第9話 怪獣総進撃 

「緊急放送。緊急放送。街に怪獣が四体現れました。東西南北一体ずつ現れた怪獣が、街を破壊しています。地球防衛隊総動員で被害を最小限に食い止めてください。繰り返します。緊急放送……」


 地球防衛隊の基地の中で、隊員たちが慌ただしく動く。いつもよりも大きく鳴り響くサイレンを聞きながら、基地に駆け付けたダンキチが荒くなった呼吸を整えた。

 丁度その時、基地の廊下に設置されたスピーカーから、ゲン司令官の声が流れる。


「東西南北と合計四体の怪獣が現れる前代未聞な事態が発生した。地球防衛隊総力を結集して、怪獣を殲滅せよ。ダンキチ隊は東部、トシオ隊は西部、ゴロウ隊は南部、イサム隊は北部に急行し、被害を食い止めろ!」



 オペレーター室の無線を切ったゲンは、四十個に分割されたモニターに映り込む四体の怪獣を睨みつけた。


 東部に現れたのは、丸い赤ん坊のような風貌で、背中から虹色の蝶のような羽を生やした怪獣。その頭は二つに分かれていて、左右の顔は同じに見える。


 西部に現れた怪獣は、金髪ロングヘアの女性が巨大化したかのような見た目をしていた。目は白く、全身に赤い光が纏っている。


 南部に現れたのは、二足歩行の巨大な山羊だった。鋭く尖った角に、真っ赤な目が特徴的で、全身に黒い眼玉がいくつも取り付いている。


 北部に現れたのは、真っ赤な胴体の巨大なサソリ。両腕には大きく真っ赤なハサミがあり、鋭く尖った尻尾が風に揺れている。


 他のモニターの中で、多くの人々が避難所に向かって走り回っている。街ではとても大変なことが起きているのだとゲンが肝に銘じた時、オペレーター室の中で、次々と電話が鳴り響いた。


 その中で、一人のオペレーターが顔を上げる。

「ゲン司令官。大変です。前代未聞な非常事態を受けて、民間人がパニックを起こしています。避難誘導も大幅に遅れているようです。このままだと……」

 焦るオペレーターの声を聴き、ゲンは歯を食いしばった。

「多くの死傷者が出る!」と言い切るゲンの顔に焦りが宿った。そんな中でも、ゲンは街中で避難誘導をしている隊員に対して、無線を握り締めて呼びかける。


「緊急放送。緊急放送。避難誘導が大幅に遅れているという知らせあり。一分でも早く多くの人々が避難できるよう誘導を頼む!」


 このままでは、多くの人々が死ぬ。分かっているのに、未曾有の事態を終息させる方法が分からない。

 今頃、他の防衛隊員たちは、戦闘機に乗り込み戦っているが、あの怪獣たちを倒すほどの戦力はあるのだろうか? 


 司令官として仲間を信じるしかない。そう結論付け、モニター越しに戦闘を見守る。だが、怪獣出現から五分が経過した頃、オペレーターたちの顔が青く染まった。


「北部で怪獣と交戦中のイサム隊全滅」

「西部で怪獣と交戦中のトシオ隊全滅」

「南部で怪獣と交戦中のゴロウ隊全滅」


 相次いでオペレーターの口から伝えられた悲報が、ゲンの体に突き刺さる。そうして、司令官の体は崩れ落ちた。


「うわぁぁあああああああああああ。どうして来ないんですかぁぁぁぁぁ!」


 司令官の悲鳴が基地の中で木霊する。

 あれから五分も経過しているのに、あの巨大ヒーローは姿を現そうとしない。


「ウォーターブルータイタンこそ、怪獣の脅威から人類を救ってくれる救世主なのです!」


 不意にお昼のワイドショーで天雲コウタロウが語ったコメントがゲンの頭を過る。それに対して、ゲンは目を充血させた。


「何が救世主ですかぁ! 救世主なら、あの怪獣を早く倒しに来てください!」



 怒りと絶望の中で、ゲンの胸に一筋の希望が宿る。

 今も交戦中のダンキチ隊も全滅してしまえば、怪獣から民間人を守る手立てがなくなってしまう。

 ウォーターブルータイタンに怪獣を倒してもらうしか、この事態を終息させる方法がない。

 ゲン司令官は、巨大ヒーローの登場を願った。



「早く避難してください!」

 渡された拡声器でサトルが商店街の中で呼びかける。人々は、ゾロゾロと避難所に向かって駆け出していった。

 避難誘導開始から十分が経過しているにも関わらず、あの巨大ヒーローは姿を

現さない。一体何がどうなっているのだろうか? 

 そんな疑念が頭の中で渦巻いていく。そんなサトルの前に、銀色の隊服を着た男が近づく。


「サトル隊員。遅れました」

 その声に反応して、顔を前に向けると、ハヤトが頭を下げていた。

「ハヤト隊員、遅かったですね」

「みんなが戦っているのに、何もしないわけにはいかないでしょう。それで、避難誘導はどうなっていますか?」

「避難誘導……」

 

 その言葉がサトルの頭に引っ掛かる。それと同時に、ダンキチの口から語られた東馬セイジの言葉も蘇ってきた。


「コウタロウ。忘れるなよ。怪獣撃破に夢中になって、街のみんなに危害が及んだら意味がないんだ。本気で戦っていいのは、避難誘導が完了してからだ」


「緊急放送。緊急放送。避難誘導が大幅に遅れているという知らせあり」


「我が名は、ウォーターブルータイタン。使命はいつも一つ! セイジさんの意志を継ぐことだ!」



 いくつもの言葉が頭上を過り、点と線が一つに繋がっていく。

 その瞬間、サトルの中で真実の扉が開いた。


 真っ白な光に包まれたような感覚を味わった後、サトルの目が大きく見開く。

「ウォーターブルータイタン。まさか……」


「サトル隊員?」とハヤト隊員が首を傾げる。すると、サトルは手にしていた拡声器をハヤトに押し当てた。


「悪い。避難誘導任せた」


 そう言い切ったサトルは、ハヤトを置き去りにして、その場から駆け出した。

 全ては真実を明らかにするために。

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