第18話 ロリコンとストーカーの進展

「……俺はなんで呼び出されたんですか? 先輩」


 せっかくの休日だっていうのに……俺は咲良先輩に呼び出されてとあるカフェの個室にいた。

 なんかこのカフェすっごい高そう。


「すみません……実は翔也君のことで……」

「まあ先輩が俺を呼び出す用事なんてそれ以外ありませんよね」


 うっ!? このメニュー表……1野口以下の物が記入されてない!? 記入ミスじゃねえの? マジで!?


「それで翔也がどうかしたんですか? まさか別の幼女に浮気したんですか?」

「し、翔也君はそんなことしませんよ! 違います!」

「上手くいってるんじゃないんですか?」

「上手くはいってると思います。私が年上と知っても、翔也君は変わらない態度で接してくれてますし、この間も映画を観に行きました」


 ふむ。もしかして、俺惚気話をする為だけに呼ばれた?

 こんな高いカフェに?


「……実は、上手くいってるのはいいんですけど……どうにも決め手に欠けると言いますか……」

「と、言うと?」

「私としては早く翔也君が告白してきて彼氏彼女になりたいと思ってるんですけど……」


 んー……もしかしてだけど。


「翔也ってモテるけど、いつも相手からだったので、自分からどういけばいいか分からないだけなんじゃないですか? 受動的なヘタレ野郎ってことですね」

「翔也君は女性の扱いに長けてるように見えるんですけど……そうなんですかね?」

「それだと翔也が軟派野郎みたいな言い方ですね。あいつは幼女の扱いに長けてるだけですよ」


 あのロリコン顔がいいせいか、やたらと幼女に絡まれてる節があるし。

 公園に行けば大体幼女に絡まれる。

 まあ保育士や小学校の教師を目指してるだけあって子供の扱いが上手いらしい。


「あいつはやる時はやる奴、やらかす時はやらかすロリコンなので何も心配はいらないと思いますよ」

「そうだといいんですけど……あ、今日は呼び出したのは私なので支払いは私がします。お好きな物を頼んでください」

「いや、男が女性に支払わせるのは……」

「大丈夫ですよ? ここはうちのお店なので」


 ……うちのお店?


「……なるほど、おままごとの延長線上ってことですか」

「どうしてその認識になるんですか!? おままごとなんて幼稚園で卒業しましたよ! そうじゃなくて私の両親が経営しているお店なんです!」


 ということは……つまり。


「ここ先輩の家?」

「えっと……その認識であってます……はい」


 そっかぁ、カフェを営んでる人たちの娘さんだったかぁ。


「今までただのストーカーと盗撮が趣味の年齢詐欺だと思っててすみません」

「そんな風に思ってたんですか!? ……ぜ、前半は事実みたいなところがありますけど……」


 後半も事実なんだよなぁ……。

 1年も付き合いがあるのに咲良先輩の家がカフェだってことを全く知らなかった。


「翔也はこの事を知ってるんですか?」

「一応話してはいますよ。来たことはないですけど」

「……ふーん」


 俺はスマホを取り出した。


〈俺今、咲良先輩の家にお邪魔してるんだけど〉

〈大地もまさか真穂ちゃん狙い!? 奏多さんに言いつけてやる〉


 即既読が付いた上に逆に脅迫されたでござる。

 

〈落ち着け。そんな事をしてみろ? ありとあらゆる手を使ってでもお前に復讐してやるからな?〉


 何で俺、浮気を弁明してる彼氏みたいになってるんだ? 

 ……いや、でも……あいつ目のハイライト消して迫ってくるんだよなあ……あれ怖い。


〈ごめん、ちょっと取り乱した〉

〈ちょっと? まあいいや。先輩がとっとと告ってこいこのヘタレだってよ〉

〈本当に真穂ちゃんがそんな事を!?〉


 先輩の時もそうだったけど、こうやって強引に焚き付けてやらないと絶対進展しない。

 俺は本来当事者の気持ちを無視して勝手に人の恋バナで盛り上がる様な真似は嫌いなんだけどなぁ……。


〈とりあえず、今から先輩の家に来い〉

〈まさかご両親に挨拶を!? まだ心の準備が!〉

〈そうか、それに比べたら先輩に告白するぐらいたやすいもんだろ? あと話が飛躍し過ぎだ〉

〈そ、そうだね……よし、今から行くよ!〉


 まあ呼んだし、先輩にも心の準備をしといてもらおうか。


「先輩」

「なんですか? あ、もしかしてコーヒー苦いの無理ですか?」

「今から翔也がここに来るらしいです」

「え!? まさか両親に挨拶に!? ど、どうしましょう……心の準備が!?」

「うん、間違いなくお似合いのカップルですね!」


 まず付き合ってから言ってほしい。

 ……というか、付き合うも何も……あの出来事から1週間程度しか経ってないんだけどなぁ……。


「とりあえず、俺は邪魔になると思うので……帰ります」


 失敗とかしないだろうし、これで俺も胸につかえた物が取れるってもんだ。


◇◇◇


「あ、せんぱい。お帰りなさい」

「……ただいま」

「どこに行ってたんですかぁ?」

「咲良先輩のとこ」


 帰ってきたはいいけど……翔也たち上手くやったかな?

 

「本命の許嫁を差し置いて幼女に浮気ですか?」

「本命も何も偽物の許嫁すらいねえよ! するにしても幼女に浮気とかするか!」


 そんなことする可能性があるのは俺の知ってる中でも、1人だけだ。

 今は年上のストーカー系合法ロリの彼女が出来て絶賛幸せを噛み締めてるところだろうけど。


「おっ……連絡がきた」

「もしかして、遂に進展しましたか?」

「だと思う。俺が焚き付けたにしても早い進展だったな」

「まぁ、あの2人って両片思い的なアレでしたからねえ……じゃ、流れに乗ってわたしたちも!」

「……上手くいったらしい」


 結局惚気話を聞かされるって点には変わりないだろうけど、ひとまずはよかった。


「ああん! 放置プレイだなんて、これはこれでありですっ!」

「お前どうやっても喜ぶな!?」

「いつどんなジャンルでせんぱいに求められるか分かりませんから、SからMまで様々なプレイを勉強済みです!」

「その勤勉さをもっと別のとこに向けてくれ!」

「だいじょぶです! わたしこう見えて学年トップ5には入ってますし、スポーツテストも5番以内ですから! えっへん!」


 マジで!? 本当にこう見えてだぞ!?

 誇らしげに胸を張る奏多が何か別次元の生き物に見えてきた……。


「何か部活でもやってれば全国行けたんじゃねえか……?」

「うーん……興味ないですっ! わたしはせんぱいとさえ一緒にいられればそれでいいんですっ!」

「もったいねえなぁ……」


 ぴろん、とLINEが通知を知らせた。

 

「……幸せそうですねぇ」

「ああ、そうだな」


 送られてきたメッセージに添えられていた写真には、翔也の腕に抱き着いて幸せそうに笑う咲良先輩と腕を組まれ赤面しながらはにかむ翔也の姿が切り取られていた。


――僕たち、付き合う事になりました。

――ああ、そうかい。お幸せに。

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