第11話 ソーニャ、公園に行く

 休日の夜。

 僕は台所で夕食の準備をしていた。

 隣接する居間では、ソーニャがテレビの相撲中継を見ていた。実況が聞こえてくる。


『横綱、激しい突っ張り! 大関と組み合いました。上手うわて下手したての激しい取り合い——がっぷり四つ! ああっ、大関の下手投げが決まった! 客席から、大量の座布団が飛び交います!』


 結びの一番が終わり、ソーニャが万歳して飛び跳ねた。

「大助! やはり相撲はファンタスティックです!」

「そうか」

 日本文化を、愛してくれるのは嬉しい。

「この実況、見習いたいデス」

「ん?」

 なんで実況?

「細やかな描写を、肉便器になったとき参考にしたいデスから」

 そういえば以前、ソーニャは放送部に入ることを検討していた。『実況の力を鍛えて、凌辱中解説できるようにするため』らしい。

 確かに抜きゲーのエロシーンで、ヒロインはなぜか己の状況を『膣内なかに出てるぅ!』などと解説したりするし。『したりするし』でもねえけど。

「さっきの相撲の実況を、肉便器になった時に活かすナラば……」

 ソーニャは、すっと息を吸い、


「私、激しく突かれてマス! 続いて種付けプレスの体勢にされマス!……上から下から攻められ、どっぷり中出しされてあアアっ、イクゥうううう!! 他の男達からは、大量のザーメンが飛び交いマス!」


 僕は無言で、夕食の準備を進めた。

 ソーニャが頬を膨らませて、まとわりついてくる。

「もぅ大助ったら、淡泊な反応デス」

「お前も女の子なら、恋愛ドラマとか見ろよ」

「やだなー。女の子に幻想みすぎデスよ」

 大相撲の実況を『肉便器になった時に役立ちそう』と思うのが女の子なのか?

 だったらずっと幻想見てたい……と思いつつ、ハンバーグとサラダを用意した。

「わぁい! 美味しそうデス!」

 ソーニャが炊飯器から米をよそう。

 二人で向かい合って食べ始める。ソーニャが、とろけるような笑顔で、

「美味しいデス!」

「よかった」

「『美味しい』と言えば大助。よくエロゲーで肉便器が『チ●ポ美味しい』っていうけど、チ●ポって美味しいんデスか?」

「あれはたとえだ。そこのドレッシングとって」

 そんな、いつもの団欒だんらんをしたあと。

 ソーニャがれてくれたお茶を飲んで、まったりする。

「ふー、相撲に緑茶。日本文化は素晴らしいデス。これで凌辱国家でなければ、完璧なのデスが」

 じゃあ完璧じゃねえか。

 そう思っていると、ソーニャが上目遣いで、

「ねえ大助、一休みしたら、凌辱対策の特訓につきあってくれマスか?」

 100%ロクな特訓ではあるまいが、付き合おう。

 惚れた弱みである。



 ジャージに着替えたあと、二人で公園にやってきた。ソーニャは小さなリュックを背負っている。

 すでに夜の8時を過ぎ、誰もいない。

「なんで、こんな所に連れてきたんだ?」

「公園といえば、凌辱スポットですからね」

 凌辱スポットて。

「まあ確かに抜きゲーで、男が公園で凌辱しながら『誰か来たぞ。このままじゃ見られてしまうなぁ?』と言葉責めしたりするな」

「さすが大助。『打てば響く』とはこのコトですねっ」

 内容が内容だけに、響いても嬉しくないけどな。

 ソーニャが、あおい瞳で見つめてきて、

「ところで大助……私の弱点って、なんだと思いマスか?」

「イカれてること」

「もぅ、冗談ばっかりー!」

 ソーニャが軽くたたいてくる。ガッツリ本気で言ったのだが。

「私の弱点は、肉便器に不可欠なスタミナです」

 ほらー。イカれてるー。

「私、体育祭のサッカーで、最初の試合のあと全く動けなくなったでショウ?」

 確かに、そうだった。

「肉便器になれバ、長時間耐久凌辱も行われるでデショウ。このままではその時、スタミナ不足を露呈ろていしてしまいマス」

「別に露呈してもいいと思うが……あと、耐久凌辱て」

 オートバイレースみたいに言うな。鈴鹿8たいかよ。

「ではスタミナをつけるため、特訓開始デス!」

(まあ、付き合うか。僕も思うところがあって、身体を鍛えてるし——)

 そう思った瞬間。

 ソーニャが四つん這いになった。

「え、なんで?」

「この体勢で移動することで、スタミナを養えるだけでなく、犬として扱われる時にも、備えられマス」

 確かに抜きゲーでは、お散歩プレイとかあるけどさ。

「でもさ。誰かに見られたらヤバイから、め……」

 そのとき。

 ソーニャがリュックから犬耳を取り出し、頭につけた。

「わんわん、なんちゃって」

 可愛すぎたので、四つん這いを了承してしまった。つくづく僕はこいつにベタ惚れである。

 それからソーニャは己の首に首輪をつけ、リードを僕に持たせた。本格的な恰好だ。

(仕方ない、やるか)

 お散歩プレイの特訓開始。

 公園を適当に歩く。

 ソーニャが四つん這いで歩きながら、見上げてくる。頬が、ほんのり赤い。

「大助。なんか私達……カップルみたいデスね」

「こんな事する、狂人カップルがどこにいるんだ」

 エロゲーならまだしも、現実でいるのか?

「私のパパとママも、やってまシタ」

「ごめんな」

 人の親を、狂人カップルって呼んじゃったよ。

 ふふ、とソーニャは笑って、

「もう離婚しましたケドね。仲が良い頃はママがリードを持ち、パパが犬だったらしいデス」

「お前のパパ、終わってんな……」

「なんてことを!」

 怒られた。

 確かによくない発言だった。ソーニャに謝ろうとしたとき、

「『日本は凌辱国家』という真実を教えてくれたのは、パパなのデスよ!」

 諸悪の根源じゃねえか!

(そ、そいつさえ、いなければ——)

 ソーニャが疑似ぎじザーメンを飲んだり、相撲中継見て『凌辱の時に役立ちそう』と思う事はなかったのだ。

 いつか落とし前つけてやる、と誓っていると、

「あの、大助」

 ソーニャが、おずおずと見上げてきた。太股をすりあわせている。

「オ、オシッコしたいデス……」

「そこの公衆トイレで、してきなよ」

「でも凌辱で、お散歩プレイ中にオシッコさせられる事に備え、そのへんで片足を上げて……」

「そんなストイックさ、いらん!」

 なおも躊躇ためらっているソーニャに、言う。

「公衆トイレも凌辱スポットだろ? 肉便器になった時の下見と思って、行ってこい」

「なるホド!」

 トイレに行かせるだけで、ひと苦労だ。

 その後も三十分ほど、四つん這いのソーニャをリードで引き、公園を散歩した。

「フウ……疲れまシタ」

 ソーニャはリュックから魔法瓶を取り出し、疑似ぎじザーメンをフタに注いで飲む。

「大助も、いかがデス?」

 差し出してくるが、むろん断った。原料は片栗粉だから、糖質などがれて運動後にはいいかもしれないが。

「もぅ、自信作なのに」

「自信作ってことは、ザーメンに近づいてるって事じゃねえか」

「ハイ。もはや疑似ぎじザーメンどころか、ジェネリックザーメンと言えるほどの完成度デス」

 ジェネリック医薬品みたいに言うな。

 などと思っていると——

 

「君たち、何をしている!」


 鋭い声とともに、制服姿の女性が近づいてきた。

(げっ!)

 血の気が引く……婦警さんだったからだ。

(しかもこの人、前に電車で会ったぞ)

 僕が誤ってソーニャの胸を触ってしまった。そのことで、この婦警さんに痴漢扱いされてしまったのだ。

 あのときは婦警さんが疑似ぎじザーメンで足を滑らせたため、逃げれたが。

 婦警さんが、僕を睨んできて、

「公園でお散歩プレイするなんて、この鬼畜!」

 ソーニャが四つん這いのまま、言い返す。

「私達、警察に捕まるような事はしてまセン」

「じゃあ何故、貴方は四つん這いになってるの?」

「ええと、コンタクトを探していたからデス。いま丁度、みつけた所でシタ」

 ソーニャが差し出したてのひら

 そこに、コンタクトが乗っている。

(あれは——『レイプ目コンタクト』!)

 肉便器になった際、完落かんおちしたと凌辱側に思わせ、油断させるためのものだ。

(コンタクトを探すフリか。見事な言い訳だ)

 感心したのもつかの間。

 婦警さんがソーニャに、こう尋ねた。

「じゃあ、なぜ貴方は首輪をつけて、リードを彼が持ってるの?」

「アノ、ええと……」

 ソーニャは激しく目を泳がせる。

 そして立ち上がり、魔法瓶のフタに疑似ぎじザーメンを注いで、

「よ、よかったら一口、いかがデス?」

 買収!

 しかも、世界一イカれた飲み物で!

「職務上、受け取る訳には……」

 婦警さんは鼻をスンスン鳴らし、

「何これ。ドロッとして、イカくさくて——ま、まさかザーメン!?」

 さすがジェネリックザーメン。誤認ごにんしてしまったようだ。

 それに婦警さんは以前、疑似ザーメンで転んでいる。それも誤認の一因だろう。

 婦警さんは顔面蒼白になり、

「お、お散歩プレイでは飽き足らず、ザーメンを魔法瓶に入れて持ち歩いてるの!? 聞いたこともない変態!!」

「あ、でも、オシッコは外で片足をあげてせずに、ちゃんとトイレでしマシたよ」

「何一つ、プラスにならない言い訳!!」

 婦警さんは身をひるがえし、

「く、狂ってるぅうう!!! 助けてぇええええ!!」

 全力で逃げていった。

 ついにソーニャ、ポリスさえ退しりぞけるようになったか。

「さて、大助……」

 ソーニャは、再び四つん這いになり、

「ポリスは去りましたし、特訓続けマスか」

「お前、大物だな」

 そんな所も、好きになってきちゃったよ。






後書き:モチベーションにつながるので、

面白かったら作品の目次ページの、レビュー欄から

☆、レビュー等での評価お願いいたします


 あと、今年ファミ通文庫から発売された

『朝日奈さんクエスト〜センパイ、私を一つだけ褒めてみてください〜』

 それに僕が原作を務めた漫画『香好さんはかぎまわる』

 も、よろしくお願いします

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