を聞かされているのだ……?」

「射精管理についてデスよ?」

「それはわかっとる!!」

 ではなぜ聞くのでショウか。

 不思議に思っていると、琴葉が己の胸を叩いて、

「ソーニャ、私に任せて。二人の仲を元に戻してみせるから!」


 

 僕は、自室でボンヤリしていた。

(さっきソーニャの、凌辱対策の特訓を断った際——)

 ドア越しに聞こえた、悲しげな声。

 それが耳に焼き付いて……ここ最近日課にしてる筋トレも、勉強も、する気がおきない。

 ため息をついていると、部屋がノックされた。

「大助君」「お邪魔してるぞ」

 琴ねえと、剣崎さんの声だ。

「あ、来てたんだ」

「うん。ドア閉めたままでいいから、私の推測を聞いて」

 琴ねえは推測を語る。

 僕が今日すでに、二回射精してること。

 そして三度目の射精をしないため、ソーニャを避けていること……恐ろしい程、的中している。

 思わず苦笑した。

「琴ねえには、かなわないな」

「ふふ、何年の付き合いだと思ってるの?」

 付き合いの長さの問題か……? と剣崎さんの声が聞こえる。

 そして琴ねえは、出来の悪い弟に言い聞かせるように、

「大助君の誠実さは、美徳だと思う。でもそれで大切な人——ソーニャを傷つけたら、意味ないんじゃないかな?」

「!!」

 その言葉は、強く胸を打った。

(確かにその通りだ。僕は何をしているんだ……!!)

 でも部屋を出て三度目の射精をするのは、やっぱり後ろめたい。

 どうすればいいのだろう——

「大助君、ソーニャからの伝言だよ」

「え?」

「『今日から射精管理の回数を、一日五回にしマス』って」

 部屋から飛び出す。

 そこには琴ねえ、剣崎さん、そして……

 少し離れたところで、ソーニャがうつむいていた。

「ソーニャ」

「大助……私のこと、嫌いになったんじゃナイですか?」

「そんなの、天地がひっくり返ってもありえないよ」

 ソーニャが涙目になって駆けてくる。抱きとめる。僕は射精した。

 だが問題は何もない。射精回数は、一日五回になったのだから。まだ二回も残っている。

(でも……)

 僕は疑問を口にした。

「なぜ今日、僕はこんな簡単に射精してしまうんだ?」

「あ、私が作ってる食事のせいかもしれまセン」

 なんでも、ソーニャは僕に『エロゲーみたいな大量の射精をしてもらおう』と思い、最近のメニューを組み立てていたらしい。

 このところ、よく食べていた全粒粉ぜんりゅうふん、貝、ナッツなどは、精子の原料となる栄養素を含んでいるという。

「なんだ、お前が原因かよ〜」

 額をコツンとすると、ソーニャが「えへへ」と笑う。超可愛い。射精した。

 ソーニャは首をかしげて、

「でも大助は、今日何度も射精してたんデスよね。その割にはエロゲーみたいな『どぴゅうっ!』『びゅるるるるるるっ!』って音が聞こえなかったですケド」

「あれは誇張表現だよ」

「そうだよ。もう、ソーニャったら〜」

 僕、ソーニャ、琴ねえが笑い合う。

 少し離れた所で、剣崎さんが死んだ目をしていた。はて、レイプ目コンタクトでも付けてるのかな。





後書き:モチベーションにつながるので、

面白かったら作品の目次ページの、レビュー欄から

☆、レビュー等での評価お願いいたします


あと

『とにかく僕は死にかけのヤツに「力が欲しいか」と言いたい』

 という連載も始めたので、よろしければそちらもどうぞ






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