第15話 みんなのヒーローと私のヒーロー

 でも僕は……


「この会社生活の中で、僕にも人とのつながりが出来た。僕のことを認めてくれる人がいるってわかって嬉しかった。シオンやリリス部長だ。その人達がひどい目に会う事がわかっていて、それを止められるとしたら、僕はそれを……」


 僕の言葉を遮ってヒューム社長が口を開く。


「ドラキュもん。君は目の前の困ってる人を助けられればそれでいいのか。この世界には不幸から抜け出せずにいる人たちがたくさんいる。君の目に映る人以外は関係ないのか」


 ……そんなことはわかっている。


「社長ことずっと尊敬していた。同じ歳なのに、僕と違って多くの人を救おうと思ってる。例え、誰かを犠牲にして、自分自身が手を汚したとしても……僕にはそんな覚悟も度胸もない……」


「ドラキュもん。私も好きでこんなことをしているんじゃない。この事に限らず、全てのことにはトレードオフが存在するんだ。それを飲み込んで生きねばならないんだ」


 ……そんなこともわかってる!


 「でも、そのトレードオフの割を喰う一番最初の犠牲者はシオンじゃないか!僕はヒューム社長みたいになりたいと思っていた。でも、こんな事をしなければならないなら、僕は多くの人達を救いたいなんて思わない!社長みたいにみんなのヒーローにはなりたくない!」


 ああー最高にかっこ悪い。自分の無能さが腹が立つ。でも言わずにはいられない。このシオンに対する思いも独りよがりに過ぎないのに……


「僕はシオンを助けるのに精一杯だ。でもそれでいい。それがしたいことなんだから!」


 ……


「私とは考えが違うようだね。でも、私は私の思う正義を遂行しなければならない。優秀な君と仕事をするのは楽しかったよ」


 そう言うと同時に7体の迎撃ロボットと仮面女と同じ仮面をつけた人3人が実験室に入ってくる。

 ロボットはセキュリティルームにいたのと同じモデルのようだけど、マシンガンを持っている。


 シオンを守りながら、戦うのは難しそうだ。ただ、戦うしかない。

 幸いシオンは重要なサンプルだから殺されることは、ないだろう……


 そう思った矢先、シオンの方にマシンガンの銃口が向き、一斉に銃が発射される。

 くそっ血液生産能力の高い人間の量産化の目処がたっているから、シオンも殺す気か……

 僕はすかさず、シオンの前に立ち、銃弾を受ける。何発かは銀の弾らしく僕の身体を貫通するが、素早く実験室の物陰に隠れる。


 良かった。シオンは無事のようだ。でも、震えている。ごめん。僕のせいで……助けるつもりが状況を悪化させちゃってる……


 痛っ銀の弾で打たれたところから血が出る。


「私を助けようとしたばっかりにこんなことになって……」


 シオンは傷口に手を置く。


「私の血を吸っていいよ」


 血を吸われた人間はそのドラキュラの眷属になる。


「安心してドラキュもん。気持ち悪い貴方の眷属なんかにはならないから……吸わなきゃ死んでしまうわ。みんなのヒーローのなれないなんて、最高にかっこ悪かったわ。でも、私は思ってるよ。ドラキュもんが私のヒーローだって……」


嬉しくて涙が出る。


「ごめん。シオン。君のこと大切にする」


 僕はそう言ってシオンの血を吸う。この半年間、人間から直接、血を吸わないって決めていた。だから、シオンから採血した血を必要最低限飲んでた。久々に必要十分の人間の血が身体を巡る。


 黒髪が銀髪に変化していき、僕は完全に力を取り戻す。


「シオンはここにいて。すぐに終わる」


 シオンは頷かない。眷属化が進んでいるんだろう。もう少しすると、シオンの自我がなくなってしまう。眷属の状態が続けば続くほど、元の人格が破壊されていくといわれている。


 すぐに終わらせる!ソードブラックスミス!


 ドラキュもん 吸血術 その1

 "ソードブラックスミス"

 吸血した血から生成する剣 ブラッドソードを作り出す。ドラキュラの中でも高位の者しか習得できない。使われた血の特性をソードに宿す。


 僕は体内に取り込んだシオンの血を使い、シオン型ブラッドソードを作り出す。真っ赤な流線型を描く細身の剣。

 手に持つと、僕を守るように血の色のオーラが出てきた。


「セバスちゃん!そろそろ対策は出来てるだろう」


「マスター。時間がかかり申し訳ございません。電磁波に耐えうる内部構造に変化しました」


よし!準備は整った。普段おとなしいやつが怒ったら怖いことを思い知らせてやる!


「僕はロボットを、セバスちゃんは仮面の人間を処理してくれ。くれぐれも殺さないように」


 そう言って、僕は銃弾の雨に飛び出した。シオン型ブラッドソードに宿った能力を発動する。僕の周りにあるオーラが自動で銃弾を防いでいく。シオンの血液で作った剣は、人を傷つける特性ではなく、人を守る特性を持っている。


 ロボットに近づきながら、僕はソードブラックスミスを、再度、発動する。今度は僕の血を使う。

 僕の血で作ったブラッドソードは、ブラッドエクスカリバーと呼んでる。中学生の時につけた名前で、中二病甚だしいから、恥ずかしいけど結構気に入ってる。ただ単純にめっちゃ切れるという特性を持つ。


 右手にブラッドエクスカリバー、左手にシオン型ブラッドソードを持って、僕はロボットに斬りかかる。まずマシンガンを切り落とし、その後本体を破壊する。続けて残りの6体すべて片付ける。


 セバスちゃんも順調に敵を眠らせたようだ。



 残るはヒューム社長だ……シオンを傷つけようとした。許さない。


「セバスちゃん!ヒューム社長を眠らせろ」


 セバスちゃんの口から、睡眠針がヒューム社長に向け、発射される。ただ、ヒューム社長は何事もなかったかのようにしている。


「ドラキュもん。無駄なことはやめてくれ」


 僕はヒューム社長に近づきながら、シオン型ブラッドソードを解除し、両手でブラッドエクスカリバーを持ち直す。

 そして、ヒューム社長に斬りかかるが、何故か空中でブラッドエクスカリバーが止まり、それ以上、動かない。


「僕を殺さないんじゃなかったのか。やはりドラキュラは愚かだ。感情に身を任せ、人を殺めないという信念も一瞬で消え失せる。ここで殺しておいた方がいいな。君には失望したよ」


 ヒューム社長の手に何もないところから、長身の銀の剣が作り出される。銀の材質で出来たナノマシンか……ドラキュラ対策の武器だ。


 銀の剣から、距離を置かなければならない。僕は、ブラッドエクスカリバーを離し、距離を取るために、バックステップを取ろうとした。


 その矢先、バックしようとした空間から銀の剣が現れ僕の体を貫通する……

 くそっこれが本命か……ナノマシンだから、どこでも、物質を構成できるのか。


 僕は、急いで銀の剣を抜こうとするが、びくともさない。くそっ。


「マスター!」


 そう言いながら、セバスちゃんが体当りしてくる。その反動で剣から体が抜け、傷口から血が出る。痛みで意識が朦朧とする。


「マスター。危険です。瞬時に空間へ物質を構成されるため、何処から攻撃が来るか分かりません。あらゆるシミュレーションをしましたが、現状では勝てる可能性は0です!」


 くそっ……打つ手なしか……

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