ROUTE2 エコバッグを持ったお兄さん

『みゆりというのか。それで、どこへ行こうとしていたのか思い出せたか?』


「くろづるさん」という名前の黒いもやもやが、わたしにそう聞いてきた。


「うん、思い出した! わたしね、ちっちゃいワンちゃんをさがしてたの!」


『ワンちゃん? 犬のことか』


「うん。ケンタっていうの。いつも学校で会ってたのに、最近いなくなっちゃったの。でも、さっきちらっと似てるワンちゃんを見たんだ! それで追っかけてたんだけど、あっという間に見えなくなっちゃって……」


 すっごく足の速いワンちゃんだから、わたしの足じゃ追いつけなかったんだよね。


『そうか、追いつけるくらいの速い足が必要なんだな』


 くろづるさんって、わたしの考えてることわかるんだ。すごい。


『足の速い男を知っている。黒い服を着た18歳の男だ。今、小学校の前にいるから、事情を話して協力してもらうといい。何かの役に立つはずだ』


「うーん、でも……」


 知らない人、しかも男の人にお願いなんてできないよ。


『大丈夫だ、彼は信頼できる。じゃあ、がんばれ』


 そう言って、くろづるさんはふわっと消えてしまった。


 うーん、どうしよう。


 どっちにしても、ケンタは捜さなきゃいけないんだし。まず、学校の方に行ってみようかな。


 今日は早帰りの日だから、小学生はもうみんな帰ってる。いつもよりも静かな学校の前に、確かに、ひとりの男の人がいた。黒い服って、ジャージじゃん。


 その人は、買い物帰りらしく、何かが入ったエコバッグを片手にぶら下げてる。それから、なぜか学校の中の方をじっと見てる。まさか、不審者じゃないよね?


「……あのー」


 よく見ると、悪い人じゃなさそうで、しかもヤニーズにいてもおかしくないくらいのちょっとカッコいい人だったから、つい声をかけちゃった。


 でも、外見で女をだます男もいるんだし。わたしはちゃんと気をつけるからね!


「この辺で、小犬を見ませんでしたか?」


「小犬? 見てないけど。飼い犬がいなくなった?」


 このお兄さん、すごく心配そうに聞いてくれてる。でもでも、絶対だまされないんだから!


「飼い犬じゃないけど、見てないならいいです」


 さっさと離れようとしたのに、「ちょっと待って」と呼び止められた。何かあったら大声上げて逃げよう。


「飼い犬じゃないって、野良犬? いつもこの辺にいるのか?」


「いえ、いいです。ひとりで捜します」


「子どもひとりじゃまず無理だ。犬には捜し方がある。ちゃんと大人の誰かに話して、捜すべき場所を捜さないと」


「……」


 どうしよう。お母さんには、言いたくない。


 でも、そしたら誰に話したら……


「……くろづるさん」


 おもわず、ぽそっとつぶやいた。ただのなのに、なぜか全然こわくなくて、しかも「信じられる大人」って感じがする。なんでだろう。


「その名前、どこで?」


 お兄さんは、少しかがんでわたしと目線を合わそうとしてる。いつまでも、そらしてばかりじゃいられない。


 わたしは、思いきってお兄さんの顔をまっすぐに見た。


「何か事情があるんだな。ほかに話せる大人がいないなら、俺が話を聞いてもいいよ。少しは協力できると思うから」


 どうしよう。手伝ってもらった方がいいのかな……?



●・○・●・○・●・○・●・○・●・○


【どちらか選んでね!】


◆じゃあ、手伝ってもらっちゃおうかな?


⇒ROUTE4 「おりがくん」がおうちに来ました

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897049162/episodes/1177354054897222781


◆やっぱこわい、逃げる!


⇒ROUTE6 みゆり、空飛んじゃった!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897049162/episodes/1177354054897222930

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