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■ 四章 ■


ただ、また会いたかった。


▼ フォックスアイランド ▲


翌朝。モガミの運転する――港に向かう――車の車内にて。


「いやぁ、しかしモガミっちの車に乗るのも久し振りだねー」と、後部座席でダラけた声を漏らすのはツムグだ。

「最後に乗ったのはいつだっけー?」

「……去年の秋、サークル活動で青森の恐山に行ったのが最後では」

「ああそぅそぅ。イタコ芸頼んだイタコさんがガチな人で、ヤバイの降ろして大変だったねー。観光客の殆どが悪霊に取り憑かれて大暴れしたり、近くの湖と空の色が血の色に変わったり……あれが地獄絵図っていうんだろうねー」

「イイナー楽しそう、僕もその光景見たかったなぁ」

「……それって、その時たまたま近くにイナリの母親……尾裂狐の狐花さんが居なかったらヤバかったって事件でしょ」と苦言を漏らすのは、ツムグの隣に座るユエちゃんだ。

「てかツムグも、話聞いてる限り戸沢先生に運転させてばっかじゃない。あんたも車と免許持ってるんだから運転しなさいよ」

「……違いますユエさん、私が自分から運転を申し出たんです。過去、ツムグにハンドルを握らせたら、決まって立ち入り禁止の禁足地ばかり強引に突破しようとして……」

「……何か、色々と申し訳ないわね」

「いえ……私も、新鮮な体験が出来たので」

「まさにウィンウィンな関係だねー」

「黙りなさい駄目姉。はぁ……本当にツムグと鋏は父さん似って感じね」

「なんかあらぬ角度から僕もディスられたけどまぁいいや。ユエちゃん、グミ食べる?」

モガミの隣、つまりは助手席に座る僕は――今更だがこの車は五色家の姉兄妹とモガミだけが乗っていて、イナリ達は別の車で港に向かっている――パカリとグローブボックスを開け、ギッシリなお菓子の中からグミを取り出した。

「……まるで勝手知ったるやって感じね」

「大丈夫、全部僕のお金で買ったお菓子だから(モグモグ)」

「なにが大丈夫なのよ。この姉と兄はどんだけ戸沢先生振り回してんの」

「ふふ……思えばこの四人でこの車に乗るのはあの日、長野で僕とモガミが『ちゃんと』知り合いになれた日以来だねぇ」

「何一人でしみじみ思いに馳せてんのよ」


――去年の夏頃。


姉とモガミがサークル活動で長野のとある村の奇祭を見に行ったその日……偶然、僕とユエちゃんもその村の近くでキャンプ――カサネんちこと蘇芳家と――を楽しんでいた。

ふと、祭り特有のピーヒャラ音を遠くから感じ取った僕は、川遊びからこっそり抜け出し、サンダルとパーカーと海パン一丁で音のする方へと向かった。

辿り着いたのは、絵に描いたような田舎の集落。村の中心には、昼過ぎだというのに轟々とたかれた巨大なキャンプファイヤー。その火を中心に、村人と思わしき者達が鬼の面を被り、グルグルと踊っていたのだ。

気持ち悪いなぁと思いつつ眺めていると、『……どうするんですかツグム』『あっはっはーこりゃやばいねー』

と聞き慣れた声がして……見れば、【見知った二人】が両手を縛られ、キャンプファイヤーの所にまで連れて行かれそうになっているではないか。

その後の展開は、容易に想像がつく。このままだとあの二人は、大方炎にくべられるマキ代わりとなる運命なのだろう。

そう、運命だ。変えようのない道筋。拘束された女子大生二人だけで大人十数人から逃げ切るには、相当な奇跡を信じねばならない。つまりは、ほぼ100パーセント、現状の打破は困難という事。【女子大生二人だけ】、ならば。

『ねー、僕もお祭りにまーぜーて!!』

『っ!? な、何だこのガキ!?』『何処から来た!?』『神聖な儀式の最中だというのに!』『ええい! 見られたからには仕方がない! この子供も我らが神【ミーシャ様】復活の贄となってもらうッッ!!』

『んー……あまり歓迎されてないようだねぇ。仕方がない。一人で勝手に【血祭り】開催といこうかな』

そんなこんなで、僕は謎のお祭りをぶち壊し……モガミと『再会』を果たした。


「……結局、あの後は警察も駆け付けて大変でしたね。村の中から百を超える人骨が見つかったものだから」

「毎年長野のあの付近じゃあ、キャンプに来てた人が行方不明になる事件が多発してたらしいわね」

「でもドキドキしたよー。邪神を復活? させようと目論む土着信仰の村だと前情報は持ってたけど、まさか自分が贄になるとはねーワッハッハ」

「もう、ツムグのせいで折角のキャンプが中止になって、蘇芳家と別れて帰る事になったんだからね。まぁでも帰りに食った長野のラーメンはうまかったなー」


血なまぐさい過去話で車内は盛り上がって……ふと、開いた車の窓からフワリ、潮の香り。海はもう、目の前のようだ。

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