第5話◇すきま風

 狭い空間に湯気が浮かんでいるのを見て、まだ室内の空気が冷えてるんだなとぼんやり考える。


 水分がまとわり付き始めたせいで壁面の灯りの反射が鈍くなった。


 湯船の中で腕を左右にバシャバシャ振ると新しい湯気が立ち上ぼり、天井に届く前に消える。


 鎖骨の辺りまで少し熱いお湯に沈んでいるのでじんわりと体が火照って来た。


 額に汗が滲む。


 立ち仕事の疲れの理由わけはもちろん


 ふくらはぎを左右それぞれ指でマッサージすると水面が揺れた。


 深く大きく呼吸をすれば全身の力が抜けてズルズルとあごまで沈んでしまう。


 小さな窓の外で遠くクラクションが鳴った。


 日中の忙しさをふいに思い出す。



 次々訪れて下さるお客さまを座席へ案内。


 オーダーをキッチンへ通す。


 出来上がったお食事をお出ししてお水を追加。


 お帰りされたらテーブルの片付け。


 ひたすら繰り返し。


 休憩は好きなメニューを選べるので今日は明太子スパゲティ。


 職場の仲間とわいわいおしゃべりしながら食べた。



 ポチャン


 蛇口から垂れた。


 壁面の水滴も垂れて流れ落ちた。


 あ、今、ひとり。


 思い出していた賑やかな食事風景が一瞬で消えた。


 体は火照っているのに心がすーっと冷えた。


 だ。


 胸にすきま風が吹く。


 寂しいな……


 うん、次の休みは帰省しよう。












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