第28話 マッチョ・エルフ
リュウと会うのも久しぶりだ。
相変わらず、オンラインだけど。
久々にKAIJU忍者にログイン。
肉体は小汚い部屋においたまま、精神だけファンタジー空間に移動する。
待ち合わせ場所はギギギの森のエントランス、妖怪の棲むエリアだ。
昼なおくらい森の入口、曲がりくねった木々と葦の茂った小川が迎えてくれる。
有名妖怪漫画を思わせる情景だ。
点描っぽいタッチの霧が漂い、ゲッゲッゲと蛙が合唱。
運営へのお便りを入れるポスト前に、美女が立っていた。
長身で透き通るような白い肌、尖った耳にさらさらと長い銀髪。
俺に気づいて顔を上げ、長いまつげを震わせてウインク。
背中には大きな弓を背負っている。
全体的な印象、細かい特長はエルフだが、森の精はもっと華奢で生命力の弱いものなはず。
割れた腹筋に逞しい肩と二の腕、顔の幅より太い首を見ると色白なアマゾネスにも見える。
弓も矢も、近づいてよく見ると重そうな金属製だし。
これ、エルフ考証としてはどうなのか。
あの種族は非力だから、木製の弓矢を使ってんじゃなかったっけ。
エルフはいぶかしげな俺に向けて、ニヤリと微笑む。
「どうだい、我こそは森の精。森の奥深くで、山の幸、川の幸をもりもり食って健康的に育ったマッチョエルフなり」
清らかで高い少女ボイス。
そこだけは従来のエルフイメージなのね。
そういや、現実のリュウはボディビルが趣味なんだった。
エルフの姿で次々にポージングを取る。
「サイド・トライセップス! バック・ダブル・バイセップス! モスト・マスキュラー!」
ポリゴン増量のナイスバディーが躍動。
「ごぶさただな、メイジ! ふんっ! 晴れ舞台はネット配信で見させてもらった~…ぞ!」
「会話するならポージングはやめてくれ。しかし、また金のかかってそうなアバターだな」
「ガチャとカスタマイズで高級自転車一台分かな」
「高級自転車は普通の自転車何台分だよ?」
「普通の自転車なんざ買わんからわからん」
ともかく、強力な妖怪がひしめくエリアだから、高額装備の相棒は心強い。
たまにしかログインせず、ガチャもほぼ回さない俺がそこそこのレベルに達しているのはリュウのおかげだ。
「それじゃ、いくか」
森に踏み入ると、さっそく地面にぼこぼこと穴が開き、骸骨どもが這い出してくる。
リュウはあせらず、弓の端を両手で握り、ゴルフクラブの要領でぶん回す。
襲い掛かかる骨どもは次々に砕けて宙に舞う。
飛び散る骨片の中、骨の砕ける音を小気味よく鳴らしながら進むマッチョエルフ。
俺はその後ろをついていくのみ。
ザコドクロをなぎ倒した先には巨大ドクロが仁王立ちしていた。
エルフは弓を背負い直し、ボクシングスタイルに構える。
腕をぶん回して殴ってくる巨大ドクロの拳をくぐり、ローキックの連発からボディにパンチを連打。
かがんだ所にジャンプしてアッパーカット!
膝をついたデカ物のこめかみに至近距離で握った矢を突き立てる。
巨大な頭に刺さった矢を掌底で押し込み、ドクロの命は完全に断たれた。
うん、強い。
けど、これ、エルフの戦い方ではないよね。ま、いいけど。
森の奥に進むと、日本のそれとは微妙に違う妖怪が次々に出現してきた。
オリジナルを知っていると頭を抱えたくなる。
艶やかな着物姿で現れたのはおキク、刃の付いた皿をフリスビーのように投げてくる。小銭を投げるおっさん妖怪ゼニガタとペアだ。
けもの萌えな美少女ネコマタ。モノリスに目鼻のヌリカベ。
三本の長い首をくねらせて、口から怪光線を出すろくろ首。
井戸から出現してイグアナのように四つん這いで近づいてくる幽霊サダヨは黒髪に白装束に目玉ギョロリ、絶対に版権グレーだろ。
基本は接近戦で弓による殴る蹴るで妖怪を蹴散らす超健康体エルフに頼りっきりで、ギギギの森は難なくクリア。
森外れのうどん茶屋タンガンで一休み。
店名に偽りなし、店員は全員一つ目小僧だ。
テーブル席に座り、名物単眼モチで一休み。
ぷるんぷるんとした目玉の中央に楊枝を刺すと中から苺シロップが溢れだす。
「ライブを見たぞ、この人気者。よかったな」
「何もいいことないよ。道歩いてておばちゃんに握手されたり、女子高生に笑われたり」
「ウラノスのストックオプションとか貰ってんの? 化けるって噂が飛び交ってるぞ」
「株なんかないさ。ギャラはいいけどね」
「全国ツアーの企画をやったんだろ? 俺だったらギャラとは別にインセンティブで株の交渉をするがな。誰のアイデアで成功したんだってことじゃん」
誰のと言えば、ネットに落ちてた色々な人達のなんだけど。
「俺が掴んだ情報ではディーバ・サラが全米ツアーに鹿原をブッキングしたらしい。それにサイオ技術だっけ、米国政府は原油に代わる資源として目を付けてる。ウラノス株はどこまで上がってもおかしくない。政府筋からの与太話半分、投資家界隈の憶測半分って情報だけどな」
半分半分なら全部足しても真実はゼロですよ
「リュウ、どこで情報を仕入れてるんだよ。働いてる俺には何の噂も聞こえてこないぞ」
「おまえ、人付き合いが悪過ぎなんだよ。それじゃ、うまいネタは回ってこないぞ。俺を信じておけ。ウラノスのストックオプション、例の美人上司に言ってみなよ」
「ああ……あのさ、リュウ。変な話だけど、彼女は聞こえるらしいんだよ」
「うん? ああ、ひょっとして【声】か」
「そう」
「最近、増えてるからな。うちの社員連中にも何人かいるよ。聞こえる奴。でも、【声】はギャンブルと株、経営判断には役立たないんだと。そういうのは教えてくれないらしい」
「そもそも精神病とどう違うんだ」
「そりゃ、簡単。仕事や生活にプラスならノー問題。マイナスならお薬をどうぞってな。【声】によらず、酒もサプリメントも趣味も全部同じ。メリットとデメリットのプラマイで正常か異常かが決まるj」
「ケースバイケースか」
「法律もルールも全て、その場その場で臨機応変。しっかし、俺も【声】を聞いてみたいよ」
「株にも経営判断にも役立たずなのにか?」
「そういうのは、素の実力でいけるからさ。新たな可能性ってのを開きたいんだよ」
「おまえ、儲けすぎて退屈になってるんだろ」
「そうかもな。最大の楽しみがこのゲームってくらいに」
「笑えねえよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます