第13話 ヘラヘラして気持ち悪い
地下室の長い廊下を走りながら、いいねちゃんに話しかける。リリス部長に気付かれないように……
「いいねちゃん。今からエレベータで99階に行って、実験室に向かい、シオンを救い出す。どんな罠があるか分からない。危険だからリリス部長は一緒には行かせられない」
「そうなの!残念!」
いいねちゃん!声が大きい!元気なことはいい事ですが、今は少しボリューム下げてほしいです。
「うん。残念だけどね。だから、メディペドの1階に戻ったら……」
僕が一通り説明をしたら、いいねちゃんは理解してくれたようだった。これで一安心だな。
僕たちは1 kmもの廊下を走りきり1階に戻ってきた。
まず、セバスちゃんに連絡をする。
「セバスちゃん。セキュリティは解除した。僕のIDで全てのロックを解除できる。エレベータでシオンのところまで行くから戻ってきてくれ」
「マスターかしこまりました」
「いよいよシオンを助けられるわね!」
リリス部長はやる気満々だ……
でも、ごめんなさい。
「いいねちゃん。お願い。リリス部長を眠らせろ」
いいねちゃんから睡眠針が発射され、リリス部長の首元に刺さる。
「うっ」
リリス部長が倒れそうになるのを、腕で受け止める。
「透明マントくん!リリス部長を透明にして!」
何処からともなく、風が起こりリリス部長が透明になっていく。透明マントくんが来てくれたんだな。
「いいねちゃんと協力して、僕の家まで運んでほしい」
ブワッ風が起こり、リリス部長を受け止めていた腕が軽くなる。
「いいねちゃん。透明マントくん。後はお願い」
「わかったわ!ドラキュもん!いいねちゃんと透明くんにお任せ!セバスちゃんによろしくね!」
そういって、いいねちゃんは、僕の家の方向に飛び立っていった。よし。これで大丈夫だ。
しばらくすると、セバスちゃんが戻ってきた。
「マスター。お待たせしました」
待ってました!なんだかんだで、セバスちゃんがいると心強い。
「途中で、リリス部長といいねちゃんにあったよ」
「ああー知ってますよ。マイハニーのいいねとは、毎分お互いの状況を伝えあってるので」
アツアツカップルかよ。くそう…リア充しやがって……
んっ?というかそれだとセバスちゃんはリリス部長がシオンを助け出そうとしていることも知っていたはず……
「それだとリリス部長がメディペドにいること話ししてよ!危うく殺し合いになるところだったよ!」
「様々なシミュレーションをした結果、これが最も効率的でリスクが少ないと判断しました。リリス部長がメディペドに向かったことをマスターに伝えていたら、作戦を検討することなく助けに向かい、冷静に対処できなかったでしょう。現在、私のシミュレーション通りに事は進んでいます」
セバスちゃんは一体、どこまで先を読んでいるのか……僕はセバスちゃんの手のひらで転がされてるだけなのか……優秀すぎる。僕はとんでもないAIを作ってしまったのかも知れない……
「そっそう。ありがとう。よっよし!エレベータから一気に99階まで言って、シオンを救出だ!」
なんとも歯切れが悪い感じではあるか、僕とセバスちゃんはエレベータに乗り込む。これもセバスちゃんのシミュレーション通りなのだろう……
時間は午後7時。日が沈みかけている。
後少しでシオンを助けられる!
§§§ 同時刻 メディペド99階 実験室 シオン
はぁー大変なことになった。ドラキュもんを騙して、私を助けたいと思うように仕向けようと思ったけど、ついつい本音を言ってしまった。
私が人殺しと言ったから、ショックでドラキュもんは会社に来なくなってしまったんだろう。本音を言ったら私のことを助けてくれるかなって期待したのが馬鹿だった。
明日はちゃんと出社してくれるのかな?
ドラキュもんに酷いことを言ってしまったけど、本当はそんなこと思っていない。私はドラキュもんが優しいことを知ってる。だからこそ、苦しみながら開発をしていたドラキュもんを止めたかった。だって半年前からずっと血液単体の培養を頑張っていたから……
半年前、初めてあったときドラキュもんはヘラヘラした笑顔でこういった。
「僕が来たからにはもう大丈夫!」
変な奴が来たなと思った。私から血を取ろうとしてるのに、大丈夫っていうのが理解できなかった。その時、私のような血液が多く生産できる人間を量産して、家畜のように血を取る計画が進んでいた。ドラキュもんは、私を家畜化することを阻止しようと思ってたんだと思う。だから、採血装置の開発はせず、ずっと私の血液を如何に培養するかに時間を使っていた。私の近くで頭を悩ましてた。
毎日、朝の7時から24時までずっと……
3ヶ月ぐらい経って元気がなくなった日があった。多分、想定していた全ての実験がうまくいかなくて、血液培養が出来ない事がわかったんだろう。ドラキュもんは、実験室でずっと泣いていた。その姿を見て、なんとも言えない気持ちになった。自分がもう家畜となるしかないという事実があるのに、その時私はドラキュもんに苦しんでほしくないと思ってしまったのだ。
だから、私はこう言ってしまった。
「採血されるのが痛くなければ、ここの生活も悪くないわ」
それを聞いたドラキュもんはさらに泣いた。情けないやつ。なんで私が慰めてやらないといけないのよ。泣きたいのこっちよ。
次の日から、ドラキュもんは自動採血装置に開発に没頭していた。私を傷付けない自動採血装置を作るために……
でも、それはドラキュもんをさらに傷つけていることには代わりがなかった。私を家畜化するための開発であったから、その日からドラキュもんのヘラヘラした笑顔は見れなくなった……
そして今に至る。
ドラキュもんが会社に来なくなったら、私はどうなるのだろう……きっと、家畜となるしかないのだと思う。
もし、あの時、逃げ出したいと本気で言っていれば、"期待していない"ではなく、"お願い助けて"と言っていればドラキュもんは、私のことを助けてくれたのかも知れない。でも、悔やんでもしょうがない……もう、家畜化する準備は、ほぼ整っているんだから……
これから死ぬまで血を吸われ続ける地獄の日々が始まる……
そう思った矢先、実験室のドアが開いた。
ドアの方を見ると、初めて会った時のヘラヘラした笑顔でドラキュもんが立っていた。こっちを見て、目をキラキラさせている。何故かコウモリのぬいぐるみを抱えている。頭がおかしくなったのか……
そして、ドラキュもんはこう言った。
「僕が来たからにはもう大丈夫!」
半年前と同じ言葉……こいつは半年前から何も変わっていない……
優しいままのドラキュもんだ。
私は期待を込めて、言葉を返す。
「休日に何しに来たの?ヘラヘラして気持ち悪い」
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