17

――それから。ヒロインらが帰った後……五色家浴場にて。


「はい、では第一三二回五色家兄姉妹会議を始めまーす」

「わーぱちぱちー」

「またやるの……?」


二夜連続の兄姉妹による家族会議。勿論お風呂に入りながら。議題は今日起きた事。


「思うに。これはもう父さんと母さんに相談した方が良い案件じゃない?」

まずは末妹ユエちゃんからの先制正論。

「それは色んな意味で無駄だと思うんだよねぇ。あのママとパパは子供がした事に手は貸さないよぉ? 基本放任だよー?」

「マッマとパッパは既に現状に気付いてるだろうね。どちらにしろ、さっきも言ったけど僕は現状維持を望むぜっ」

「このダメ姉兄は……考えてもみなさい鋏。あの子達は、元は『それぞれの世界で貴方を独占してた』かもなのよ? ライバルの居ない平和な生活をしてたかもじゃない」

「うんうん、それで?」

「……そもそも、別世界のあんたは『あんたとは別人』でしょう? あの子達はあんたじゃなく、別世界のあんたに惚れたのよ。そんな女の子にデレられて嬉しい? 考えなさいあの子達の気持ちを。いくらフラグが無かったからって別世界から持って来ちゃだめでしょ。戻してあげるべきよ」


ふぅむ……ユエちゃんの意見には納得出来る部分もある。一人が一人だけを愛す。それは、とても綺麗な世界。

だから――僕はかぶりを振り、


「ユエちゃん。僕は、どの世界でも僕もだよ」

「は?」

「僕は、どの世界でも同じ様に振る舞い、同じ様にからかい、同じように口説く。僕は僕の事が分かる。君なら、僕が適当言ってないって分かるだろ?」

「……」

「君こそ考えなよ。それぞれの彼女達が来たのは僕との個人ルートな世界だろうけど、フラグが無かった他の二人は? 僕とのフラグがない……『僕と結ばれない』そんな世界、残酷だとは思わないかい?」

「……もう私からは何も言えないわ」


『鋏遣い』だったパッパ曰く――


運命の相手同士というのは【赤い縁糸】で繋がっているらしい。

死のうが転生しようが異世界だろうが、何があっても繋がりを保つ呪いのような赤い糸。

全盛期のパッパには見えていたようだが、僕はまだ力不足なので見えない。

そして……赤い縁糸が複数ある事は、『基本』あり得ないという。

今、未だ見えない僕の赤い縁糸は、誰に繋がっているのだろう?

願わくば。僕は『例外』であって欲しい。


「てか、もし他世界の彼女達がこっちの世界に来たってんなら、あっちの世界の鋏も黙ってないんじゃない? あんたと同じ性格だってんならさ」

「うーんその辺は大丈夫かな。あっちの世界には変わらずに彼女達は存在してると思う。だから、『僕を好きな気持ちだけをコピーペーストした』って感覚に近いのかも」

「その根拠は?」

「なんとなく」

「言うと思ったわよ」


「聞いて二人共ー。とりまー。さっきも言った通り、私は彼女達をいつでも元の世界に戻せるようにトライデントを調整しとかなきゃなんだけどぉ、それにはもっと詳細な彼女達のデータが欲しいんだよねー」


「データってのは?」

「ほらー、元の世界に戻すって言ってもその世界がどこかを知らないと駄目でしょぉ? だからぁ、出来るだけツル君にはあの三人と一緒に居て貰ってぇ、後でその遣り取りを教えて貰ってー」


姉の説明はよくわからんかったが、兎に角その集めたデータでヒロインらの元の世界の座標を検索出来るらしい。

まぁ僕は、ただひたすらにヒロインらとイチャコラしてれば良いだけのようだ。

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