外伝〜《勇者(偽)と勇者(真)最終回》〜嘘は一度つくとずっとつき続けなければいけない。その結果、勇者(偽)を何回もやらされるはめになったとしても〜

 そして、勇者を見つけてから2日が経った。つまりは、勇者返還の時がやって来たと言うことだ。


「ふぅ、緊張するな」


「だな。ちゃんとしろよ」


「任せろ」


 俺と勇者はそう言いあっていた。今回立てた計画は、エミーリオに正体がバレないようにするためのものだ。


「まず、『勇者返還』の魔法を完成させるまで、俺たちは部屋にいる。そして完成した時に、メイドさんが俺を迎えにくる手筈となっている。その時にお前がメイドさんについていけ。そうすれば『勇者返還』で帰れる」


「あぁ、そして僕とメイドさんが一緒にいる間に、君は城を抜け出して村へと帰る……完璧だね」


 互いに相手のやることを言い合いながら確認し合う。この作戦に穴はない。完璧にエミーリオと悔いなく別れられる。


「でもその前に……君はみんなと別れを済ませないとね」


「……あぁ。みんなと会えるのは、今日が最後だからね」


 まぁ王様の命令無視したら会えるんだけど、それだと俺の存在は何? ってなるから面倒くさいんだよな。やっば普通に村で生活する方が……良い!


***


「という訳だ。俺は日本に帰る。ここにいるメンツは一応親しかったのでな」


 俺はそう言ってアリアさん、ヘルティス、エミーリオの3人にそう告げる。3人とも、あらかじめ知らせておいたので、今ここで驚くような人はいない。

 口調はエミーリオも同席しているので、勇者ブシで喋っていた。


「……ゆ、勇者様……。本当に、帰ってしまうのですか?」


 エミーリオが泣きそうな表情で尋ねてくる。ぐぁぁぁぁっ! くっ、村に帰りたくない! ずっとエミーリオと一緒にいたい! でも無理!


「あぁ、我がこの世界に存在する役目は終えた。あとはお前たちが自分でどうにかする番だ」


「エミーリオちゃん、私たちも寂しいのよ。でも、勇者様には別の世界に家族がいるの」


「えぇ、勇者様を困らせてはいけませんよ。勇者様のことを思っているのなら、尚更です」


 ヘルティスとアリアさんが援護射撃をしてくれた。二人ともエミーリオの前だから勇者様と呼んでくれる。


「……お兄ちゃん」


 帰りたくなぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!! なんなの!? まじでなんなのあの豚王!!!


「最後に……ギュッとしてください」


「それでエミーリオが諦めてくれるなら」


 俺はそう言ってエミーリオを抱きしめる。暖かな温もりがあった。


「そのまま、頭も撫でてくれますか?」


「あぁ」


 手をエミーリオの頭に伸ばす。優しく撫でる。


「お兄ちゃん……好きだよ……!」


 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!?!?!? 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!! 絶対に帰りたくねぇぇぇぇぇぇっっっ!!!

 エミーリオ泣いてるもん! 俺も泣きたくなってきたぁぁぁぁぁっっっ!!!


「エミーリオ……最後はやっぱり、笑顔で見送って欲しい」


「っ! ……うん!」


 エミーリオは俺の言葉を聞きハッとした表情を浮かべた。そしてゴシゴシと涙を拭き、にっこりと笑顔でそう頷いた。


「アリア、最初から最後まで、本当に助かった」


「いえ、モブさ……勇者様の助力となれたこと、光栄の極みです」


 アリアさんが地面に手をつき、そう言った。今モブさんって言いかけたよね? この人危ないなぁ。エミーリオが今もいるってのに。


「そうか、我もお主と一緒に飯を食べたこと、一緒に戦ったこと、一緒に風呂に入ったこと、一緒に寝たこと…………」


 やばい! 後半二つは絶対に言っちゃいけないって言われたことだった!!! つい感極まっちゃった!?


「そ、そう……ですか。ありがとうございます」


 アリアさんが顔を赤くして後ろに下がってしまった。エミーリオとヘルティスがアリアさんの事をじーっと観察している。

 アリアさんは顔を押さえている。恥ずかしさで死んでしまいそうだ。


「ヘルティス、お主もアリアと同じぐらいの働きをしてくれた。感謝する」


「あら? 私は別にそんなに働いてないけど。でもそうねぇ、ご褒美が欲しいわ」


 はぁ!? 何言ってんだこいつ!!! お前にご褒美なんぞ絶対に渡さんぞ!?!? どうせ一緒にサウナ入りましょうとかだろ!? ぜっっったいに嫌だからな!!!


「アリアちゃんのこと、一回で良いから抱きしめてあげて」


「何故だ?」

《心の声》喜んでーーーー!!!!!


 アリアさんを抱きしめる? ヘルティス、お前がそんな事を言うとは……。何が目的だ?


「別に他意は無いわよ? エミーリオ様もよろしいですね?」


「うぅ……お兄ちゃんは、私のもの。ですが……仕方がないので、貸してあげます」


 エミーリオ、俺は君の物ではないよ。


「分かった。報酬だからな。なんでもしよう」


 俺はそう言ってアリアさんを抱きしめる。……もしかしてこのまま首でも閉められるんじゃ? それか拘束されて一生拷問部屋にでも!?!?


「……モブさん、好きでした。ずっと」


「……は?」


 アリアさんからの突然の告発。意味がわからずそんな声を漏らしてしまった。

 アリアさんのゴリラみたいな力で抱き返される。……あ、やばい死ぬ! ミシミシ言ってますけど!? 助けてヘルティスゥゥゥゥゥ!!!!


「青春ね」


 んな事どうでも良いから助けてぇっ!!!!! ……ギブ! ギブギブ! ギブです助けてぇっ!!!


「アリア、苦しいぞ。そんなに俺のことを求めているのか?」


「うなっ! そ、そんなわけないだろう!」


 俺の言葉でアリアさんが照れて俺を突き飛ばした。よしっ、なんとか死ぬことは免れたぞ!


「勇者様、時間です」


 ちょうど良くメイドさんがこの部屋に呼びにきた。


「……皆……感謝する。……ありがとうな」


 俺はそう言ってみんなと別れを告げた。その後、メイドさんに部屋に寄らしてもらい、勇者と入れ替わる。


「ばいばい、モルティーブ、君のことは忘れない」


「俺もだよ……」


 そう言って俺は勇者と別れた。勇者はメイドに連れられて行った。その間に、俺は見事城を脱出して村へと帰る馬車に乗った。

 その時、王城を綺麗な魔法陣の光が包み込んだ。


「……またな」


 勇者がこの世界を去った瞬間だった。そして、俺は村に帰り着いた。


「……村に帰ってくるのも久しぶりだな」


 俺は村の入り口近くでそう呟き、村の中へと入って行った。


***


 そしてそれから数ヶ月後。


「モブさん、あなたに魔王復活を目論む、魔王の息子の討伐をお願いしたい」


 アリアさんが尋ねてきて、俺に向かってそう言った。


「いやです」


 絶対に嫌だ! また命がけで戦うなんて、俺は死んでもごめんだ!


「では村人を皆殺しにーー」


「やらせて頂きます」


 俺はアリアさんの脅しに屈した。……エミーリオにまた会えるし、アリアさんとも一緒に居れると考えれば良いか。


「……ふふっ、それでこそモブさんです! 大好きですよ!」


「はは、そうですか、ありがとうございます。……俺もですよアリアさん。好きです」


 メイドさんが空気を読まなかったせい(ちゃんと言えた時間ぐらいもらえたのにチキった自分のせい)で言えなかった言葉を俺は今、やっと言えた。


 モブによる勇者(偽)の無双英雄譚はまだまだ終わらないだろう。


〜完〜

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異世界の勇者が魔王軍幹部に負けて逃げたので村人に代わりをさせたら、何故か本職の勇者より強かった件〜ゲスい村人の無双英雄譚〜 どこにでもいる小市民 @123456123456789789

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