第10話 オペレーション・ハタライタラマケ

 シオンを助けるにあたって、まず、現状把握をしよう。


 ヒューム社長は、理由はわからないけど、メディブラッドの開発を急いでいる。血液生産能力の高い人間を生み出し、家畜化してまで発売を急いでいるから、これは間違いない。

 そして、それをする開発工程はほぼ終わっていて、後の量産工程を構築をすれば発売できる。


 次にヒューム社長にリリス部長は邪魔な存在と認識されている可能性がある。というのもリリス部長はヒューム社長に血液培養が完成するまで、発売はやめてほしいと話していて、ヒューム社長の意向のは異なるためだ。

 そのため、ヒューム社長はリリス部長と僕が口を割らないことを気にしている。それは家畜化が非人道的な行為で、外部にその情報が漏れるとまずいからだ。そして、このタイミングで僕が仮面女に襲われた。これは、僕から情報が漏れることを防ごうしたんだろう。


 要するに、元々、血液生産能力の高い人間の家畜化でメディブラッドを量産しようとしていたヒューム社長は、必要な準備が整ったと判断し、非人道的な行為を知っている僕らが邪魔になった。そしてまず、仮面女を使って、僕を殺そうとした。


 ただ、ヒューム社長が僕らを殺そうとしてまで、メディブラッドの開発を急いでる理由はわからない。そもそも人間の会社がドラキュラとの共存を模索するような製品を出すこと自体が不思議でもある。ただ、今はその理由に対して、空想を膨らませている場合じゃない。


 何故なら僕が襲われるということは、リリス部長も襲われる可能性があるからだ!


「いいねちゃん!リリス部長を追跡し護衛して!」「それいいね!わかったわ!」


 すごく嬉しそうに、ハートマークの軌跡を描きながら、いいねちゃんは飛び立っていった。

 よし!いいねちゃんの戦闘能力はセバスちゃんとリンクして成長するから、護衛であれば問題ないだろう。


 現状把握とリリス部長を守るという緊急かつ重要な対応は完了した。ここからは、計画と実行を並行してしなければならない。何故なら、残された時間は今日一日しかないからだ!

 僕の暗殺か失敗したとわかった時点で、ヒューム社長は会社のセキュリティを強化し、僕を全勢力をかけて抹殺するだろう。仮面女を退ける戦闘力があることが知られたら、それこそ、僕が一番の危険因子になるからだ。そうなったら、僕は殺され、シオンは血を生み出す家畜となり、リリス部長は口封じに殺されてしまうだろう。僕がどうなろうと構わないけど、二人がそんな状態になってしまうのは許せない。


 ただ、メディペドからシオンを助けられる確率は限りなく低い。メディペドは眷属となった者を元に戻す薬や、ドラキュラに噛まれても従者にならない薬等のドラキュラにとっては都合の悪い製品を発売しているから、過去、組織したドラキュラ達に何度も襲撃されている。でも、自動迎撃ロボットと堅牢な守りで、一度も大きな被害が出たことがないんだ。


 しかも、シオンが囚われているのは、メディペド99階実験室。外壁はオリハルコンを混ぜた強化ガラスを使っているのと、外には迎撃ドローンが飛んでいるから、外から侵入するのは不可能だ。だから建物内から実験室にたどり着かないといけない。


 実験室までの経路は大きく2つ。エレベータあるいは非常階段だ。非常階段を使用するのは、脱出のことまで考えると時間がかかりすぎ現実的ではないため、エレベータを使う他ない。


 普段なら休日でもIDカードがあれば、実験室までノンストップで行けるけど、ヒューム社長の事だから、仮面女の襲撃が失敗したときのことを見越して、僕がエレベータを使用した瞬間、セキュリティが作動するようにしている可能性がある。セキュリティが一度でも作動すれば、一瞬にしてシャッターがかかり、自動迎撃ロボットが起動するから、そうなれば助けることはできなくなる。


 エレベータを安全に使うためには、セキュリティルームに行って、メディペド建物全体のシステムを掌握する必要がある。

 まず、セバスちゃんの単独行動で非常階段から、80階にあるセキュリティルームに侵入。セキュリティを掌握する。そして、エレベータを使って、実験室まで行き、シオンを救出。メディブラッドに関する研究・設計情報を全て破壊し、エレベータから脱出する。進め方はこの方法しかない。


「セバスちゃん!準備はいい?」

「紳士の身だしなみは、いつ如何なる時でも、パーフェクトであります。マスター!囚われの姫を助けに行くんですね!」

「うん。そうだよ。囚われの姫を助けにいくなんて紳士的でしょ?セバスちゃん」


「……マスター。そんな簡単に紳士になれると思わないでいただきたい!!」


 えっ!そこは、同意して紳士的に姫を助けましょう王子とか、言うところじゃないの……

 もういいや、とりあえずツッコむのも面倒くさいし……


「オペレーション・ハタライタラマケ……レディスタート!」


 かっこよく言ってみたものの、誰の反応もなく、ただその言葉は、室内に少し響いただけであった……ネーミングセンスないのかな?僕……

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