第16話 コミュ症は辛い

 くそっ打つ手なしか……


 セバスちゃんが勝てる可能性0と言ってるから、勝てないんだろう。


 …………


 こうなったら得意のあの手しかない。


 …………


 全力で逃げる!


 逃げよう。逃げるんだ!


 "机でぼっち"を発動する。僕の存在が薄くなる。


 ドラキュもん 真・陰キャ術 その1

 "机でぼっち"

 通常時では気配を消すだけだが、ドラキュラの力を開放した状態では、気配だけではなく、存在を消す事ができる。辛い過去を思い出して、涙が出てしまうのは変わらない。多分、術の名前のせいだろう。


 どこにいるか分からなければ、銀の剣を当てることは出来ない。僕は急いでシオンのところに戻る。眷属が進んでいるためか、苦しそうだ……

 シオンの首元に噛みつき、再度、血を取り入れる。傷口が回復していく。シオンは、さらに苦しそうだ。血を取り入れたから、眷属化の更新は早まってるのかもしれない。ごめん。あと少しだから……


「セバスちゃん!僕の影の中に入れ。後は僕がどうにかする!」


「わかりました。マスター。シオンを必ず守りきってください」


 そういって、セバスちゃんは僕の影の中に入っていった。


 ヒューム社長の方を確認すると、そこには数え切れない銀の剣が空中に浮いていて、実験室を埋め尽くしている。僕が見えないから全ての空間に対して攻撃をするつもりだろう……


 でも、影の中にいる者には攻撃できない。


 ドラキュもん 吸血術 その10

 "影渡"

 影の中を自由に移動するアサシンの術。ドラキュもんが中二病にかかっていたときにマスターした。仮面女が使っていたものと同じ

 

 僕はシオンを抱えて、影の中に飛び込む。


 飛び込んだと同時に、銀の剣が一斉に飛んでくる。

 銀の剣は実験室にあらゆるものを破壊し、ビルの外壁にあるオリハルコンのガラスをも破壊した。外の冷たい空気が実験室に入ってくる。


 何という破壊力だ。ただの銀の剣が最強の強度を持つオリハルコン混入のガラスを突き破れるはずがない。何か特殊な材質を使っているのか……


 ただ、今の攻撃のおかげで実験室から外に出られる。


 このまま、影を移動してそのまま脱出だ!


 …………


 このまま逃げるのは、なんか腹立つ……


 あっと言われるようなことを、ひとこと言ってやりたい。


 僕はシオンを担いだまま、影から出る。


 ……


 くそう。思いつかない。とりあえず、相手がショックを受けそうなことを言ってやる!


「ヒューム社長なんか大嫌いだ!」


 稚拙な言葉をヒューム社長に向かって叫ぶ。


 ヒューム社長はこちらを見て、一瞬驚き、それから微笑みながら口を開く。


「それは残念だ。私はドラキュもんのこと好きだよ。ここまで困ったのは初めてだから、とてもわくわくする」


 全然、困った風には見えないのが、また腹立つ。


「覚えてろよ!」


 そういって、僕は実験室から外に出る。咄嗟に出た言葉がまた稚拙で嫌になる。コミュ症は辛い……


 あっここ、99階だったこと忘れてた……

 僕とシオンは地上900 mの空中に放り出される。


 ……


「ドラキュもんのバカ!!!!結局、死んじゃうじゃない!!!」


 腕の中にいるシオンが叫ぶ。


「あれっ眷属化してるんじゃないの?なんで普通に喋れるの?」


「誰があなたの眷属になるもんですか!いつドラキュもんが私を好きにしようと噛み付くかわからないから、眷属にならない予防薬をさっきの身支度のときに飲んでたわ」


 ううう……


「シオンのことも嫌いだ!」


「奇遇ね。私もドラキュもんのことを大嫌いよ!」


 地上まで600 m 僕たちは落ち続ける。言い争ってる場合じゃないのに……


「ヒーローって言ってくれたじゃん!」


「私のヒーローは逃げないわ。前面撤回ね」


 さっきは本当に思ってくれてたんだ。嬉しいな。


「ふへへ」


「本当に気持ち悪いわね……」


 地上まで300 m 僕たちは下降する。


「で、陰キャラヒーローのドラキュもんは、この状態をどうなされるおつもりですか?このままじゃ、地面に叩きつけられて、死んじゃうわよ」


「大丈夫」


 僕は一定範囲の重力を操れる開発グッズのグラビティちゃんを起動、重力を反転させ。下降スピードが一定になるよう調整をする。


 シオンと僕はゆっくり降下していく。ふふふ。シオンをお姫様だっこして、かっこよく着地だ。そう思ってたらシオンが口を開く。


「大丈夫そうね……ドラキュもん。ありがとう」


 きたきた!


 そう思いながら、僕は音を立てずに華麗に着地した。これは完全にかっこいいぞ!


「あなたのおかげで、助かったわ」


 はい。これっ完全にホの字ですわ。ここからは愛の逃避行の始まりです。


「さっさと離れてもらえる」


 そういって、僕の腕からそそくさとシオンは離れる。

 ですよね。分かっていますとも過度な期待は良くないですよね……


 でも、僕は不思議と満足感でいっぱいだった。


 そんな中シオンがいう。


「ミッションコンプリート。脱出成功だわ!やった!」


 ええー今、僕が言おうと思ったのに!!


「うっうん。良かったです…」


「さぁ、ドラキュもん逃げるわよ!」


 僕たちはメディペドから離れるため、走り出す。


 走りながらシオンが口を開く。


「これからどうするの?私は児童養護施設に戻りたいけど、狙われてる身だから、しばらくは隠れて過ごすわ」


「僕は、起業するよ!」


「えっ!?なんて?」


「起業する!」


「なんでそうなるの!?ものすごく目立つじゃない!!」


「逆に目立ったほうが、相手も手が出せないと思う。それと今回のことで思ったんだ。一度きりの人生したいことをしようって……」


「そう……」


「今、一番心残りなのは、ドラキュラが飲むの血液を作れなかったこと……この血液ができたら、もっとドラキュラと人間も仲良くなれるんじゃないかと思ってるんだ。シオンもまた狙われずに済む」


 僕は勇気を出して提案してみる。


「よ良よよよよかったらら、僕が作る会社で働きませんか?」


 僕が社長になるはずだけど、何故か下手に出てしまう。


「いいわよ。きちんとお金払ってね。やっぱりその奇抜な発想と行動力は気持ち悪いわね」


 と言いながらも、シオンの表情を見るとすごく嬉しそうだった。良かった。


 今度こそ、僕は君のヒーローになってみせる!


「ところで、ドラキュもん。設立する会社の名前はもう決めているの?」


 僕は、考えていた会社名を口に出す。


「もちろん!ドラキュラブラッド株式会社だよ!ドラキュラが飲む血液を製造販売する会社さ!」


 第1章 メディペド株式会社 完


 第2章 ドラキュラブラッド株式会社 に続く……

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ドラキュラブラッド株式会社 ~血液製作はじめました~ ペンギン @penguin_family

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