第8話 無慈悲に襲いかかるもの

 無断欠勤 2日目 + 休日2日目

 ……


 ボコっ!


 ボコっ!


 ザクっザクっ


 ウィーンー


 ボコ!ボコ!


「うえっ!!」


 ウィーンー


 ボコ!


「ゴホッゴホッ。痛い!やめて!」


 ボコ!!


 ボコ!!!


「……あっマスター。気が付きましたか。計画通り、敵を紳士的に処理いたしました」


 そう言っていつもどおりセバスちゃんは右手と頭をさげ、もう片方の手は背中に回し、紳士的なポーズを決めていた。

 くそう。絶対、最後の2回攻撃は意識が戻ったのを知った上で殴ってる。腹立つ……

 僕の身体は痣や裂傷があった。これは仮面女ではなく、ほぼ全部セバスちゃんがやったんだろう……暴力的すぎる。僕に対しては、全然紳士的じゃない……


「もうちょっとマシな起こし方してよ……」

「なかなか起きなかったので……もうそろそろルーティンの時間なので、起きてもらわないと」


 意識を失ってから1日立ってたのか……


「襲われて起きたばっかりなのにルーティンやれってどんな神経してるんだよ!」

「マスター。災いはこちらの事情など待ってくれません。無慈悲に襲いかかるものです。その備えは常日頃から実施する必要があります」

「おっしゃるとおり」


 正論バカ野郎が!!お前が災いで一番、無慈悲だわ。


「仮面女は?」

「紳士的に処理しました」


 そうか……なんだかんだで、セバスちゃんは僕を守ってくれるんだよな。


 仮面女が僕の家を攻めようとした時点で、勝負は決まっていた。僕にとっては、家に入られようが、外で勝負が着こうがどっちでも良かったんだ。

 家の中にはセバスチャンを始めとした開発グッズがいっぱいあるんだから、中に入った瞬間、それらの開発グッズが仮面女に襲いかかるのは明らかで、勝負は見えてた。

 招いてもない家に入るなんて、ドラキュラとしてあるまじき愚策だったんだ。ドラキュラは"家の主に招かれないと家に入れない"っていう昔からの言い伝えを忘れちゃってたのかな?

 僕を殺すなら、まずは外に連れ出さないと……僕が家の中に引きこもってる限り、絶対に安全なんだよな。意識がなくなるのは、予想外だったけど……


「ミッションコンプリート。オペレーション・ヒキコモリ」


 セバスちゃんが、いつもの紳士的なポーズをしながらかっこつけて言ってきた。

 僕がかっこつけて、その言葉を言おうと思ってたのに!!!くそがっ!!


「ところでセバスちゃん。紳士的に処理ってどんなふうにしたの?」

「睡眠針で眠らせました。シロナガスクジラも一発で眠りに落ちるものです」


 睡眠針!!そんな機能つけていない!しかも地球最大種のシロナガスクジラってやりすぎでしょ……


「ああー睡眠針ですか?さっき寝てる間に、紳士的に敵を倒す方法を考えてみて、体内で生成してみました」


 AIはまじで恐ろしいです……何処かのタイミングでセバスちゃんを馬鹿に調整する必要があるな。


「うっうん。ありがとう。お陰で無事に済んだよ。睡眠薬だと仮面女はまだ、この家にいるの?」


 周りを見渡したけど、仮面女はいない。


「いえ、この家に置いておくと、マスターがいかがわしいことを企むので、仮面女の家に返しておきました」

「いかがわしいことなんてしないよ!よく住所がわかったね」

「仮面の女の顔を確認し、あらゆるネットワークに点在する仮面女の情報を集約、それらの情報から住所を割り出しました」


 大好きなアイドルの住所をSNSの背景から探し出すアイドルストーカーのようなことを平然とやっているセバスちゃんは、どこが紳士なのか……


「じゃあ、仮面女の顔データを保存しているんだね。今後のためにどんな相手か確認したいからみせてよ」

「トップシークレット!女性の寝顔をみるなんて、言語道断!」

「ええ〜困る〜じゃあ、住所教えてよ」

「トップシークレット」


 そう言って口の前で指を立てている。

 え~~困る~~~このコウモリ困る~~~僕の命に関わる重要な情報だよ〜めっちゃ腹立つわ!


「これから、仮面女はマスターを襲ってくるでしょう。実践的なトレーニングを加えられて良かったです。今度は、私がいない時に襲ってきてほしいものです。死が関わるトレーニングで得られる経験値は計り知れないですからね!」

「そっか。それで僕が死んじゃったら、セバスちゃんのせいだからな!」

「もし、それくらいで死んでしまったら、それまでの男だったということです」


 無慈悲コウモリが!!くそうっ!このままだといつかセバスちゃんに僕は殺される。とりあえず、いつ殺されるかわからないから、遺書を用意してセバスちゃんに殺されたと書いておくことにしよう……


 ピンボーン


 家のチャイムがなった。誰だろう?この社宅に来てから、はじめてチャイムがなった。


 ドアの覗き穴から、外を確認するとそこにはリリス部長がいた。休みの日なのに心配して来てくれたんだ。どうしよ。嬉しいけど、出たくない……


「ドアの近くにいるでしょ!シオンから話は聞いたわ!」


 げっバレてる……出ないと怒られる……


「リリス部長来てくれたんですね」

「とりあえず、家に入れなさい!怒らないから」


 絶対コレ。怒るやつ……僕、分かる……


「入れないと無理やり入るわよ!」


 無理やり入ったら、リリス部長が、僕の開発グッズの餌食になる!それだけは避けなければ!!


「怒らないですか?」

「怒らないわよ!心配してきたんだから……」


 リリス部長は人間出来てるから、怒られないかも……心配してくれてるのに、失礼だな。

 ごめんなさい。リリス部長。


「ごめんなさい。今開けますね」



 僕がドアを開けた瞬間、リリス部長がドアの端を掴んで、無理やり入ってきた。



「この心配させて!バカ!」



 僕は思いっきりビンタされた。



 案の定、怒られました……

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