第9話 危険な奴の極み

「怒らないって言ったじゃないですか!」

「怒ってないわ。悲しくてビンタしただけよ……」


 怒ってないの?ビンタするのって怒ったからじゃないの?AIも難しいけど、女心も難しい……


「心配させてごめんなさい……」

「元気そうで良かったわ。ご飯は食べてるの?」

「はい……」


 うわーん。優しくて泣いちゃう。


「どぅぞょこぢらべ」


 僕は泣きながら、居間に案内する。居間といっても、ワンルームだから、テーブルとベットがあるだけで、セバスちゃんやいいねちゃんがいたりする。AI達は僕が招き入れたから、停止状態となっている。こういうこっちが指示しなくても色々察してくれるのがAIのいいところ。


「いっぱいぬいぐるみがあるのね」


 そういって、リリス部長は哀れみの表情を浮かべた。多分、僕が友達がいないから、ぬいぐるみ遊びで気を紛らわしているとでも思ってるんだろう。その推測、正解です……


「こっちはオスコウモリのセバスちゃん、こっちはメスコウモリのいいねちゃんです」

「名前までつけているのね……」


 リリス部長は、哀れみの表情で僕を見ている。ああーしまった!!20歳にもなる大人がぬいぐるみに名前つけてるなんて痛すぎる!!AI搭載で意思があることを説明しようー


「セバスちゃん起きて!リリス部長にご挨拶して!」


 セバスちゃんは微動だにしない。くっこの役立たずが!絶対わざとやってる!リリス部長の方を見ると哀れみの表情で涙をためている。


「ドラキュもん。友達がいなくて辛かったのね」


 そんな目で見ないで!


「なんか、怪我してない?」

「セバ……大丈夫ですよ!」


 セバスちゃんに襲われたと言いそうになった!動かないと思われてるぬいぐるみに襲われて、実際に怪我してるって、もう危険な奴の極みだと思われる……


「それならいいけど……」




 それからしばらくして、リリス部長は口を開いた。




「ドラキュもんがいなくなって、開発はほぼ止まってるわ」


 あんな開発は止まっていたほうがいいですよ……


「どうして会社に来なくなったの?」


 もう、苦しいんです……


「なんでも聞かせてほしい。心配してるんだから……」


 心配って僕のこと?心配される価値のあるドラキュラじゃないですよ僕は。


「みんなに認められるために頑張っていた事も知ってるわ。もうすぐで認められる成果が出るじゃない……」


 そうですよ。シオンを犠牲にしてみんなに認められようとしていたんだ。最低なんですよ僕は。


「優秀なことも知ってる。あなたが来るまでは悲惨な状態だったわ。それをあなたが変えてくれた……」


 違う。僕は自ら進んでシオンを窮地に追い込んでいるんだ。


「シオンも言っていたわ。ドラキュもんが来てから、ましな生活が送れるようになったって」


「……リリス部長は勘違いしてる。僕はそんなに良い奴なんかじゃない」


「ドラキュもん?」


「……僕はシオンを家畜にまで落とし入れようとしている。シオンのような人間を量産し、自由を与えず、ただただ、失神するまで血液を抜き、起こして造血剤を投与する。これを1日100回繰り返す。こんな酷いことをさせようとしているんだ」


「でも、血液単体の培養も進めてたじゃない」


「血液単体の培養は全然進んでいない……血液単体の培養は不可能なんだ……それで僕はその道を諦めて、みんなに認めてもらうために、比較的簡単なシオンを家畜にするような装置の開発を推進していたんだ!」


「なんでそんなことを……」


「みんなに認めてもらいたかったから……開発進捗が良かったら、リリス部長が褒めてくれたから……」


「……」


 リリス部長は黙ってしまった。きっと僕に落胆したに違いない。落胆させてしまってごめんなさい。


「ごめんなさい。嘘をついて」


 バシッ


リリス部長にビンタされた。でも全然力が入ってない。


「でも、少しずつ環境を良くしようとしていたのは、事実じゃない。まだ、やり直せるわ!先週、ヒューム社長には、血液培養が出来るまでは、本格的な販売はしないで下さいという話をして、ヒューム社長も了承してくれてる。ドラキュもんがいったようなことにはならないわ」


 もし、血液培養まで本格的な販売はしないとヒューム社長が思っていたら、シオンのような血液が多く生み出せる人間の量産化を指示しないと思う。ヒューム社長は血液生産能力の高い人を家畜化することで、メディブラッドの量産を考えている。だって、ヒューム社長は、血液培養が不可能なこと知っている。あの人は天才だから、今の技術だと血液培養が上手く行く可能性がないことをとうの昔に知ってるんだから……


「ドラキュもん。誰でも間違いはするわ。ひとつひとつ解決していきましょう」


「もう遅いです……ヒューム社長は、血液培養ではなく今の状態で発売するつもりだと思います……だから、僕が開発したせいで、シオン達が犠牲になる……」


「そんなことないわ。ヒューム社長はそんなことしない。ドラキュラの従者になった人を元に戻すという特効薬をつくった人よ。大勢を救うために、少数の犠牲が出てもいいなんて考えていないわ」


「そうだったら、血液生産能力の高い人間の量産なんかせずに、シオンの血液だけで研究開発を進めますよ。入社当時、僕は血液培養のみに注力するんだと思っていました。でも、採血する装置や人間の量産計画が推進されていて、すごい違和感があったんですから……」


 僕の話を聞いたリリス部長はなにか考え込んでいるみたいだ。


「もし、仮にそうだとしたら私達は間違ったことをしていたのかもしれないわね」


 といった後、リリス部長が泣きはじめた。思い当たる節があったのかもしれない。


「リリス部長は悪くないです。黙っててごめんなさい……」


 リリス部長はすぐに涙を拭いた。強い人だな。

 そうおもった瞬間、リリス部長は急に腕を振り上げて、思いっきり僕の頬を叩いた。バシッ!!痛い!腕っぷしも強い!


「じゃあなに!?あなたはそう思ったにも関わらず、何も行動せず、ひきこもっていたわけ!!ちゃんとしなさい!」


「僕には何も出来ないです……」


リリス部長は怒っている。


「明日ヒューム社長に事実を確認するわ!一緒についてきなさい!」


「嫌です。僕はこのままひきこもります」


バシッ!また叩かれた……


「……もう勝手にしなさい。いつまでもひきこもってぬいぐるみ遊びしていればいいわ!」


 そう言うとリリス部長は涙目になりながら、帰っていった。



 リリス部長さよなら。


本当はリリス部長と仲良くしたかった。一緒にシオンを助け出しましょう!とかっこよくいいたかったな。


でも、これ以上迷惑はかけられない。


 自分でしたことは自分で落とし前つけないといけない。自分のケツは自分で拭かなければならない。特に、この汚れたケツを拭けるのは、ケツも手も汚れた僕しかできない。

 ひきこもりも十分に堪能した。ぬいぐるみ遊びで鍛えた力で、シオンを救い出す!

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