ばれた秘密は歪に

第10話 逆転

9月1日。2学期が始まった。

ずっと悩んだ上で、マリウスは血液型のことを隠し通すことにした。

もちろん友達が欲しいとずっと思っていた。

だが、言ったところで何になる?

ずっと見下してきた相手と、なかよしこよし笑いあえるのか?

…そんな自信、あるわけがない。

でも、もう孤独感なんてない。

5番隊という居場所があるから。




今日もマリウスは自転車で登校し、教室へ向かって全速力で走っていた。

というのも以前と違いマリウスは現在、クリムゾン本部の寮に住んでいる。

これまでと同じ時間で家を出てしまったため、また遅刻ギリギリの登校になってしまったのだ。


極力音をたてないように、しかし勢いよく扉を開けて教室に滑り込む。ほぼ無音で滑り込んだため、芸術点が期待できそうだ。


それと同時にチャイムが間抜けに鳴った。

ギリギリセーフ。短くため息をつき、マリウスは自分の席へ向かった。


(……………ん?)


何か、違和感があった。いつもと何かが違う。

その気持ち悪さの正体は、周りの視線だった。

今までは汚物でも見るかのような、冷ややかなものだったのに。今はまるでファストフード店にセレブが訪れたかのような、そんな感じ。


(まさか…。)


考えられるのは1つだった。

昨日のことで、あの3人組が変な噂を学校に流したのだろう。例えば、

「あいつクリムゾンに知人がいるから復讐されるかもしれない」とか。

マリウスは前までの冷たい視線には慣れていたが、今の視線はより一層居心地が悪いと感じた。


HRが終わり、足早にトイレへと向かう。別にトイレに行くことを我慢していた訳では無いが、この学校で完全に1人になれるのはそこしかない。


「おーーーーーい!!!!」


マリウスの背後から、聞き慣れた声がした。

ピンク髪のやけに明るい女性。カエデだった。


「ええええええ!?」


マリウスは首が飛んでいきそうな勢いで振り向いた。しばらく混乱で視界が洗っていないパレットのようにぐちゃぐちゃしている。状況が理解できた時には、目の前にいつものようにニヤニヤしたカエデがいた。


「ちょっと先輩!なんでいるんですか!!」


マリウスは驚きすぎて、変な声でカエデに叫んだ。


「?言ってなかったっけ。私、この学校の生徒だよ?色々頑張ってるしそこそこ知名度あるはずなんだけどなぁ…」


カエデは変な声で叫ばれたことと、知られていなかったことに対して少し怒っているようだ。腕を組んで大きくほっぺたを膨らませている。カエデは怒る時はいつもこのような仕草をする。


「す、すみません…知りませんでした…。」


マリウスはばつが悪そうにそう言った。


「全く…。まぁいいよ、ちゃんと言わなかった私も悪いからね〜。…あ、昨日友達が私たちがパトロールしてるところをみたらしくね、キミが強いとか優しいとか、いい所たくさん紹介しといたよ!」


「えっ…………!?」


(………………あんたかーーーーーーーーい!!)


マリウスの口から魂が飛び立っていく。

もう体はものけのからだ。


「あ、ちょっと私やることあるから、じゃあね!」


そんなマリウスの様子に気がつかず、カエデは走り去ってしまった。


「…どうなんだ僕の学校生活…。」


昇天しそうな魂がぎりぎり戻ってきたマリウスは、涙目でボソリと呟いた。

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