第14話 それでも僕は……

 §§§ メディペド99階 実験室 ドラキュもん


「休日に何しに来たの?ヘラヘラして気持ち悪い」


 あれっ?"ドラキュもんのこと待ってたわ!来てくれると信じていた!大好き!"とか言う所じゃないの?


「セバスちゃん。このシオンの言葉もシミュレーション通り?」

「マスター。そんな簡単に女性の心を射止められると思わないでいただきたい!妄想甚だしい!」


 追い打ちをかけるようにシオンが口を開く。


「会社を無断欠勤したと思えば、急に来て、ぬいぐるみに話しかけて気持ち悪いわ」


 しゅん……結構、命懸けで助けに来ているんだけどな……


 気を取り直して……


「考えたんだ。どうしたいのか……その答えが出たから僕はここにいる」


「そう……]


 無断欠勤してからの一連の話、仮面女に襲われた事、リリス部長訪問の話、メディペド内での出来事をシオンに説明した。会社の状況を偵察して、シオンのシャワーを覗こうとしたところはもちろん除いている……


「シオン様。マスターは重要な部分をお話になっておりません。私に会社の偵察を指示し、シオン様のシャワーを覗こうとしていました。私が止めましたので大事には至っておりません」


「やめてーそこ重要じゃないから!」


「セバスちゃん。ドラキュもんから私のことを守ってくれてありがとう」


 シオンの方を見ると、軽蔑の眼差しで僕を見ている。


「いや、これは違うんです。いや、違いはしないんですが、魔が差したというか……あれなもんで……」


「あれってなによ。もういいわ。こんな話をしている場合じゃないし……どうやってここから脱出するの?」


「セキュリティは掌握しているから、エレベータでそのまま降りて、入り口の警備員はセバスちゃんの睡眠針で眠らせて、そのまま脱出だよ。簡単さ。でも、その前に採血くんの設計情報と遺伝子分析情報を消去しておきたいんだ」


「わかったわ。消去するまで、どれくらいかかるの?」


「10分もあれば、会社のデータベースに侵入して、過去のデータも消去できると思う」


「わかったわ。その間に身支度をするわ」


 そういって、シオンは部屋に戻っていった。鼻歌を歌っている。嬉しそうだ。


 僕も嬉しくなる。


 よし、設計情報から削除していくか。


 なんだかんだでこの半年間、この会社に勤めていたから出ていくとなると、少し寂しい気もするな。血液培養はうまく出来なかったけど、初めての会社で新しい経験はたくさんあった。こんなに一つのことに熱中したことはなかった。けど、やっぱり自分がしたい仕事をしないといけないな……


 よし、関連する全ての情報を消したぞ!


 次に採血くんを破壊しよう。今まで開発グッズを壊しことがないから、悲しいな。残酷な装置であることは変わらないけど、装置には善悪はなくて使用する側がきちんとしないといけない。これからはこんな装置を作らないようにしよう。

 装置の心とも言えるプログラミングが入ってるメインPC部は家に持って帰る。いつか違う形で復活させるんだ。よし。取れたから破壊するぞ。


 僕は、採血くんを破壊した……


 二度とこんな事にならないように……


「おまたせ!身支度できたわ!……採血くんを破壊したのね。今まで採血の時、痛くしないでくれてありがとう。採血くん」


「ありがとう。そう言ってくれて採血くんも喜んでると思う」


「マスター!長居は無用です。脱出しましょう」


「うん。そうだね」


 採血くんありがとう。


 僕たちは、実験室のドアを開ける。



 ……なんでそこにいるんだ。



 僕たちに落ち度はなかったはずだ。



 監視カメラとドアのセキュリティを誰にも気付かれずに掌握したはずだ。



 にも関わらず、そこにはヒューム社長がいた。


 いつもの笑顔を見せてる。


 この人は天才。いつも僕よりも先を行く。


「ドラキュもん。大切なサンプルを社外に出そうとするのは困るよ」


 ヒューム社長は普段通りの優しい口調で話してくる。

 僕はすかさず、セバスちゃんに指示を出す。


「セバスちゃん!社長を眠らせて!」

「マスター。体が動かせません」


 セバスちゃんの方を見ると、地面で倒れている。電磁波か何かで誤作動しているようだ。この状態では、全ての開発グッズが使えない……


「落ち着いて話をするために、少し手荒なことをしてごめん。ドラキュもんはなにか勘違いをしていると思う。僕は君が思ってるような事をしようとは思っていない。みんなを救いたくないのか?」


「話すことは何もない!僕はもう決めたんだ!」


 時間は夜8時、日は完全に落ちている。これならドラキュラの力を開放できる。


 僕はドラキュラの力を開放する。黒目が赤に変化し、牙が出てくる。


「ヒューム社長!そこをどいてくれ!どいてくれないと容赦はしない」


「それは困ったな。でも、もうエレベータは停止させたし、非常階段には迎撃ロボットを設置している。ここから脱出するには、僕を殺すしかない。今の君なら僕を一瞬にして殺せるだろう。でも、君は自分の正義のために人を殺せるのか」


「くっ」


 この人は何を言っているんだ。人殺しになりたくないから、シオンを助けようとしているんじゃないか!


「ドラキュもん。君は賢いから感情で物事を判断しないだろう。だから、僕のことも殺さない。君がなんでそんな行動を取ったのかは分かってる。君は私がシオンのような人を量産して、家畜化しようと思っているんだろう。でも、それは少し違う。血液培養が難しいとわかったときから、私もどうするかを考えていたんだ」


「……」


「聞いてくれるんだね。ある国の徴兵制度を知っているよね。一定期間、兵役の義務を課す制度だ。その制度を取り入れようと思っている。まず、血液生産能力の高い人間を生み出し、成長促進剤によって、1ヶ月で10歳まで成長させる。そこから18歳までは、血液を搾取される。ただ、その後は自由になれるし、その期間で儲けたお金はその人達に還元する。人生全てを奪おうとは思っていない。18年間不自由にはなるが、その対価は十分に支払う予定だ。自由になった後のことを考えて教育も行う。対価を支払うことと教育を行うことを約束する。世の中にはお金や知識を得たいと思ってもそれが手に入らない人が沢山いる。そんな世界の中で、彼らは他の人達よりも優位に人生を送れるはずだ。だれも困らない。」


「……」


 ヒューム社長の言っていることは、たしかに間違っていない。血液生産能力の高い人の量産化がスムーズにいけばいくほど、その人達の負担は軽減する。時間に対してお金を支払うのは仕事と同じだ。自分の価値の分、お金が支払われる。


「こんな道半ばのところで終わっていいのかい。この開発は最終的には誰も損しない。そのように進めることをここで誓おう。そのためには、ドラキュもんの力が必要だ。一緒に頑張ってはもらえないか」


「……」


「ドラキュもん。黙ってないで、なにか言い返しなさいよ!私は断固として拒否するわ!自由が奪われるなんて最低よ!その対価がもらえるってそんなことあるはずないじゃない。その間に出会う人とのつながりはかけがいのないものよ!お金では変えられない。この1年間、隔離されて生活してきたからそれが分かるわ」


……シオン


「シオンの言ってることも、なんとなく理解できる。でも僕はずっと仲間外れにされてて、ずっと一人で勉強ばかりしてたから、正直、人とのつながりについて、ちゃんとは理解出来ていない」


「ドラキュもん……」



でも僕は……

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