第6話◇白南風(しらはえ)

 ひじを90度に曲げて左右交互に大きく振る。


 かかとから爪先まで足裏全部を地面につけるように歩く。


 1・2・1・2


 少し早めに歩き続けて30分。


 首から掛けたタオルが汗を吸収して温かくなってきた。


 1・2・1・2


 カチカチ、カチカチ


 ウォーキングシューズのヒモが跳ねる。


 真ん中に小島が浮かぶ大きな池のふちを歩く。


 1・2・1・2


 小島に繋がる石橋の前を通過する。


 池には緑色のはすの葉が重なりあって広がり、大きな桃色の蕾が長い茎の先で広がり始めている。


 1・2・1・2


 少し息があがってきた。


 池をおよいでいた鴨がバシャバシ飛沫しぶきを上げて飛び立つ。


 1・2・1・2


 1・2・1・2


 背筋を伸ばして腕を振る。


 梅雨明けした空に浮かぶ白い雲。


 爽やかな風が蓮の花の薫りを乗せて運ぶ。


 今朝も蓮の花が花びらを広げた。


 夏の午前中だけの楽しみ。


 1・2・1・2


 あと少しだけ歩いたら


 花が閉じる前にここから立ち去ろう。


 桃色の大きな蓮の花に見送ってもらえるうちに。

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