回顧-3

《条件を満たしていないためクラスチェンジできません》


 祝福のオーブに現れた【賢者】という未知のクラスにドキドキしながら、クラスチェンジをしようとしたところ、そんなメッセージが頭の中に流れた。

 そのメッセージは、音声として聞こえたような、文字情報として見えたような、どちらにせよ一言一句過たず理解できるものだった。

 レベルアップや魔法、スキルの習得時にも同じようなメッセージが流れるので、その声――あるいは文字――自体は馴染みのあるものだった。


「儂も長いことギルドにおるが【賢者】というのは聞いたことがないのう……」


 クラスチェンジに立ち会ったギルドマスターは、そんなことを言っていた。


「もしかすると、特殊クラスかもしれんのう」


 特殊クラスというのは、ある条件を満たすと現れるクラスのことで、【武闘僧】や【魔法剣士】なんかが有名だ。

 たとえば【武闘僧】は、【白魔道士】と【喧嘩士】のふたつをレベル15初級マスターレベルまで上げると表示されるものだ。

 【魔法剣士】は【戦士】と【黒魔道士】をレベル15初級マスターレベルまで上げると表示されるのだが、表示されたとしても【戦士】としてある程度剣術に長けていないと、さっきの俺のように条件不足でクラスチェンジを実行できない、ということがあるらしい。

 そのあたりの判断基準は曖昧だが、少なくとも【戦士】のあとに選択できる中級職が【重戦士】ではなく【騎士】でなければだめだ、といわれている。


「こちらで調べられるだけは調べてみるわい」


 その後、【賢者】についてはギルド総出で調べてくれたが、過去に記録はなく、新発見のクラスと認定された。


「新クラスだなんてことが周りに知れると、面倒に巻き込まれるかも知れないから、あまりギルドには近づかないほうがいいわね」


 当時は俺を気遣っての配慮だと思っていたが、情報提供報酬に気づかせないための言葉だったんだな。


 それからはひたすらレベリングの日々だった。


 クラスチェンジの条件がわからないので、とりあえず初級戦闘職をレベル15初級マスターレベルにするか、レベル20初級リミットレベルにすれば条件が満たされるのではないか、と見立てての行動だ。

 上級職の支援を受けながら、格上の敵と戦っての、いわゆるパワーレベリングというやつを行い、なにかのクラスでレベル15初級マスターレベルレベル20初級リミットレベルになるたびにクラスチェンジを試した。


およそ2年で、7つの戦闘初級職と、ついでに【荷運び】のレベルをすべてレベル20初級リミットレベルにしたが、知っての通り俺が【賢者】にクラスチェンジすることはなかった。

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