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【トライデント計画】――


ツムグが長い間研究して来たプロジェクトの名だ(らしい)。


その計画の最終目標は、並行世界の観測……の更に上。並行世界の行き来。

姉は、この世界を『恨んで』いた。こんな世界は認めていなかった。だから、別の世界を目指した。


「ツル君の力とつるぎ様の一部を使っての『並行世界移動』の実験……それは昨晩、失敗したかと思ってたんだぁ。でも、どうやら。『君達三人を呼び寄せる』という、思わぬ結果がもたらされたっぽくてねー」

「……待て、話が読めねぇぞツムグ。今居るこのあたしが、別世界のあたしだと? 言っとくが、今の世界に違和感はねぇ。そのモニターに映るわけわかんねぇ世界に居た記憶なんざ、米粒程もねぇぞ?」

「だからぁイナリちゃん。並行世界の数はその一五あるモニターじゃ映しきれない、星の数程あるんだよ? だから君は、この世界とそっくりそのままな世界から来た可能性もあるのー」


マッドサイエンティストたるツムグは、首謀者の癖に、悪びれる様子もなく話し出す。


三人娘がこちらの世界に来た、とは言ったが、それは飽くまで仮定。

自分と別世界の自分が『全て入れ替わった』のか。

自分と別世界の自分が『意識だけ入れ替わった』のか。

自分の意識が別世界の自分に『上書きされた』のか……どのパターンであるかは、今も調査中だ。


「私はさぁ、今朝、『カサネちゃんの変化を見て』ツル君に一つ頼み事をしたんだぁ。同じ様な症状を抱えた子を見つけたら家に連れて来てーって」

「症状って……ツムグさん。カサネ達、どこも病気してないと思うけど……?」

「いんやぁカサネちゃーん? これは立派な疾患だよぉ? 私は経験した事無いけどさぁ……『恋』って、患うものなんでしょー?」


そんなこんなで――冒頭(プロローグ)に戻る。


カッチ……カッチと時計だけが響く居間。場には五人の女の子と、一人の男。


皆、様子を伺ってか口を開かず、冷めていく茶には――この家の人間以外――手を付けず、視線だけを動かしている。

そして時折、僕を見るのだった。


「帰って来てみれば、何やら面白い事になってたようね」


学園から帰って来たばかりの妹は、この現状を見て、着替えるよりも先に事情を知りたがり……説明した直後、深くため息を吐いて、

「ツムグ。つまり現状を纏めると……ここに居る女三人は、ウチの鋏の事を『男として見ている世界線から来た三人』、て事で良いのかしら?」

「ざっくり纏めるとねぇ。各々、細かい事情は違うんだろうけどさー」

「はぁ……全く。どうすんのよコレ。実験失敗よりタチが悪いじゃない。所詮、人間ごときが神の力をコントロールしようってのが烏滸がましかったのよ」

「科学に失敗はツキモノデース」

「開き直るなっ。で、戻せるあてはあるの?」

「え? 戻すの?」


姉妹の会話に割り込んだのは、長男たる僕だ。


「なに? 鋏はこの歪んだ現状を気に入ってるの?」

「そらそうよ。だってハーレムルートがあちらから舞い込んで来たんだぜ? もっと堪能したいんだぜ? 修羅場を味わいたいんだぜ?」

「なんて傲慢……まぁ、ある意味、神話の神らしい姿ではあるんだけども」

「多分だけどこの三人を呼び寄せた結果もツル君が『そう望んだから』、だろうねぇ。トライデントの舵取りはツル君しか出来ないしー(メモメモ)」

「はぁ、この兄姉は…………それで。一番重要な、当人たる貴方達はどんな結末を希望? 現状維持? 帰宅希望?」


急にふられた三人のヒロイン達は、それぞれ目配せをし合って、


「カサネは……みんな険悪になって喧嘩するとかは嫌だな」

「恋は戦争だぜ?」

「それツルちゃんが言っちゃうんだ……」

「つか、勝手に話を進めんなよ。あたしは確かに鋏の事を……こンなんでも信頼はしてるが、男として……てのは、笑えねぇぞ」

「そういうのいいからイナリ」「イナリちゃんツンデレだねー」「正直になれよぉ!」

「何だこの兄姉妹は!? あとどさくさに抱きついて来んな鋏!」


他ヒロインの目から放たれる言い知れぬ威圧感にもう少し浸っていたくはあったが、渋々イナリを解放。


「まぁ、今のイナリちゃんの話を信じると、『好きな気持ちだけ』が別世界からやって来たパターンもありそうだねー。とりあえず様子見っ。一応希望者は元の世界に戻れるようトライデントを調整しておくからぁ、それまでは普段通り過ごしててー」

「ツムグ……因みに、その調整後の成功率はいかほどを想定ですか?」

「頑張って一五パーだねぇモガミっちぃ。いや成功するかしないかだから五分かな?w」


科学者にあるまじき説明を半笑いでするツムグに、ヒロインらは余計不安そうな顔に。


「何はともあれぇ、いいかいみんな、事を難しく考えないでねー? この世界は元々、君達とツル君が『何でもなかった』世界だった。それが、『何か起きそう』に変わっただけだからねー」

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